琴音
琴音は、ちょこんと可愛らしく僕の膝に乗っかっている。
運動部の活動の後で、少し汗が肌についているけれど、
蜜柑のような香りの香水の匂いが鼻にくる。
「どうですか、お兄様」
「どうって・・・」
「部活終わりで汗のついた妹の汗を、柑橘系の香水でくるんでみましたが・・・お兄様はこういう和風の匂いの方が好きかと思って」
「は、恥ずかしいことを言うなっ。僕らは兄妹なんだぞ!?」
「ええ、そこがいいんです。兄妹同士なのに、ここまで接近して、なのにお兄様は律儀に手をつけようともしない・・・お兄様の『精通管理』をして、初精子を止めていた甲斐もあるというものです」
アリスは紙パックのコーヒーを吸っている。
「へえ、琴音さん。そこまで仕掛けておきながらの『精通管理』とは恐れ入ったわ。相当なHENTAIのようね」
「アリスさんから認められるなら、光栄な程にございます」
「けれど、譲司くんにそこまでのアプローチをかけたら、夜にコッソリ、マスターベーションしちゃうでしょう?」
アリスはそう言った。
「そこは、毎日ちゃあんと隣のお布団で寝ていますので、律儀な兄さまが悶々としながらも必死で堪えている様子を後ろから・・・」
「琴音! お前、そんな感じでいたのか!?」
琴音はふと冷静な目になって
「しかし、美少女川アリスさん・・・私は不審な噂を耳にしたので、慌てて家に戻ってきたのです・・・なんでも、お兄様はアリスさんを鈴木さんから寝取ろうとしているとか・・・? はて、バンビのように奥手な兄さまが? まさかとは思いますが、脅迫をしているのではないでしょうね?」
「そーなんだ、琴音! 僕は脅されて仕方なくやったんだ!」
僕は慌てて言うが、
「”寝取って”もらうためよ、琴音さん・・・! そして、譲司くんに少しずつ記憶を取り戻してもらう・・・!」
「記憶を・・・?」
僕はそういう。
「ええ、譲司くん。私も、何もただただ寝取りプレイを楽しむためだけにこんなことをしてるんじゃないわ・・・譲司くんの記憶喪失を取り戻すきっかけになるかな、と思ったのも事実なの・・・」
寝取りプレイで、記憶が蘇る・・・?」
「やっぱり、私たちの口から話すんじゃなく、譲司くんが自分で取り戻さないと意味ないかなって・・・」
「アリスさん、そういうことでしたら、寝取りを許可しましょう」
琴音はそういうので、
「バカな! 鈴木くんに申し訳ないって部分は無いの!?」
と僕は叫ぶ。
「鈴木くんは、どう考えてもいい奴だよ・・・仮に僕の記憶のためでも・・・」
すると、アリスも琴音も、怒りの表情になっていた。
いや、それは僕への怒りではなく、どうやら鈴木に対するものらしい・・・
「お兄様、よりによって、あの鈴木を『いい奴』だなんて、そこまで記憶が無いんですか・・・!?」
「はーあ、だから譲司くんに早く記憶を取り戻して欲しいの。・・・そして、鈴木にも厳罰を与えないとね」
・・・?
本当に、サッパリだ。
ユイの姿で鈴木と何度か会ったけれど、基本的にはいつも明るいいい奴なのに・・・
「さてと、もう夜も遅くなっちゃったし、私は帰るね! じゃーね、譲司くん!」
アリスはそう言って立ち上がった。
「さて、明日の分の台本も渡しておくね」
また、NTRプレイの台本だ。
「これを・・・やれば記憶が戻る・・・?」
「その手助けにはなるわ。ねえ、考えてもみて譲司くん。どうして、そもそも『寝取りキャラ』を演じるのが、そんなに上手いんだと思う・・・?」
「え・・・?」
僕が、あれをやるのが上手い?
アリスはクスリと笑いながら、鞄を取りドアを開けた。
「そもそも上手すぎるわよ・・・! その理由に気づいていないようだけどね、じゃあ、明日もしっかりと略奪してね?」
アリスは去っていった。
「お兄様、いいじゃないですか。 アリスさんを寝取ってあげれば? 本人が望んでいるんですから」
自分の記憶を取り戻すために、アリスを略奪する。
そんなことが許されるのか・・・?
そして、一体どうして二人とも、鈴木をそこまで憎んでいるんだ・・・?