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本編を書く前に、世界観や人物像を固めるために書いたお話を2つ投稿します。
周りには死にかけの天使達が転がっている。残るのは自分だけだ。
ノクトは微かに残っている力を振り絞り、主に向かって剣を振り下ろす。
その切っ先はあっさりと軌道を変えられ、ノクトは身体に鋭い痛みを感じた。――その後は覚えていない。
気がつくと、自分も他の天使もピンピンしている。ただし、服はあちこちが破れ、血で赤黒く染っている。
「今日はここまでにしよう。そろそろ血が足りなくなるだろう」
セフィロスはそう言うと、自身の剣を布で拭って鞘に収めた。
セフィロスの稽古は人一倍厳しい事で有名だ。
天使は死にかけるまで滅多打ちにされた後、癒しの力で治癒される。また戦う。殺されかける。治癒される。この繰り返し。
そんな彼らの稽古の事を、他の神や天使達は「地獄の三丁目」と呼んで怖がっていた。
ノクトは ほぅっと息を着く。血に濡れた服がまとわりついて気持ちが悪い。
守護天使長としてセフィロスに生み出されてから5億年経つ。その間に1度も勝てた試しがない。
いくら神気を武器に纏わせても、その神気の源となる張本人には適うはずもなかった。
なぜここまで厳しい練習を課すのか。疑問に思わなくはないけれど、生まれた時からずっとこの調子なので、今さらどうとも思わない。
(完全に感覚がマヒしてるな)
ノクトは1人苦笑いをして、他の守護天使達と神殿の中へと戻って行った。
翌日、ノクトは6層目の中央にある火の神・ロキの神殿へ稽古をしに出掛けて行った。
自分の所だけで稽古をするといつも同じ顔ぶれで、どうしても偏りが出来るからだ。時々こうして他の神の守護天使達の所へ行って、互いに技を磨き合う。
今回は火の守護天使達の他に、雷の副・守護天使長のボアネルジェスも来ている。
「くわーっ。お前のその、ピタリと技を決めてくるの嫌んなるな」
「こっちこそ、君のスピードに付いていくのがやっとだ」
ノクトとボアネルジェスは互いに、地面に膝をつきながらゼェゼェと肩で息をする。
「はは、お互い様と言うことだな。うちの守護天使達なんて、お前らのあまりの猛攻に引いてるよ」
そう言うのは火の守護天使長・アトラスだ。
「はっ、そんなこと言うお前には、パワーじゃ勝てる気がしねぇよ」
ボアネルジェスの言葉にノクトも頷いて同意する。
アトラスは彼の主とは正反対に、がっちりとした体つきの巨漢で、繊細さには欠けるものの一太刀のパワーが半端ない。
その見た目のせいでロキと面識のない者は、アトラスの方を火の神だと勘違いすることも多い。
「ふっふっふっ。巷じゃ俺たち3人の事、なんて呼んでるか知ってるか?」
アトラスの問いに、2人でさぁ、と肩をすくめて見せる。
「三大強天使、だとさ。パワーは俺、ことアトラス。速さはボアネルジェス。んで、正確さと頭の回転の速さはノクトだ」
「ふーん、なるほどねぇ。みんな上手いこと考えるもんだ」
「俺とノクトはともかく、お前『副・守護天使長』なのになぁ」
アトラスが、ボアネルジェスに向かってニヤリと笑ってみせる。
「はは。セト様がまさか、男を守護天使長にする訳ないだろ。あの方が1番側仕えして欲しいのは、筋骨隆々な筋っぽい男より、多少戦闘力に劣ってもいいから肉感的な女だよ」
ヤレヤレと、ボアネルジェスがお手上げのポーズをしてみせる。
「そんなこと言ってるけど、雷の守護天使長は細やかな気配りの出来る、優秀な女天使じゃないか」
「おぅおぅ、ノクト。お前みたいに強さも気配りも半端ないやつに言われたら、うちの守護天使長は立つ瀬がないぜ」
確かに、とアトラスも呆れ顔で同意する。
こうして3人で駄弁っていると、あっという間に稽古の時間は終わってしまった。ノクトはボアネルジェスと一緒に、火の神殿を後にする。
「ノクト、お前はこのまま風の神殿に戻るのか?」
「いや、〇〇に用事があるから、そこに立ち寄ってからだな」
〇〇はここからずっと南へ行った街だ。6層へ行くついでだからと、セフィロスに使いを頼まれている。
「へぇ!俺もその手前の××に行く所なんだ。それなら途中まで一緒だな」
そう言ってボアネルジェスは馬にまたがる。ノクトも自身の馬に乗り、その後を追った。