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【十二話】 ミカさんが診察に来た日


 昨日言われていた。


 今日は、ミカさんが来るそうである。


 理由は、皆の診察。


 いつも月一で来るそうだが、私はこれが、初めてである。

 

「み、ミランダさん、診察って、どんな風にするんですか?」

「んー? アカリちゃん、初めてだったねー。すぐ終わるよー。あっという間ー」


 皆が集まる朝ご飯の後から、順番に行うそうである。

 まず、セリカさんが一番で、その後、夜間の二人を診察し、それから、巡回組をやって、その後は順々に、業務時間中で回っていくらしい。


 その為、私は今、四階フロアーの自分の席で、仕事をしながら自分の順番を待っていた。


 そして、その診察を行う場所は、なんと船の中だという。

 その為、ここから、船着場まで行かなければならない。

 一人が診察を行っている間に、先に終わった人が、四階フロアーに、次の人を呼びに来る、と言う手順だそうだ。


 ついこの前、私は、あの認証式の扉の、登録をしてもらった。

 正式入社後に、あの認証式扉は登録するらしい。


 先程、エレナさんが戻って来て、ユウカさんを呼んでいた。今、チュンさんが診察を受けているのだろう。


 そして、次がミランダさんらしく、その後にメイちゃん、そして、私と言う順番だと聞いていた。

 私の後に、リーゼさんとプランさんだと言う事なのだが、そのくらいの時間になると、割と時間に余裕がある、その技師二人は、まとめて行くらしい。

 その二人を呼ぶのは、私の前のメイちゃんがやるとの事である。

 だから、私が終わったら、次の人を呼ぶ必要は無いと聞いていた。


「あれ? でも、じゃあ、アンカ室長は、いつやるんですか?」

「あー、室長はねー、最後だよー。んでー、プランさんかリーゼちゃんが呼び行くからー、アカリちゃんは気にしなくって良いよー」

「アンカ室長が、最後なんですね」

「そーなんだよねー。いつもねー、なんかついでにー、ミカさんと話してるみたいだからー。遅くなるから、最後みたいだよー」


 私とミランダさんは、作業をしながら話をしている。


「あのー、セリカさんは……?」

「あー、セリカっちはねー。皆の付き添いー。最初に受けてからー、室長が終わるまでは船の中ー」


 最初に行ったはずの、セリカさんは戻っていなかった。

 何故だろうかと思っていたが、最初に受けて、そのままミカさんと一緒に居るようである。

 そして、フロアーの扉が開き、チュンさんが入ってきながら、ミランダさんを呼ぶ。


「ミランダ。次、お前の番だぞ」

「ほいほいー。んじゃー、行って来るねー」


 チュンさんは、アンカ室長と一緒に来ていた。

 これから、巡回のミーティングなのだろう。いつもよりは少し遅い。

 そして、もうすぐ、私の番になる。

 皆は、わりとすぐに戻ってくるので、回転率は早いようである。


 私は、診察と言う物自体は、少し不安があるが、ミカさんに会えるのは、楽しみだった。


 そして、ユウカさんが戻って来て、メイちゃんを呼ぶ。


 次、ミランダさんが戻ってくれば、私が呼ばれる番だ。

 私は、診察の事が気になって、あまり業務が捗っていなかった。


(どんな事するんだろ……でも、皆すぐ終わってるし……)


 私は、ここに来た時とは、また別の緊張をしていた。


(うっ……ドキドキしてきちゃった……)


 皆、平然と受けているが、何分、私は初めてなので、平静ではいられなかった。

 そして、そんな事を考えている間に、巡回組も出て行っていた。


「アッカリちゃーん。次ー」


 フロアーに入りながら、ミランダさんが私を呼ぶ。


「は、はいっ」

「アカリ、そんなに緊張する事じゃないよ」


 ユウカさんに気が付かれた。


「うっ、で、でも、私……初めてですし……」

「アカリちゃーん、変な事してないからー。……あ、でもー、最初って長くなかったっけー?」

「あ、そう言えば、そうですね。私も、最初の頃は長かったですね」

「えっ、じゃ、じゃあ……」


 やはり、心配になってしまう。


「まーまー、んじゃー、行ってみてー」

「は、はい」


 そして、私は四階フロアーを出て、船着場へ向かった。


 ドキドキしながらも、船着場に着くと、見たことの無い船がそこに居た。


(……へ、あ、あれ? こんな船だったっけ…………?)


 それは、私が乗ってきた、そして社長が来た時と、違う船。

 それよりも更に大きい。


 そこから、メイちゃんが出てきた。

 どうやら入り口は開けっ放しのようである。


「あ、アカリちゃん。私も終わったよ。入ってもう大丈夫だよ」

「う、うん。メイちゃん。私この船、初めて見た……」

「うん、この船、診察専用なんだって」

「へぇー……あ、入らなきゃ……」


 メイちゃんに見送られ、私はその船に入っていく。


 中は、船内とは思えないような、よく分からない機具だらけ。そして、広い。

 そこに、ミカさんと、セリカさんが居た。


「アカリちゃん。お久しぶり」

「あ、ミカさん、お久しぶりです」


 久しぶりに見るミカさんは、変わらず凛としているのだが、なにやら白い服を着ていた。


(ミカさん、看護師さん……?)


