二十四時間、聖くんとずっと。
――時々、酷く泣きたくなったり、情けなくなったりする時が、ある。
そういう時はそっと目を閉じて、現実とは異なる場所で意識をしばらく遊ばせるのだ。
空想の世界では、あなたがいつでも優しく抱きしめてくれるから。
――『二十四時間あなたと、ずっと。』のとある一節――
***
チントレを終えたあと、俺は麻栗の家を訪れていた。
それから数時間かけて都合十発分ほど搾り取られたところで、俺と麻栗は裸のまま、ベッドの上でそっと身を寄せ合っていた。
……いやしかし、麻栗の有言実行ぶりは本当に凄いな。
まだ俺が十代ということもあるんだろうけど、付き合い始めた頃は五発で限界だったのが、こうして二桁の大台にまで乗るようになっているんだから。
麻栗の弁当による栄養管理だけでもこれだけの効果である。
ジムを出る時に麻栗は『週三回はチントレしようね♡』と言っていたのだが……トレーニングの効果まで現れ始めたら、俺はいったいどれだけのパフォーマンスを発揮できるようになってしまうのだろうか。
想像するだに恐ろしいような、一方でちょっと楽しみなような……複雑な気分の俺であった。
そんなことを考えていると。
「聖くぅん……なに考えてるの?」
俺の腕の中で、麻栗が甘えるような声を上げた。
麻栗はまぐわったあとに、こういう感じに添い寝するのが好きだ。安心しきった表情で俺の胸に頭を預ける彼女の姿は、どこかあどけなくて愛らしい。
そんな彼女に俺は言葉を返す。
「ん? ああ……いや、ヤりすぎてちょっと疲れたな、と思ってただけ」
「ふふぅん? まだまだ鍛え方が足りないなぁ、聖くんは。わたしはまだまだ
たくさんデキるよ?」
「勘弁してくれ……麻栗の性欲に付き合ってたら、そのうちほんとに俺の死因がセ〇クスになっちまう」
「そうならないためにも、しっかり×××××を鍛えないとね?」
そんなことを言いながら、彼女が俺の股間に手を這わせてくる。
スイッチがまた入りかけている気配を察して、慌てて俺は言葉を差し込んだ。
「ちょっと待ってくれって麻栗。ほんとにそろそろ限界だっての。……これ以上は、明日の楽しみに取っておこうぜ? な?」
「ん-……聖くんがそう言うなら」
俺の言葉に、麻栗が出しかけた手を引っ込める。
そしてその手で俺にぎゅうっと抱き着きながら、続く言葉を口にした。
「でも、じゃあ……もっと強く、ギュってしてぇ♡」
「……はいはい、お姫様」
冗談交じりにそう返しつつ、麻栗の肩に回した腕にギュッと力を込めた。
「あふぅ……♡」と、麻栗が満足そうな声を上げる。
それからしみじみとした口調で、
「いいなぁ、こういうの。幸せ、って感じがする」
と、満足そうに呟いた。
「そうだな。幸せ――」
だよな、と言いかけて、俺は一瞬言葉に詰まる。
何か小さな違和感が、意識のどこかに紛れ込んだような気がしたのである。
「うん、幸せ♡」
俺の覚えた違和感に気づいた様子もなく、麻栗は安心しきった表情で「幸せ」という言葉を繰り返す。
それはきっと、麻栗が心からそう思っての言葉なのだろう。彼女の表情にも、声にも、どこにも嘘は見当たらない。
なんだろう。
なにが違和感だったのだろうか。
「ねぇ聖くん。そういえばわたし、ちょっと考えてることがあるんだけどね?」
違和感の正体を探るために、思考の海へと沈み込もうとした俺だが、麻栗にそう話しかけられ中断させられる。
「うん? 考えてるって、なにをだ?」
改めて麻栗へと意識を戻すと、彼女は断られることをまるで想定していないかのような表情で、次のように提案してきた。
「聖くん。外に部屋借りてさ……二人で一緒に暮らそうよ」
「……」
「そしたら毎日二十四時間、聖くんとずっといられるよ♡」
まるで夢を見るかのような。
熱に浮かされたような表情で、麻栗はそう言って微笑むのであった。