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65話:犯罪者ギルド5

 ヴァーファン組の摘発には無理矢理参加したけど、犯罪者ギルドの後のことは他人任せだ。

 大人の仕事だよね。


 そして子供の僕は弟たちと楽しく魔法で遊ぶのです。


「こんな所があるんだね」


 ここは宮殿の一角。

 チェス盤を思わせる白黒の敷石の廊下の片側は壁で、もう片側は中庭に続く列柱が並んでいる。

 廊下と言っても一つの部屋に匹敵する広さがある場所だ。


「僕はいつも魔法はここで使ってるよ。剣術もここで、体を動かすことは基本的にここを使ってる。兄上は?」


 テリーが無邪気に聞いてくる。

 ここはテリーの部屋に付随する、宮殿内部にある庭だ。


 帝室図書にあった歴史書に、宮殿の主な施設が書いてあるのを見たことがある。

 改装した時の美術的価値のあるフレスコ画や、名工の手による家具の説明のついでに載っていた。

 その中にこの中庭を囲むスペースは皇太子の間と書かれていたんだ。


 確かすぐ近くには王妃の間があって、少し離れて国王の間があり、さらに皇子の間と呼ばれる双子が使っている部屋がある。

 ちなみに今は空いてるけど姫の間って言うのもあるそうだ。


「僕は部屋しかなくてね。庭はついてないんだ」

「僕たちと同じだね。お庭ないよ」

「大きくなったら広間で練習するって言われたよ」


 双子が僕の裾を引っ張って可愛いことを言う。

 けどそこに妃殿下が難しい顔で声をかけて来た。


「左翼には中庭があったはずです。誰も使っていないのに、使わないのですか?」

「えぇ、まぁ…………」


 濁したんだけど、最初から怪訝そうだったせいか、妃殿下は気づいてしまった。


「使えないように、されているのですね?」

「いえ、えっと、部屋の位置とか、整備不良とか…………色々」


 特に気にしてなかったから忘れてたけど、確かに左翼には誰も使ってないし手入れもされてない中庭がある。ちなみに二つ。

 近いところでは、青の間にある窓からは左翼の中庭の一つが見下ろせる。

 けど僕はそこに降りたことがない。

 何故なら、そこに降りるために使う階段は父との面会の時だけ使えるから。

 階段を上ることは許されていても、下に降ることは許されてないんだ。


 あの階段の使用のこと、そう言えば言ってないなって。

 知ったらたぶん、父は落ち込む。

 それ以前に犯罪者ギルド潰す動きを加速させ、それに伴って皇帝である父の政務も増えている。

 そこに緊急性の低い問題を押し込むつもりはない。


「発言をお許しいただけますか、アーシャさま」


 ウェアレルは僕の魔法の家庭教師でもあるので、今日は同行していた。


 僕に聞いてるけど、たぶん妃殿下と話していいかという許可だろう。

 妃殿下をみると頷きが返るので、僕もウェアレルに頷く。


「左翼の中庭はこことは違い、訓練には不向きなのです。四方を壁に囲まれ、全てにガラスがはまっています。また、左翼棟中央部には少々改装のし過ぎで耐久性に疑問のある建造物もあり、アーシャさまの安全を考慮した場合不適格なのです」


 言い訳、いや、確かに左翼の部屋で改装のし過ぎはあるからただの事実だ。

 何せ宮殿ができてから何人もの住人が、改装や美術的装飾の取り付けなどをしてきた。


 基本的に使ってない部屋には鍵がかけられているから僕は行けないけど、セフィラがうろついた結果、どうやら本来床があったところをぶち抜いての改装がされている場所もあるという。


