10. お出かけの後
「フローラ達と随分仲良くなったみたいだな」
花の都へフローラと出掛けて数週間後、セフィロスがアイリスの家へ来てくれた。今日はエレノアだけ一緒に来ている。
「はい。色々な所に連れて行ってくださって、凄く楽しかったです。エレノアには大変ご迷惑をお掛けしてしまって......」
みんなでビアガーデンで飲んでいたら、エレノアと待ち合わせしていた事をすっかり忘れてしまっていた。あらかじめどこで食事をするのか伝えておいたので、心配したエレノアがビアガーデンまで探しに来てくれたのだ。
迎えに来てくれた時には4人ともすっかりぐでんぐでんに酔っ払ってしまって、それぞれの守護天使に迎えに来てもらい帰ったという次第だ。
あんなに酔っていても変身術が少しも解けないなんて、さすがはフローラだなと思った。
帰りの馬車の中で、気持ち悪くなって吐いてしまったのは言うまでもない。途中、森の奥深くへ入るために馬車から降りた時には、馬より反動の少ないエルピスを呼んで乗せてもらった。エルピスにものすごい嫌そうな顔をされたのは、記憶にうっすらと残っている。
「酒は飲んでも飲まれるな、ですよ!」
「はい、ごめんなさい。反省しております」
「次の日はアイリス様、二日酔いで死んでましたよね」
ジュノがいらない情報を提供してきた。
お酒に弱いという訳では無いけれど、二日酔いと言うものを体験したのは初めてだ。頭はガンガンするし、胸焼けはするしで大変だった。
「それなら自分の癒しの力を使って、治せば良かったのでは?」
「......! その手がありましたね!セフィロス様、ありがとうございます」
なるほど、気分が悪すぎて全然思いつかなかった。今度からそうしよう。
「花の都ではあの後、アイリス様の虫入りサラダ事件で持ち切りだったみたいですよ。怒って騒いでいたとか言う男性は『高位の女神様が気にせず召し上がるのに、なんて器の小さい男だ』って、言われているみたいですね」
それは何だかその男性に申し訳無いことをしてしまった。捨てるのがもったいないし、美味しそうだったから貰っただけだと言うのに。
「虫入りって言っても、ちゃんと取り出してから食べたわよ。それにしてもあのサラダ、本当に美味しかったなぁ。エディブルフラワーがたっぷりと使われていて、ドレッシングには多分、あれははちみつが入っていたんだと思うわ。食べているとまるで虫にでもなった気分になれるのよ」
「............」
セフィロスは何故か黙ったままで遠い目をしている。エレノアの方を向くと、代わりに答えてくれた。
「アイリス様、最後の例えがちょっと、ミスチョイスじゃないですかね」
「そうかしら」
フローラが紹介してくれたセリオンもヴィーナスも話しやすくて、タイプはそれぞれ全く違えど3人とも気の合う友だちと言った感じで羨ましい。
ヴィーナスはエレノアから聞いていた通りと言った感じの神で、若い天使の女の子と延々と恋愛話に花を咲かせていた。
セリオンはと言うと
「セフィロス様の事を『氷の神より冷たい』だなんて揶揄するけど、引き合いに出される私の身にもなって欲しいもんだよ。セフィロス様に会う度に変に意識しちゃうんだからさ」
と愚痴っていた。言われているセフィロス本人は全く気にしていないけど、セリオンの方が迷惑がっているようだった。
それからフローラは自分の意見を臆することなくきっちりと言えて、自信に満ち溢れる姿が眩しいくらいだった。
自分とは真逆を行くような性格は、羨ましい・妬ましいと言うよりはいっそ、見ていて清々しい気分にすらなる。自分には決して持ち得ることの無い、芯の強さと美しさを持つ女性だと思う。
そう言えば、とエレノアがセフィロスに話しかける。
「アイリス様にお渡しする手紙があったのではないでしょうか」
「そうだったな。アイリス、これを」
セフィロスが一通の手紙を取り出して渡してきた。
「ロキからだ。今度火の城でパーティーをするらしい。アイリスもどうかと招待状を預かってきた」
「ロキ様主催のパーティーですか? それは楽しそうですね。でも......」
ロキの住む火の城どころか、6層には行ったことがない。少しだけ外に出る事が出来たからと言って、ちょっと不安になる。
「私も一緒に行くと言ったら、行くか?」
「え? はい、それはもちろん行きます!」
セフィロスが一緒に来てくれるなら絶対に行く。
「それならアイリス様、私がちゃーんとドレスを見繕っておきますね!」
エレノアが胸をポンと叩いて、お任せあれと言わんばかりの表情をしてみせる。
「パーティー用のドレス、持っているわよ?」
「それって10年前に立神の儀で着たやつですよね?」
「そうよ」
「しかも切って詰めたやつ」
「ええ」
「セフィロス様、新しいドレス新調してもいいですよね?」
「......そうしてくれ」
この後エレノアに、身体の隅々まで採寸された。