64話:犯罪者ギルド4
「つまり全て偶然だと?」
宮殿に戻って翌日、僕はストラテーグ侯爵から聞き取りをされていた。
犯罪者ギルドを知ったのも、ヴァーファン組の抜け道を知ったのも、ついでにその上のクーロー組の書類も。
全部色々言い訳して煙に撒こうとしたんだけど、ストラテーグ侯爵が全部まとめて偶然で済ませようとした僕の魂胆を見抜いて睨むように聞いて来た。
もう自棄になって笑顔で頷くと、ストラテーグ侯爵は額を押さえて俯いてしまう。
「だって、僕が自分でどうにかできることでもないでしょう? たまたま聞いた話からそうかなっていう推測が偶然当たっただけだよ」
自分でも白々しいと思いながら言ってみる。
ストラテーグ侯爵は抗議するように唸るけど否定や詰問はしない。
僕をこれ以上詰められないということは、どうやらレーヴァンは僕が宮殿を抜け出していたことを言っていないようだ。
いつもどおり壁際に引いてるレーヴァンを見ると、無言で首を横に振られた。
なんだろう、言わなかったっていうより、言えるわけないでしょって雰囲気を感じる。
「僕としては、その偶然で犯罪者ギルド潰せる見込みがあるかどうか聞きたいんだけど?」
「…………あります。あれだけはっきり関わってる書類を用意されて、逃がすわけには行きません」
「役に立つんだね。だったら、はい。これもあげる」
僕は持っていた書類を出す。
それぞれは特に重要性のない文章が書かれた、別々の書類の一部。
けど、そこに僕とセフィラで解いた暗号の早見表をつける。
「たぶん帝都にある他の犯罪者ギルドの場所だと思うんだよね。それとは別に倉庫の位置も書かれてるから、この倉庫の中身改めたほうがいいと思う」
「…………もう、なんというか…………自重される気はないのか?」
「え、自重してるつもりなんだけど? 別にこれ僕の手柄だなんて言ったりしないよ?」
なんだかすごく疲れた顔をして、ストラテーグ侯爵は帰った。
レーヴァンはしっかり文句言って行ったけどね。
「やる前に言ってくださいよ。っていうか、やらないでください。こんなの投げられたら仕事の優先度ごちゃごちゃになるんですから」
確かに、突然片づけられそうだった案件に後になって別問題を差し込んだようなものだ。
けど僕はテリーの代に犯罪者ギルドなんて残す気はない。
帝都の支部を一つ潰したくらいじゃ大本は残るし、それは困る。
色々な実務丸投げ状態のストラテーグ侯爵には悪いけど、半端に終わらせる気はない。
「アーシャさま、あの警護の無礼は否定しません。けれど、言っている内容には同意もします」
おっと、ウェアレルからお説教だ。
しかもヘルコフとイクトも頷いてる。
暗号で書かれてる書類持ってきたとか言ってなかったからだろう。
忍び込んでたまたま目についたんだよね。
それで文脈おかしい感じだったから、セフィラに聞いたら暗号だろうって。
間違ってたらそれはそれで、間違えたと言ってストラテーグ侯爵に渡してしまえばいいかと思ってさ。
結局暗号の内容がわかったんだけど。
「これでも自重したんだよ?」
「…………まさか倉庫の内部をご自身で確かめることも考えたんですか?」
イクトに頷くとヘルコフが溜め息を吐いた。
「殿下、俺らは家庭教師だったり警護だったりで、第一は殿下の安全と暮らしの見守り。そこを無視されちゃあ、こっちも立つ瀬がないんですよ」
「き、危険なことはしないように倉庫には行ってないし、あの書類もついでで取って来ただけで」
うん、言い訳したけど結局怒られました。
時間かけた分だけ状況が変化して危険だとか、任務遂行に色気出すのは悪手だとか。
ごもっともです。
「殿下は一回軍に入隊してみます? 帝位継がない皇子が軍に入るってよくあった話らしいですし」