 耐震性重視の日本人からすると怖くて近寄りたくない場所だ。


「そう、整備不良ですか。使う者がいない状況だと後回しにも…………。なるほど、わかりました。現状で、アーシャに不自由は?」


 妃殿下は僕を思って聞いてくれる。


「いいえ、それに室内での練習だからこそ、今日やる魔法は習得できたんです」


 今日は聖堂での事件の時に見せた、敵に頭から花火を降らせるような魔法をテリーに教える。


 手が空いていたという妃殿下も見学に来ているのだ。

 同時に、双子が危険にならないよう側に座っててもらう。


「まずはお見せしましょう。初級でもすぐ側に同じ魔法を展開し、数を揃えれば…………」


 僕は大人の頭一つ分高い位置に五つ、横一列に魔法を展開した。

 火花を起こすだけの簡単な魔法だけど、これコツがいる。

 何せ近すぎると魔法同士が干渉して別の魔法へ変化するし、使おうとしていた魔法とは違うものになるので、イメージとの齟齬でそもそも発動しなくなる。

 もしくは暴発してしまうのだ。


「まぁ、本当に精密な魔法の制御…………」

「きれいー」

「パチパチ言ってる」


 妃殿下も教養として魔法を習得しているので驚きを露わにした。

 双子は単純に火花が散る様子を喜ぶ。


 僕も鼻が高い。

 何せ今日は僕がやってるんだ。

 テリーに教えることになってから、セフィラにお願いして習得させてもらった。

 だからセフィラがやったほど多くは無理だけど、それでもテリーに教えるってことで身につけました。


「この魔法の難しいところは、場所を確実に固定することです。そうすることで室内であっても危険を減らし、損害がないよう調整をすることで魔法の精密さを上げる修練にもなるのです」


 ウェアレルがそれらしく妃殿下に説明してくれる。

 実際にウェアレルから教えられる魔法は場所がないため座学が中心。

 あとは初歩的な危険の少ないものだ。


 火球を飛ばす魔法もあるけど、部屋の中じゃ危険すぎて使えない。

 だから実は僕、あまり魔法得意ってわけじゃないんだよね。

 そもそも使わないから。


 魔法が隆盛している昨今、魔法が上手いとも熱心に学んでいるとも噂にならない僕。

 そこへさらに、魔法の劣化技術と言われる錬金術を趣味にしていることは周知だ。

 そのためどうやら、僕は魔法が苦手と思われているらしいと聞いた。


「これが錬金術とどう関係があるの、兄上?」

「錬金術はね、同じ工程を行えば同じ結果が得られるようにするんだ。それを魔法で再現すれば、こうして安定して同じ効果を発揮できる。そのためにもまず、再現性を得るための下準備が必要になる」


 ちょうどいいから足元の敷石を使おう。


「今テリーの前にある白い敷石を一の十という名前を付ける。そして一の十の右手にある黒い敷石は一の九、テリーの正面の一の十より前方向にある黒い敷石は二の十とする」


 つまりは番号を振った升目だ。


「僕は今から三の九に火花を出すよ」


 言ってからやると、宣言どおり三の九と名付けた黒い敷石の中心で火花が降る。


「テリーもやってみて」

「うん…………爆ぜよ!」


 大袈裟な言葉だけど、ちゃんと火花が発生した。

 けど場所は三の十に近いところだ。


「もう一度同じ場所に火花を起こす」


 僕は前と同じとおり、火花を発生させたけど、テリーは力んで今度は四の九に近いほうへ魔法がずれた。


「…………すごい、兄上」


 上手くいかずにフォローしようと思ったら、予想外にキラキラした瞳で見上げられる。


「魔法を二つ以上使うのも難しいのに! 今、高さも同じだった! 兄上は、魔法の天才?」

「そんなことないよ。この練習をすれば誰でもできるようになるんだ。もちろん、テリーもね」


 なんだかテリーが尊敬の目で見て来るなぁ。


(セフィラの手柄横取りしたようで悪いね)

(即応性、イクトへの被害の軽減、確かな指示。それらを成したのは主人です)


 気にしてないでいいのかな?


「そういうやり方をまず思いつくのが才覚なのでしょう。私もルキウサリアの学園で学んだけれど、こんな練習法は見たことがありませんよ」


 おっと、妃殿下まで褒めてくれる。


「高威力の魔法を放つだけが魔法の巧手ではありません。やればできるのは確かにそうでも、やるだけの努力もできない凡人はいくらでもいるものですよ、アーシャさま」


 セフィラがやったことを知ってるウェアレルまで合わせてしまうから、余計にテリーの尊敬の目が輝きを増してしまう。

 これは今後も兄として恥ずかしいところは見せられないぞ。


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