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37. 立神の儀

 太陽の神殿に集められたのは、最上級神、上・上級神、下・上級神の高位神達とその守護天使。

 そうそうたるメンバーの集結に、会場に入った者たちは皆、色めき立つ。



「高位神だけで行われるパーティーなんて、一体何千万年ぶりかしら」


「最上級神の皆様が全員集まっているのを見るのなんて、もっと前のことだよ」


「しかも今回のパーティーの主催者が、フレイ様とリアナ様のお2人だろ?」



 様々な憶測が飛び交う中、皆の一致している意見は『ただの社交パーティでは無い』という事。

 高位神ともなれば、天界の重要な役割を任されている者しかいない。にも関わらずパーティーとは言え呼び集められたとなれば、何かあるハズだ、と。




 扉の向こう側での会話を、リアナは耳を澄まして聞く。


「アイリス、心の準備はいいかしら?」


「はっ、はい」


「僕とリアナがいるから心配しなくて大丈夫だよ」


 アイリスがからくり人形のようにカクカクと頷いた。それをフレイと笑いながら見たあと、会場へと向かう。



 フレイとリアナの登場に、ザワついていた会場はシーンと静まり返る。


 みんなの視線が自分たちの方へ集まる中、リアナは話し始める。


「みんな今日は集まってくれてありがとう。こうして高位神のみが集められたパーティーなんて、久しぶりの事じゃないかしら。それに、私とフレイの共同開催なのも気になっている所でしょう」


 皆の顔を見渡しながら、リアナはこぼれるような笑みを浮かべ、言葉を続ける。


「今日は皆に報告と、紹介したい神がいて集まってもらったの。実は、私とフレイに子供が生まれたの。虹の女神よ」


 唐突な言葉に一瞬皆固まったが、すぐに「おめでとうございます」の御祝いの言葉と拍手で、会場は沸き立つ。

 フレイと「ありがとう」と御礼を言った後、リアナは更に笑みを深くして階段上の控え室に向かって声を掛ける。


「アイリス、いらっしゃい」


 すぐに階段の向こうから、淡い新緑色のドレスを身にまとったアイリスがやってきた。立神してすぐに、リアナが採寸しに行き仕立てた衣装だ。

 緊張で顔はガチガチになっていたが、リアナとフレイの顔を見ると、少しだけ顔をほころばせる。


 アイリスはリアナとフレイの横に立ち、ホワンと夢見心地にさせるような声で挨拶をする。


「太陽の神・フレイ様と水の神・リアナ様の子で、虹の神のアイリスと申します。どうぞ皆さま、お見知り置きください」


 礼をすると、シャンデリアの灯りで白銀の髪と瞳がキラキラと虹色に反射した。


 先程までの騒がしさはすっかり消え失せ、水を打ったような静けさが訪れる。現れた神が子供ではなく大人になっている上、その姿にも目を奪われているようだ。


 最後の成長期を終えたアイリスの顔からはあどけなさが消え、その身体付きも大人の女性の物になっている。女のリアナでも、うっとりと見つめてしまうほど美しい女神になった。


「今日のパーティーの本当の目的は、アイリスの立神の儀を行うことなの。なぜ披露目の儀が無かったのか気になる、と言うのは当然のことだと思うけれど、深くは詮索しないで欲しいわ。今日はただ、虹の女神の誕生をお祝いしましょう」


 アイリスに抵抗する力を持たないことは、今のところ伏せて置こうという事になった。何故出生がこれまで秘密にされていたのかを知りたがる事は分かっている。

 が、ここに集まる高位神や先天守護天使は分かっている。最上級神(わたしたち)の恐ろしさを。

 まだ地界が生まれる前で、今のように天界が秩序立っていない、混沌とした時代から共に生きているのだから。


 一言「詮索するな」と言えば、気にはなっても余計なことは言わない。


「それからもう1つ、知らせておきたいことがあるの。これは風の神・セフィロスからお願いするわ」


 他の最上級神と一緒に見ていたセフィロスが前に出て、アイリスの横に並ぶ。


「先日、虹の女神アイリスと私は結婚の契りを交わした。もしアイリスの事で何かあれば、全て私に言うように」


 会場が一気にどよめいた。なぜ上・上級神が「主」ではなく「従」に下るのか、と。普通ならまず有り得ないので、騒ぐのは無理もない。


 先程から続く衝撃的な出来事のせいで会場は騒がしくて仕方がないというのに、アイリスはセフィロスが近くに来てくれたのが嬉しいのか、その顔を見あげてフワリと微笑んでいた。



 こうして虹の女神アイリスの存在は天界中に知れ渡り、翌日から噂話の的になった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。第1章はこれで終わりとなります。


2章へ行く前に、番外編のお話を2つ挟みます。

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