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「それにしてもお前、よくもまぁ怯まずに、あのデカ物に突っ込んでいけるよな。あんな状況でも冷静だし、少しは怖いとか思わないわけ? 」
瓦礫に取り残されている者が居ないか確認しながら、ボアネルジェスがノクトに聞いてきた。
「そう言う君だって、タラスクの口の中へ突っ込んで行ったじゃないか」
「それはお前が、あいつの口を開けてくれてたからだろ。じゃなきゃやらねーよ。利き手が死んでるうえ、あちこちボロボロだったって言うのによくやるよ」
「そう? いつもセフィロス様に殺されかけているから、自分があとどのくらいで意識を失うのか、死ぬのか、何となくわかるんだよね。だからまだ余裕で行けると思った」
ノクトが酒場だったと思われる店を覗き込みながら続ける。
「アレくらいなら、セフィロス様の方が余程恐ろしいよ」
「……俺、女好きだけど、セト様の守護天使で良かったわ」
ボアネルジェスがボソリと呟く。
こうやってボアネルジェスと話していると、セフィロスが何故あそこまで厳しく稽古を付けるのか、分かった気がする。
あれはきっと、自身の守護天使が死なないようにする為だ。
守護天使は神と同様、不老長寿だ。「長寿」であって「不死」ではない。いくら頑丈になるとは言え、頭が胴と離れれば死ぬし、肉体の限界が来れば命を落とす。
セフィロスは生と死の境目がどこにあるのか、それを教えたかったのではないだろうか。あの方ならきっと、そのくらいの事を考えてやりかねない。
考えがまとまって納得すると、ポタリと涙がこぼれ落ちた。
「お、おい。どうしたんだよ急に。そんなにセフィロス様の所がキツイなら、他の神付きにして貰えよ。お前ほど優秀なやつなら、引っ張りだこだろ」
先天守護天使が自分を生み出した主を裏切って他の神に鞍替えするなんて聞いたことがないが、ボアネルジェスは慰めるつもりで言ってくれたらしい。
オロオロとするボアネルジェスに、ノクトはふっ、と笑って首を振る。
「違うよ、嬉し泣き。僕はセフィロス様以外に付く気はないよ。あの方以外、考えられない」
「そうか……? 変なやつ」
泣きながら笑うなんて、ノクトにしては珍しく表情豊かな様子を見て、ボアネルジェスはどうしていいか分からずまたもや狼狽えていた。
セフィロスは世間では散々な言われ方をしているが、本当は誰よりも優しく慈愛深い事を、5億年と傍で見てきたノクトは知っている。
そのくせ見返りを求めないから、自分が他者にどう思われようと気にしない。そんな主のことを、不器用な方だなと思う一方で、美しいとも思う。
そんな方だからこそ、付いていきたい。尽くしたい。
永遠に、この命が尽きるまで――。