「ミカ、この子初めてだから」

「ええ、分かってるわ。アカリちゃん、じゃあ上着を脱いで、こちらに寝てもらえる?」

「あ、は、はい」


 私は、上着を脱いでそこに寝そべる。

 そこは、寝台のような所であり、その先になにか大きな輪っか状の物が見えている。


「じゃ、始めるから、リラックスして、そのままで動かないでね」

「は、はいぃ」

「アカリ、緊張しないの。変な数値出ちゃうじゃない」

「は、はいぃ」

「アカリちゃん、じゃあ目を閉じてても良いわよ」

「は、はいぃ」


 ミカさんと、セリカさんに口々に言われるが、どうしても私は緊張してしまう。

 すると、その輪っか状の物が、私の周りをゆっくりと通っていった。


 一度私の足元まで行ったそれは、もう一度同じように私を囲ったまま、元の位置へ戻っていく。


「はい、終わりよ」

「…………え? も、もうですか?」

「だから簡単だって、前にも言ったでしょ?」


 その後に、その結果だろうか、モニターを見ているミカさんと、セリカさん。

 私は、そこから立ち上がろうとして、ミカさんに言われる。


「あら。アカリちゃん、悪いけれど、もう一回お願いね」

「……え?」

「緊張しすぎ。変な数値出たわよ」


 つまり、私はリラックスしろと言われたものの、そうできなかった為、検査結果がおかしい数値になったらしい。


 そして、もう一度同じ事を行う。

 今度は、どんな物か分かったので、多少リラックスできたと思う。


「はい、終わりね。えーっと、うんうん」

「問題無さそうね」

「じゃ、じゃあこれで、終わり、なんですか?」


 結果は問題なさそうで、今度こそ私はそこから立ち上がる。


「そうね。基本は問題ないわ。あと、アカリ初めてでしょ? 少し問診があるわ」

「ええ。とりあえず、上着はもう着てもらっていいわ」


 私は、上着を着てから、ミカさんの所に行く。


「じゃあ、そこに座って」


 ミカさんは何かモニターを見ているようである。

 ここのモニターは、どうやらこちらからは見えないように作られているようである。


「それじゃ、アカリちゃん。少し質問に答えてね」

「は、はいっ」

「もう、緊張しなくって良いって……」

「セリカ、アカリちゃん初めてなんだから、仕方が無いわ」

「す、すみませんー……」


 そして、ミカさんからの問診が始まった。


「じゃあ、アカリちゃん。ご飯はちゃんと食べれてる?」

「……へ? あ、はい。とっても美味しくて、太っちゃうかも……」

「うん、食欲はあるっと。じゃあ、夜眠れてる?」

「は、はい。ぐっすりと……」

「問題無しっと。気分とかどう? 何か気持ち悪いとかあったりしたかしら?」

「え? 特には……」

「それも問題無しかしらね」


 私は、その後もそんな、日常の生活の事を聞かれ続けた。


「……よしっと。んー、健康、健康。アカリちゃん問題無いわ」

「じゃあ、終わりかしら?」

「え?こ、これで終わり、ですか? あ、ありがとうございます」


 どうやら、これで終わったようである。


「ええ。診察は終わりね………………あ、そうだったわ。ごめんなさい。アカリちゃん」


 終わったはずなのだが、思い出したようにミカさんに言われる。


「え? な、何かありましたか?」

「ええ、その……ね。ちょっと私もミスしちゃって……」

「何? ミカがミスするなんて、珍しいわね。何かあったの?」


 セリカさんも知らないようである。


「えーっとねぇ、そのね、アカリちゃんがここに入る前に説明した所なんだけれど……」

「はぁ……?」


 ここに来る前、ここでの簡単な事は、ミカさんから聞いていた。

 何か間違えでもあったのだろうか。

 だが、もう私はここで生活している。

 今の所、特に問題は無いように思える。


「ごめんなさいね。その、ね。アカリちゃんに説明した時の、給料の金額……間違っちゃってたの。後から気がついたんだけれど……」

「………………へ?」


 給料は、この前初めて貰った。

 そして、その金額に驚いた。何かの間違えなんじゃないかと。

 聞いてた数字に、桁が、一つ多かった。


「……どういう事?」


 セリカさんに聞かれ、私は正直にその事を話した。

 聞いていた金額より、ずっと多かった事を。


「ミィカァ……あなたもなのっ!? アンカと同類かっ! ……はぁ、それでアカリ、あの時驚いてたのね……」

「ご、ごめんなさいね。そのー、多くなる分には良いかと思ったから……」


 ミカさんは、目を逸らしつつ言っていた。


 私としては、その桁が一つ少ない金額でも、多く感じていたので、別段文句も無い。

 と言うより、本当にこんなに貰って良いのか、と思ったくらいである。


 だが、これで、謎が一つ解けた。

 あれは、最初のミカさんの説明が間違えていたという事である。



 そして、一つ分かった。



 それは、ミカさんもまた、アンカ室長と同類だという事であった。



お読みいただき、ありがとうございますっ。


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