17【番外編】侍女からのプレゼント③
前半ヴィンセント視点◇◆◇後半クレア付き影視点
「ねぇ、クレア? ここのところ頻繁にアシェルと会っていたよね?」
「ん? 頻繁にってほどは会っていないと思いますが……?」
「毎日会っていたでしょ? 一体何の話をしていたんだい? 前に騎士団の医務室ではダシマキ……とか聞いたことのない言葉が聞こえてきたけど」
私はアシェルへの嫉妬が爆発して、またクレアに酷いことをしようとしてしまった。他にも勘違いしていることがあるのなら本人に確認しておこうと思い、ベッドの中でクレアを抱き込みながら聞いてみる。
「あ、あの……お、お弁当の話です! ちょうど今日、ヴィンスと食べたいと思って侍女に城下町で買ってきてもらったのです。後で持ってきてもらいましょう」
◇
「これがだし巻き卵でこっちが金平ごぼうです。あっ、ひじきの煮物やほうれん草の胡麻和えもある!」
木を薄く切ってできた板を曲げて作られた楕円の形の弁当箱の蓋を開けると見たこともない料理が敷き詰められていた。
「へぇ、初めて見た。城下町ではこんな料理が流行っているんだね」
「ええ! 私が昔好きだった料理を出してくれるお弁当屋さんを見つけたってアシェルが教えてくれたんです」
ん? クレアの好きな料理は公爵家に聞き込んで調査済みだが、こんな不思議な料理を好きだってことは聞いたことがない。
幼馴染だからこそ知っていることがあるのか? 私でも知らないクレアのことをアシェルが知っているというのなら後でアシェルにも聞き込みをしておこう。
「うん、確かに美味しい料理だね!」
「ですよね!!」
「クレアが気に入っているのなら王宮での食事、週に一回はここの弁当屋の弁当をランチにしよう。手配しておくよ」
「わぁっ! 嬉しいです!!」
クレアが喜んでくれるのなら、そんなことはお安い御用だ。
「それでさ、クレア。アシェルと話をしていたのはこの弁当屋のことだけ?」
クレアがギクリという顔をした。まだ何か隠しているのだろうか。
「そ、それだけですよ」
クレアは誤魔化すようににこりと笑った。
嘘が下手だなぁ。まぁいいよ、さっきのことでクレアに負い目がある。今日のところは見逃してあげよう。
もし不穏な動きをするようなら、私の愛を理解するまで閉じ込めてしまえばいい。
「そっか」
だから私もクレアににこりと微笑んだ。
◇
「クレア姉さんの好きなものですか?」
「ああ、幼馴染なんだろ? 何か君が知っていることがあるなら何でも教えてくれ」
私はクレアのことをもっと知るためにプライドを捨ててアシェルには教えを乞う。
「あー、最近城下町に和菓子の店ができたみたいなんで姉さん好きかも! ちょうど俺も婚約者への手土産に買いに行きたかったから、よかったら殿下も一緒に行きますか?」
「は? 君、婚約者がいるのか?」
そんなのは初耳だ。
「? ええ……俺も公爵家の人間なんで帰国してすぐに婚約させられましたけど、彼女とは仲が良い方だと思いますよ」
「え……だって、そんなことは一言も……」
「え? わざわざ言わなきゃいけないことでした? 調べたらすぐにわかることですし」
「あ、いや、そうだな」
目先の出来事に囚われていて完全に盲点だった。
私はアシェルと城下町へワガシというお菓子を買いに行った後すぐにクレアにつけている影を呼び出した。
◇
数日後、アルノルトに届け物をしにマリアンヌが王宮へやってきた。
「殿下、ごめんなさい。うちの侍女がクレアに余計な贈り物をしてしまったみたいで、もしかしたらクレアが変なことを言い出すかもしれないけど、騎士が好き! とか言い出してもそれは小説の話であって──」
「マリアンヌ……今回は連絡が少し遅いよ……」
執務机の席に着いていた私は、スッと立ち上がりマリアンヌの前へ出るとマリアンヌは私を見てプルプルと震えた。
「で、殿下……その格好……」
「クレアにおねだりされたらしないわけにはいかないだろう」
私は再びアシェルに用意してもらった騎士服を着て今日は帯剣までしている。この後クレアの要望に応えるため騎士団で剣を振るわねばならない。
決して剣術が苦手なわけではないが、本職の騎士たちに比べれば見劣りしてしまうため、ここのところ毎朝早起きをして、こっそり訓練もした。
「影響されやすい妹で申し訳ございません」
「……いいんだ。そういうところも可愛いと思っているから」
私は目を細めて窓の外を眺め、愛しのクレアのことを想った。
◇◆◇
私はクレア様付きの王家の影。影は見えない護衛も兼ねているため抜群な身体能力を買われてこの仕事をしている。
私はきっちり任務を果たし、クレア様には危険のない生活を送ってもらっているはずなのだが、なぜかやたらとヴィンセント殿下に叱られる。
先日も「クレアとアシェルが接触したら逐一報告しろ」なんて言うから、アシェル様とクレア様が会話をするたびに報告した。
「影よ、アシェルの婚約については知っていたか?」
「はい。アシェル様が帰国してすぐ辺境伯のご令嬢との婚約が結ばれております。お互いの関係は良好なようです」
調査対象の下調べは影の基本です。
完璧に回答したのになぜかヴィンセント殿下は険しい顔をする。
「なぜそれを先に報告しない!?」
「なぜ……? うーん……聞かれませんでしたから?」
首を傾げてそう応えたら、めっちゃ怒られた。
そして、先日も、クレア様とアーロン殿下が談笑するところをちょうどヴィンセント殿下が通りかかり、後からヴィンセント殿下に呼び出されて二人はどんな会話をしていたのかと質問された。
「アーロン殿下がクレア様に部屋へお茶をしに来ないか、と一生懸命に口説いてましたよ。でもクレア様はいつも通りサラッとかわしていました」
「いつも通り?」
殿下は眉を顰めて聞き返す。
「ええ」
「いつもなのか?」
「はい。毎日二回ほど」
「毎日二回も!?」
「それこそアシェル様と会話されるよりもアーロン殿下との会話の方が多いかと」
「なぜそんな大事なことを報告しない! 早急に叔父上に抗議しなければ」
大事なことだったのか。私はやはり首を傾げた。
「クレア様は大変明るく可愛らしく王宮内では男女問わず人気な方なので、毎日たくさんの方と交流されています。庭師やメイドとも毎日会話をしていますが、報告した方がよろしいでしょうか?」
「内容による。君は報告するものの取捨選択ということがわからないのか?」
取捨選択? 全くわからない。
キョトン顔で殿下の顔を見れば殿下は眉間を押さえて深くため息を吐く。
「もういい。毎日その日のクレアの交流を全て報告書にして提出してくれ」
そしてなぜか仕事が増えてしまった。
侍女からのプレゼントのせいでヴィンセントのストーカーが加速した、というお話でした。
区切りが良いので、ここで番外編も一旦完結にします。
番外編にもいいねや感想をくださりありがとうございます。
また続きのお話や面白いエピソードが書けたら、不定期で番外編を投稿していきます。
そのときは、また見に来ていただけると嬉しいです(^^)
お読みいただき、ありがとうございました。