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御四家アリス

「お帰りなさいませ、お嬢様!」

「お鞄をお持ちします、お帰りなさいませ! アリスさま」


こういう家って本当にあるんだなあ、と僕は思う。

メイド、家政婦、お手伝いさん。

そういう名前の仕事の人たちが、ズラリと桜並木のように並んでいる。


「私の親友のユイよ。さあ、部屋に行きましょ」

アリスはそう言い、僕の手を引いていく。


「アリスん家って、本当に名家なんだなあ。私、こんな豪邸見たことない!」

「まあね、ユイって”御四家”って知らない?」

「御四家? 御三家じゃないの?」

「まあ、関東一円を支配する鏑木財閥・・・その中の四つの家の分家よ、ウチは」

「これで分家!?」

 

 三階建てで、テニスコートまでついている家だ。

「分家も分家、本家の人たちが来たら厄介だから、早くいきましょ」

家具や調度品も、恐らく欧州から仕入れたものだ。


 アリスの部屋、そこは一面が白を基調としたベールで被われていた。

「ゆっくりしてよ、ユイ」

「こんな高そうな椅子、座れないよ」

と言い、僕はソファに腰かけた。


「ユイ、もっと気楽にしててよ。ねえ、何かを思い出さない・・・?」

「僕の記憶・・・?」

「この部屋・・・ユイは何度も来たことあるのよ?」

「ええ!? 僕がここに・・・?」

「覚えてない・・・?」

あ・・・

そういえば、なんとなく脳裏に蘇るものがある。


・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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「へーえ、お金持ちだけあって、いいベッドじゃん」

これは・・・?

「ごめんね」

 幼い日のアリス。

「なあ、アリスう」

 その少年は、アリスをドンとベッドに突き倒した。

「あぐっ!」

 随分と乱暴なやり方である。

「いいから、さっさと脱げよ。ほら、パンツ降ろすぞ」

「ああ!」

 かなり強引なやり方で、アリスの衣服がはぎ取られてしまう。

「お前が言ったんだろ? 『メチャクチャにして』ってさ・・・フン、お嬢様なのに、本当にいやらしい女だな・・・!」


・・・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「はっ」

 僕は驚いていた。


(まさか・・・今のが僕・・・?)


「少しは思い出した?」

アリスはそう言って、僕の顔に両手をかける。


「けど・・・! どうして・・・?」

僕はそう言う。


そこに、部屋がノックされた。


三つ編みの少女が入ってきた。

「あら、ナトリカ。今日はあなたの番なの?」


ナトリカという白人系の少女は、三つ編みで眼鏡をかけたままでいた。


「お嬢様、随分と美人のお友達ですね」

「アイドル・ユイよ。巷で大人気なんだから」

「どうも・・・ナトリカさん」


ナトリカは、

「ハテ・・・? どこかで見たことが・・・?」

と言ってから、すぐにかっと目を見開き、

「貴様・・・譲司!? この卑劣漢め!!」

と一瞬で距離を詰めて、僕の喉に手をかけていた。


「ぐあっ?」

「やめなさい、ナトリカ!」

「しかし、お嬢様・・・!」

「今の譲司くんは大丈夫!!」


ナトリカは、仕方なしに手を降ろす。

「いいか、アリスお嬢様の計らいで生き延びさせてやるが・・・常に見張っているぞ」

ナトリカはそう言った。


「ぐ・・・」

僕はえずいていた。

「大丈夫・・・?」


 僕はアリスの手を払いのけた。


「もう、いい加減にしてよ! みんな、僕をどうしたいんだよ!?」

僕は絶叫していた。


「僕も分かる・・・僕は、ロクデナシだったんだろう・・・? だからNTRプレーなんてものも、何故か上手くできるんだ・・・! けれど、僕が言いたいのはそうじゃない・・・なんで、そんな僕に構うんだよ、アリスは・・・!?」

僕はそう言った。


「本当に、”あの時”のことは思い出せないの・・・? なんだか、悲しいな・・・私が自由を手に入れたのは、キミのおかげなのに・・・」


「分からない・・・アリスは、僕をどうしたいんだい?!」


「・・・・そうよね。今のままじゃ混乱するだけよね」


アリスはそう言った。


「プレイは止める・・・?」

「え・・・?」

「譲司くんの記憶は戻らないかもしれないけど、でも今のままで・・・『ユイ』として生きていくなら、無い方がいい記憶だわ」


「僕の記憶と・・・ユイ・・・」

ユイとしての華々しい美少女ライフか、

それとも、ロクデナシだった頃の記憶を取り戻すか・・・


「さあ、選んで・・・! 譲司くん」


「僕は・・・・」


ナトリカが割り込んできて、

「お取込み中失礼しますが・・・アリス様、本家の鈴木家より、鈴木幸綱さまがいらっしゃっています。・・・なんせ、アリス様の許嫁の方ですものね。さあ、こんなロクでもない譲司より、鈴木さまのためにお色直しをしましょう」

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