4. お茶会@花の神殿(2)
「引きこもりと言えば、お誘いをかけても断られるしあなたを見かけないって話だけど、何でなの? 陰キャって訳でも無さそうなのに」
これまたリアナが答えてくれた。
「誘いを断っちゃうのは、答えられない質問がきた時どうしようって心配しているから。外へ出掛けないのは迷子になるから。よね?」
「迷子?」
「前に虹の天使と2人で出掛けたら、迷子になっちゃったのよね、アイリス」
こくんと小さく頷く。恥ずかしくてもう隠れたい。
ジュノと一緒に出掛けてみたら、盛大に迷子になりセフィロスに見つけ出してもらったことがある。道を聞こうにも見渡す限りの草原で誰もいない。
今自分のいる場所にひと気はないとは言え、途中で姿を見られると困るかと思ってユニコーンのエルピスはやめておき、試しにエフティヒアを呼んでみた。
神獣や神鳥は心で念じれば、主が出す神気をたよりにどこにいても駆けつけてくれる。運が良ければ自分たちが帰ってこない事を心配した守護天使も連れてきてくれるかと思ったのだが、セフィロスがエフティヒアに道案内をしてもらいながら来てくれたのだ。
どうやら家に残った天使がセフィロスに、「アイリス様が帰ってこないけれどどうしよう!」と助けを求めていたらしい。
幸い魔物に会わなかったから良かったものの、それ以来、誰かに付いてきて貰わないと出かけなくなってしまった。
「どこへ行こうとしていたのよ、それ」
「アルタからフローナへ行こうと思って、地図を見ながら歩いていたんですけど。そんなに道も複雑じゃないし」
「ま、待って、その距離を歩こうとしたの?」
「地図ではすごく近く見えたので」
「地図ではって、縮尺という物があるでしょ。普通、馬車に乗っていく距離よ」
「はい......。セフィロス様にも全く同じ事を言われました」
フローラは呆れを通り越して、哀れみの目でアイリスを見だした。
「そういう訳で、フローラ。ちょっとアイリスを連れ出してあげてちょうだい」
リアナが急な提案をフローラに持ちかけ始めた。
「え、何でわたくしが? セフィロス様がいらっしゃるではないですか」
「アイリス、セフィロスと一緒に花の都に連れてきてもらった時、どんな場所へ行ったんだったかしら?」
花の都と言うのはフローラの管轄地の首都だ。セフィロスに初めて連れ出してもらった時に案内してもらった。
「最初はプロネーシス図書館に連れて行ってもらいました」
「ああ、あそこは天界の中でも貴重な本が沢山あるものね。行って損は無いわ」
「それからガーネット通りの市場に行って……」
「市場って、どこの買い出しの主婦よ」
「天使たちのお土産に、鍬が壊れかけていたので農具屋さんに行きました」
「鍬ってあなた一体、なんの話してるのよ」
市場は自宅では取れないような野菜やフルーツが沢山置いてあって興奮してしまった。
家に残った天使たちにお土産を何にしようか考えてみたら、そう言えば鍬が古くなって壊れかけていることを思い出して買って帰ったのだ。自給自足が基本の我が家では、農機具は重要品だ。天使たちはこれで畑仕事が捗るとものすごく喜んでくれていた。
最後に宝石を売る店にも立ち寄ったが、偽物を売る店で散々な目にあったので伏せておく。
「そんな感じです」
「は? それだけ?」
「はい、花の都で行ったのはそのくらいでしょうか」
「ウソでしょ」
フローラが驚愕の表情を浮かべている。
「女子に人気のピオーネ通りの雑貨屋や、生花を使ったアクセサリーが人気のマダムステラの店とか、パティスリー・ミリアのエディブルフラワータルトも食べずに帰ったっていうの?!」
とうとう両手で顔を覆って嘆き出してしまった。
そんなに残念がらなくても連れていってもらった時はすごく楽しかったし、私としてはセフィロスと一緒に出掛けられるなら正直、どこでもいい。
「ほらね。セフィロスに任せておくとこうなるのよ」
「ええ、セフィロス様が女心と言うものを分かっていないことがよーく分かりましたわ。」
アイリスにはよく分からないけど、2人はセフィロスに対する共通の認識を持ったようだ。
そんな訳で後日、フローラが花の都を案内してくれる事になった。