8. 花の都(4)
大興奮して詰め寄るヴィーナスの首根っこをセリオンが抑えて落ち着かせてやると、今度は「あーぁ」とため息をつきはじめた。
「アイリス様は良いですねぇ。だって初めてのお相手をしてもらったの、セフィロス様ですよね? セリオン様もフローラ様も癒しの力を使える方にしてもらって良いなぁ」
「ヴィーナス、あんたまだそんな事言ってるの」
セリオンが呆れ顔で返す。
「だって、痛かったんですよ、ホント。ルナ様なんて今だにリアナ様に『なんで先に教えといてくれなかったの!』って愚痴ってますよ。もう20億年も前の事なのに」
「あの......一体何の話ですか?」
頭にハテナが浮かんでいそうな顔をしたアイリスが聞いてきた。
「初めて番った相手が誰かって話しよ」
この手の話は神にとっては別に、何にも恥ずかしがったりする事ではない。ごく普通に、オープンにする。
と言うのも、天使たちのように快楽に浸るためだったり愛情表現と言う意味合いよりも、神気の受け渡し方法としての役割の方が遥かに重要だからだ。
ルナの初めての相手はセトだったらしいのだがこれが痛かったらしく、20億年以上たった今でも先に言ってくれなかったリアナを恨んでいるらしい。
リアナいわく「痛いの私だけかと思ったんだもの」という事だ。
「初めての時って凄い痛いらしいわよ。わたくしもセリオンも、ルナ様に聞いていたから初めてのお相手は癒しの力が使える方にお願いしたの」
「そうなんですよ! 裂けると言うか、破れるように痛くて。それからしばらく番うの怖かったんですから。私は皆さんと違って下・中級神ですから、癒しの力を使える方となんて番えませんからねぇ。でも中には、褒賞で高位神の方と番える権利を貰うまで処女を取っておくなんて言う強者も、中にはいるんですよ」
優れた功績や実績を上げると、褒美として金品か高位神と番う権利を貰える。金品なんてどうとでも手に入るが、番う権利はそうそう貰えない。なので普通は後者を選ぶ者がほとんどだ。
「でもアイリスの場合、相手が誰だって変わらないんじゃない? アイリス自信が癒しの力が使えるんだから」
セリオンが冷静にツッコミを入れる。
「あ、そうでしたね」
ヴィーナスがコツンと自分の頭を叩く向かい側で、アイリスは何やら納得したような顔をして頷いていた。
「アイリス、何を考えているの?」
「あ、いえ。ノクトが、セフィロス様は初めての方をお相手することが多い、と言っていた意味はそういう事だったのかと思って」
「セフィロス様みたいな、淡白そうな方を選ぶ物好きも中にはいますよねぇ。まぁ見た目はもの凄く整っていてお綺麗ですけど」
ヴィーナスがしれっと失礼な発言をした。
かく言うわたくしも、そしてセリオンも、セフィロスとは1階級違いなので彼との間には子供がいる。
当然、数えられないくらい交わった事があるが、そんな遠い昔のことなんて覚えちゃいない。と言うか、セフィロスに限らず他の神との事だっていちいち覚えてない。
セトの様にピリピリ電流が走るような感覚のする神気を持っている、みたいなのなら別だ。女神に限らず男神もこの刺激の虜になってしまう者は多い。
あとは余程身体の相性がいいか、妙な性癖でも持っていなければ記憶に残らない。セフィロスとの事を覚えていないのは多分、取り立てたトピックはなかったということだろう。