前へ次へ
20/114

19. 虹の滝(2)

「これは……虹か……」


 滝の水飛沫が太陽の光を受けて、大きな虹を作っていた。


「ここは晴れていれば、何時でも虹がかかるんです。リアナ様が私のために、こっそり作ってくれました」


 これだけ大掛かりな水源を作れるのは、リアナならではだろう。


「私のお気に入りの場所で、セフィロス様に是非お見せしたくて。こちらにベンチもあるんですよ」


 ゆっくり眺められるようにと、フレアが設置してくれた物だ。

 2人でベンチに座り、しばらく滝と虹を眺めていると、フワリと暖かい風が吹いてきた。まるで初夏に吹く、生命力に満ちた風だ。


――――??


春とは言え、山奥深いここはまだまだ寒い。何でこんなに暖かい風が吹くのだろう?


 不思議に思っていると、セフィロスが横目でちらりとアイリスの方を見て言う。


「寒いだろう」


――そうか、セフィロスが吹かせている風だ。


 ありがとうございますと御礼を言うと、アイリスは目を閉じて、頬を撫でる風の心地良さを感じる。



 誰だろう。セフィロスが北風しか吹かせないと言ったのは。氷の神よりも冷たいと言ったのは。

この方はこんなにも暖かい心を持っているのに。


 仕事でのことは、知らない。アレクシアは前に、使えない者は切り捨てるのだと言っていた。


 でも私にとっては、今ここにいる彼が全てだ。セフィロスは出来損ないの私を、見捨てたりなんてしなかった。根気よく教えてくれるし、間違えたことをしても怒ったりせず諭してくれる。


 そんな事を考えていたら、滝の音がだんだんと遠のいていく……。






…………?



 アイリスが次に目を開けた時には、虹は消えていた。日が少し傾きかけている。


「起きたか?」


 セフィロスの言葉に、ハッと我に返る。


――やってしまった。


 いつの間にか眠ってしまっていた。しかもがっつりセフィロスに寄りかかっていたようだ。


「もっ、申し訳ありません。気持ちが良くてつい……」


「いや、徹夜をした上に癒しの力を使う練習をして、余程疲れていたのだろう。気にしなくていい」


 もう恥ずかし過ぎて顔を見られない。ヨダレを垂らしていなかっただけマシだろうか。


「あの、どのくらい寝ていたのでしょうか」


「1時間と少しと言ったところか」


 1時間以上も……。ヒマな私にとっての1時間と、セフィロスの1時間には雲泥の差がある。何せ相手は分単位でスケジュールをこなしているのだ。ノクトが家で気を揉んで待っているかもしれない。


「帰ろうか」


はい、と返事をして家路につくと、天使たちがすぐさま出迎えてくれた。


「あっ! アイリス様、セフィロス様、おかえりなさいませ」


 ジュノが脱いだローブを受け取ってくれる。


「随分とゆっくりしてらしたんですね。セフィロス様が付いているとは言え、ちょっと心配になってきたので様子を見に行こうかと思っちゃいましたよ」


「えっ?! ええ……ちょっと、その……気持ちよかったものだから、私、居眠りしてしまって」


「「いっ、居眠り?!」」


ノクトとエレノアがハモった。目が点になっている。


「アイリス様、寝不足でしたもんねー」


呑気にジュノが答える横でエレノアが


「セフィロス様の前で居眠りする方なんて、ロキ様くらいだと思っていたわ」


と呟いている。やっぱりダメだったんだ。


「セフィロス様、この後のご予定の方は大丈夫でしょうか?」


「それならご心配要りません。すでに調整済みです」


ノクトがキビキビと答えてくれた。さすが過ぎる。





 大量のクッキーを馬に乗せ終わるところで、アイリスは恐る恐る聞いてみた。


「あの、セフィロス様。今日は大変失礼致しました。それで……またいらして下さいますか?」


 大失態を犯してしまったので、もしかしたら次は無いかもしれないと思うと不安になったのだ。


「ああ、また近いうちに」


 いつも通りの返事にホッとする。お待ちしております。と言うと、3人は帰って行った。



前へ次へ目次