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マイアが、たまには街へ出かけて息抜きしようと誘ってきてくれたので、今日は2人でデートだ。そう言えば、神殿で働くようになってから一度も外出していなかった。
風の都には風車が大小問わずあちこちにあって、風を受けて回っているのが見える。さすがは風の神の直轄地。天界に住むものは、この街のことを本来の名前とは別に「風車の街」と呼んでいる。
マイアと街中をプラプラと見て回っていると、どこからか香ばしい、いい香りがしてきた。ハーブ入りの塩をまぶした鶏肉を、炭火でパリッと焼いたローストチキンだ。
セフィロスが医療担当で薬草の栽培が盛んに行われているいるせいか、この辺りではこうしてハーブを使用した料理や飲み物が多いらしい。
匂いにつられてつい買ってしまった。露店で買ったものを食べられるように、広場にはイスとテーブルが置いてある。ここでおのおの、好きなものを買ってきて食べると言うわけだ。
席に座り食事をしていると、どこかで見覚えのある顔の女が目に入った。確かサボり癖があって辞めさせられた、片足の古傷が痛むだとか言う女だ。周りには、たった今知り合いにでもなったのだろう。酒を片手に、彼女の話を聞いている者が囲んでいた。
何となく気になって、その女の会話を耳をそばだてて聞いてしまう。
「そりゃああんた、ひどい目にあったねぇ」
「でしょう。体に不自由があっても雇ってくれるって言うから働きに出てみれば、これでもかってくらいこき使われんのさ。それで使えなくなったらポイ、だ。冷たい神だよ、セフィロス様って言うのは」
ハーブ酒を手にした髭面の男が、話に乗っかってくる。
「俺もこの間聞いたぜ。ある使用人の男で、そいつは健常者なんだが、頑張って働いているのに何で待遇が悪いんだって抗議したら捨てられたってな」
この男が話しているのは、この間ノクトにお説教されていた奴の事だろうか。だとしたら、捨てられたんじゃなくて自分から辞めたはずだ。
周りで話を聞いている者たちは、次々にセフィロスの悪口を言い合い始めた。
なるほど、こういう事なのか。クビにされた者は自分のことを棚に上げて、セフィロスの事を悪く言う。聞いた者も、権力者の悪口と言うのは耳に心地いい。
いつのどこの世でも、人というのは権力者の不平不満を言いたくなるものだ。そしてその人が見目麗しく完璧に見えれば見えるほど、粗を探したくなる。貶めたくなる。
一方で、セフィロスに対してよく思っている者は彼に懸命に仕えようとする。セフィロスはそうやって自分に仕えてくれる者には、家族ごと面倒を見てくれるのだ。
家族みんなで神殿の中で住んでいると、わざわざ街中で酒を飲んでセフィロスの事を褒めそやす。なんてことはしない。
あったとしても世の中は、他者を良く言う話より悪く言う話の方がよく広まるものだ。
そんな結論にたどり着いたエレノアは、無性に腹が立ってきた。つかつかと女の方へ歩み寄ると、動く方の左手で、バンっとテーブルを叩く。
「なんだい、あんたは」
突然やってきたエレノアに、女は驚きと、気分を害したような表情で聞いてくる。
「あんたこそ何よ。自分がサボっていたことを棚に上げて、そうやってセフィロス様の悪口言って」
「あぁ、あんたもしかして風の神殿の使用人か。サボってたんじゃない。私は足の古傷が痛むのよ」
女は足をポンポンと叩いてみせる。
「その傷がもう痛まない事くらい、セフィロス様はお見通しに決まってるでしょ。あの方は天界一の医術者であり神よ。天使のそんな嘘くらい、すぐに見破れるわ」
エレノアは歯を剥き出しにして、女に食ってかかる。 こういう奴が大嫌いだ。
「は?あんたは何様のつもり? 目障りよ。さっさと消えてよね」
その場にいた全員の視線を感じる。
負けない!もっと言い返してやりたい! そう思っていると、マイアが気まずそうな顔で袖を引っ張ってきた。もう行こう、と口を動かす。
こんな所で取っ組み合いなんてしても、片目片腕が使えない自分には分が悪い。エレノアは見える方の目で女を睨み付けながら、広場を離れていった。