1. 久しぶりのお茶会
第1章から9年後のお話です。
女神たちによる女子トークをお楽しみください(∩´∀`∩)
「何それ、聞いてないわ」
あまりにも衝撃的な話に、花の女神・フローラは無作法にもカチャンっと音を立ててティーカップを置いてしまった。
「フレイ様とリアナ様との間に子供が出来ていた上に、もう立神済みで風の神と結婚もしているって?! どういうことなの?」
「私達もなぜ存在を公表されていなかったのか分からないし、結婚した意味もわからない。リアナ様が余計な詮索はするなって仰ったしね。その意味が分かるだろ?」
氷の女神・セリオンが真っ白な前髪をかきあげながら答えた。この女神がやると妙に格好よく決まる。
「それなら、だいだい何でわたくしにそのパーティーの招待状が来ていないわけ?!」
おかしい。そのパーティーの招待者は高位神とその守護天使だったと言う。上・上級神の自分が呼ばれていないなんて!
「それは多分、フレイ様とリアナ様共同主催のパーティーなんて言う招待状をもらったら、フローラ様が仕事をほっぽり出して天界に帰ってくると思ったからではないでしょうかね」
愛の女神・ヴィーナスがのんびりと紅茶を飲みながら答えた。
「たった……たった10年、地上に降りていただけだって言うのに、何でこんな事になっているのよ」
フローラは思わず頭を抱え込む。
そう、たったの10年。フレイとリアナの子供のお披露目が行われたのは、自分が仕事のために地上へ降りてから翌年の事だったと言う。
2層目の南を管轄地として治めているし他にも仕事は腐るほどあるので、天界に残ってもらった守護天使とは神鳥を使って絶えずやり取りしていたが、そんな事は1文字だって書いていなかった。
これは絶対リアナとフレイに口止めされていたな、と側で控える自身の守護天使をギロリと睨みつけると、花の天使たちはビクリと身体を震わせた。
「私たちも最上級神様達のご命令には逆らえませんよ。それに、フローラ様の命令違反もしていません」
天界に残っていた花の副・守護天使長がバツが悪そうな顔をして答える。
それはそうだけれど、どうにもムカムカとして腹が立つ。
「その虹の女神のアイリス様って、すっごくお綺麗な方だったんでしょう? いいなぁ、私もパーティーに行きたかったなぁ」
ヴィーナスが残念、と項垂れる。ヴィーナスは下・中級神なのでパーティーの対象者外だ。自分と同じ上・上級神のセリオンはこのパーティーに参加している。
地上から帰ってきて早々、久方ぶりに会う友人とお茶会をしてみたら、こんな話を聞かされたという次第だ。
「ああ、本当に美しい方だったね。光に当たると白銀がキラキラと虹色に反射してさ。その場に居た者達はみんな、『これでようやく三大美女神問題にかたがついた』って話題で持ち切りだったよ」
「どうだか」
ふん、とフローラは鼻を鳴らす。
三大美女神問題と言うのは最も美しい女神3人の事で、3人目が決まっていないと言う話。
三大美神と言われているのはフレイ、セト、セフィロスの3神。三大美女神はリアナとわたくし、ことフローラ。
そしてもう1人はと言うとそれぞれに推しの女神がいて、3人目が誰かを議論し合うのが酒場のお決まりの話題となっている。
「フローラ様の目は厳しいですものね」
くすくすとヴィーナスが笑う。
「わたくしはともかく、リアナ様と肩を並べようって言うのよ。中途半端なのは許さないわ。フレイヤはまだいいわよ、謙遜しているから」
美の女神・フレイヤは
「私は美しいものを愛でるのが好きであって、私自身が美しい訳ではありません。三大美女神なんて恐れ多いですわ」
と言って、謙虚な姿勢を崩さない。だからまだ許せる。
「それじゃあ豊穣の女神・デメテルは?」
「あれはただの乳でか女」
「芸術の女神・ミネルヴァ」
「やめてよ、あんな厚化粧」
デメテルは胸部ばっかりたわわに実っているだけ。完璧なスリーサイズのバランスを持つリアナと一緒にするなと言いたい。
ミネルヴァはもはや論外だ。自分の顔が芸術作品とばかり、化粧を塗りたくっている。リアナもフローラもスッピンだ。化粧なんてわざわざ施す必要なんてない。
「おおー、フローラは相変わらず辛口だね」
矢継ぎ早に提示してきたセリオンがくつくつと笑う。
かく言う彼女は切れ長の目に透き通るような肌、青い瞳と美しくはあるが、どちらかと言うとルナと同じでカッコイイ系だ。
ヴィーナスは愛の女神らしくピンクブロンドの髪にタレ目、やや丸みを帯びた輪郭で美しいと言うよりはかわいい系。どちらも美女神とはまた違う。
「そんな事より、とにかく、わたくしだけその虹の女神と会ったことが無いなんて耐えられないわ。紙とペンを持ってきて!」
こうなったらこの場で書いてやる! と、花の天使に手紙を書くための準備をさせる。もちろん宛先はリアナだ。
「でも私もお会いしたことはありませんよ。セリオン様から話を聞いただけで」
「私だって同じようなもんだよ。パーティーで会ったっきりさ。まーーーーったく表に出ない方みたいだから、目撃情報が極端に少ない」
目撃情報って、珍獣じゃないんだから。フローラは手紙を書き始めながらセリオンに聞く。
「お茶会や夜会には来ていないの? 噂の的になっているならみんな呼びたいでしょうに」
「アイリスへ送る手紙はセフィロス様宛にするように、だそうだよ」
「なるほどね。送りたくても送りづらい」
アイリスへの手紙はセフィロスの検閲が入るということか。
「でもただパーティーの招待状ならいいんじゃない? 変な内容じゃないんだから」
「何人かは出したみたいだけど、不参加の返事をもらったみたいだね」
「なら風の神殿へ行けばいるでしょ」
従者になったんだから、当然主の住む神殿に住んでいる。重要人物の来客対応は、妻か守護天使がするのが基本だ。
「これがまた、全然出てこないみたいだよ。9年前パーティーで会った時には、そんなに引っ込み思案そうには見えなかったんだけどね」
「ふーん。引きこもりのお嬢さんでないとしたら、セフィロス様が閉じ込めているかもって事ね」
「まさか。そんな事したら他の最上級神が黙ってないだろ」
「まぁいいわ。いずれにしてもリアナ様に頼んで、絶対に会わせてもらうんだから。よしっ、出来たわ」
フローラは自身の神鳥を呼び、書き上げたばかりの手紙を届けさせる。
「2人ともわたくしの報告、期待していて」
自信満々にフローラが微笑んだ。