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まだ残っている衛兵たちが果敢にタラスクに向かっていくが、なんのことは無い。タラスクにとって見れば、食べてください、と言っているような物だった。
ゲイザーはさほど強くはないが、動きが素早く、集団で攻めてくるのが面倒だ。対してタラスクは獰猛なものの、動きは緩慢。
そうなると、素早さで自分より上を行くボアネルジェスにゲイザーを任せるべきか。
――いや。僕ではタラスクの、あの甲羅や分厚い皮膚を切るのは難しい。
衛兵の剣や槍、弓を浴びせられてもほとんど傷がついていないところを見ると、風の力を乗せても致命傷を与えるのには、相当苦労するだろう。そうなると……
「ボアネルジェス。僕がゲイザーの気を引いて片付けておくから、君がタラスクの相手を先にしておいてくれるか?僕の風の力よりたぶん、君の雷の力の方がヤツには堪えると思う」
「りょーかい」
ボアネルジェスは返事をするや否や、手槍を片手にして飛び出して行った。
辺りはどんどん、炎に包まれていく。早く水系の力を操れる神が、援護に来てくれると良いが……。
ノクトも剣を抜くと、ゲイザー達の方へ向かって走る。
魔物と言うのは、より強い神気や神通力を求めてやってくる。今ここで一番強い力を持つのは、ボアネルジェスと自分だ。
ノクトの存在に気づくと、ゲイザー達が面白いように集まってきた。それを手当り次第、薙ぎ払っていく。
相手は空を飛べるが、ノクトは風の力を借りて多少は離れた相手にも斬撃を飛ばすことが出来る。1匹、また1匹と、地道に倒す作業を続ける。
ボアネルジェスはどうしているだろうと目を向けると、やはりあの硬い甲羅と皮膚に苦戦しているようだ。ただ幸いにも、電撃は多少は効くらしく、時折身体を捩らせている。
援護に来た衛兵の力も借りて、ゲイザーは粗方片付け終わった。残るはあの巨大なドラゴンだけ。
ノクトは残りのゲイザーを衛兵たちに任せて、タラスクの方へと向かう。
「あの糞、どうにも厄介だね」
ボアネルジェスの服や身体は、切り傷以上に焼け焦げた跡の方がひどい。アッシュグレイの髪も一部がチリチリになっている。
「ああ。とは言っても、水系の力を使える奴が来てくれないことにはどうにもなぁ」
「ボアネルジェス、君、ちょっとタラスクの気を引いといてよ。その間に糞の方を僕が何とかするから」
「何とかって、お前どうするんだよ」
「臭い物には蓋って言うだろ?」
ノクトはタラスクが壊した建物から、大人の頭ほどある瓦礫を掴んで見せる。
「は……?ケツの穴塞ぐってことか?」
ボアネルジェスはげぇー、と言いながら舌を出していた。
塞ぐほうを頼んだら、絶対嫌がると思った。
それにこれからやろうとしている作業は、彼より自分の方が向いている。
飛んでくる火の玉ならぬ「火の糞」を避けながら、素早くタラスクの後ろへ回り込む。
その間ボアネルジェスは、ノクトの動きを悟らせないよう、タラスクにちょっかいをかけていた。
タラスクは糞を飛ばす時、長い尾を持ち上げる。その瞬間が来るのを、ノクトはタラスクの攻撃を避けつつ、瓦礫を手に持って待つ。
あまり投げ損じると、タラスクにこちらが何をしようとしているのか分かってしまう。そうなると厄介なので、ここは風の力で軌道をある程度修正できる自分の方が適任だ。出来れば一発で決めたい。
タラスクがぐいーっと尾を持ち上げ始めた。
そこに石を空かさずタラスクの尻の穴に向かって高速で投げる。石は測ったのかと言うくらい、見事にタラスクの尻の穴にピッタリのサイズだ。
何が起こったのか分からないタラスクは暴れ始めた。尾をムチの様に振り回し、当たり構わず牙を向ける。
一度タラスクから距離を取ろうとしたところで、黒い物が視界に入ってきた。
――ゲイザーだ。
そちらに一瞬気を取られているうちに、タラスクの尾を横殴りに受けて吹き飛ばされてしまった。
視界がクラクラする。右腕がやられてしまったらしく激痛が走り、使い物にならなくなってしまった。
(足は無事だな。)
ノクトには、自分の体力があとどの位あるのか、どの程度の怪我なら耐えられるのか、残った体力でどの位の攻撃を出来るのかがハッキリとしていた。
セフィロスに毎度、殺されかけるまで稽古を付けてもらっているおかげで、自分がどの程度になると死線を超えるのか分かるのだ。
タラスクが口を大きく開けて暴れている。尻から糞を出せずにもがく様は傍から見るとかなり滑稽だが、タラスクがやると被害が甚大なので笑えない。建物が次々と盛大な音を立てて壊されていく。
剣を鞘にしまい、ボアネルジェスの位置を確認すると、タラスクの頭の上に飛び乗る。
そして口を開けているタラスクの上牙を残った左腕で掴むと、後ろに仰け反らせるようにして引っ張り上げる。
「ボアネルジェス!!!」
ノクトが叫ぶようにして呼ぶと、ボアネルジェスはあんぐりと開けたタラスクの口に手槍を突き刺す。舌を貫通して下顎にまで達した手槍に、ボアネルジェスは雷の力を乗せて一気に放電する。
ボアネルジェスが何をするのかあらかた予想が付いていたノクトは、自分が感電しないようにパッと手を離し着地した。
先程まで猛烈に暴れ回っていたタラスクは、プスンっと音を立てたかと思うと、足から崩れ落ちた。いくら甲羅や皮膚が頑丈でも、体の内からの攻撃には耐えられなかったようだ。