「下手に武力に近づくと公爵たちが警戒を強める可能性あると思いますが。ただ、規律や集団での行動の重要性を学ぶという点はいいかもしれませんね」
ヘルコフにウェアレルがちょっと前向きな感じだ。
イクトは考え込んで、僕を見つめた。
「根本的に、この歳まで集団行動をしたことがないのがそもそも問題かもしれない。しなくても周囲を見ること、突出しないことを理解してらっしゃるから失念しがちだが」
何やら僕の教育方針に話しがスライドしたようだ。
下手したらモリーの所に行くのも制限かかりそうな雰囲気。
ここは別の話題に逸らすべきかな。
だって集団行動とかすでに経験済みだし、前世で。
僕も怒られるとか、安全を担保できないと思えば踏みとどまることはできる。
倉庫がいい例だと思うんだけど、ちょっと僕の側近たちは過保護かもしれない。
「集団行動と言えば、三人はすごく息の合った連携だったね。軍隊にいたヘルコフと、狩人やってたイクトはわかるけど、ウェアレルもすごかった」
僕が口で説明しただけで、実際にできるなんて驚きだった。
同時に経歴上、戦闘慣れしている二人に、元教師のウェアレルがついて行けたのにも驚いている。
「それはルキウサリアの学園に在籍中、ダンジョンで体を動かしていたので感覚はそれとなく。ただ、やはり二人にフォローをしていただきましたよ」
「いや、本当に動けない者とやるよりずっとましだった」
「狙い真っ直ぐ外さないだけでもこっちもやりやすいってもんだ」
イクトとヘルコフが褒めるけど、待ってほしい。
「ダンジョン? ダンジョンってあのダンジョン? 魔物が出て来る?」
僕が前のめりで聞くと、三人は顔を見合わせる。
この世界にはダンジョンと呼ばれる場所がある。
別名魔力溜りといって、高濃度の魔力により時空が歪んで発生するそうだ。
中には魔力溜りになりそうな土地を選んで、ダンジョン化させる魔法使いがいるとか。
「イクトどのの冒険譚には目を輝かせていましたが、ダンジョン自体に興味が?」
「正直、とっても興味あるよ」
確認するウェアレルに大きく頷く。
実は魔法を使えるだけでも僕は楽しい。
極める気とかはないけど、そこは楽しむつもりでやってるし錬金術にも使える。
さらにダンジョンとなれば想像だけでも楽しい。
僕だって不自由なりにサブカルが氾濫する日本で生まれ育ったから憧れはある。
「ルキウサリアの学園は学生が使うようにダンジョンが作られています。在学生はそこへの入場が許され、時には試験で使われることもありますよ」
おぉ、漫画やゲームみたいだ!
ウェアレルが言うにはどうも運動場や実習棟とかみたいな扱いらしい。
だからこそ惹かれる。
つまりは危険がある程度管理された中で遊べるってことじゃないか!
ここでは損害を気にして使えなかった錬金術の実験もできるかもしれない。
「これは、チャンスでは? アーシャ殿下は周囲からの圧力を気にして学園への入学には消極的だったはず」
「そうだなぁ。これだけ前向きなら、その気になって頭使って入学できるように動くこともあるだろう」
イクトとヘルコフが頷き合ってるけど待ってほしい。
「僕、入学に消極的なつもりはないよ?」
「しかし、ストラテーグ侯爵に、入学しないとおっしゃったとか?」
ウェアレルはイクトを見て言うのは、きっとディオラと会った時のことだ。
「うん、今の状態だとね。絶対邪魔されると思うんだ。今は大人しいけど、ユーラシオン公爵の息子、僕と同じ年齢でしょ? つまり息子と同じ年に皇子が入学って、嫌がりそうじゃない?」
僕の推測に側近たちは顔を顰めながら頷く。
ユーラシオン公爵は帝位を狙うから、注目度とか気にするタイプなんだよね。
「だからできる限り陛下には今の内に力をつけてもらって、邪魔があっても対処できるようになってもらいたいんだよ。それと、ストラテーグ侯爵のような独自勢力持ってる人が発言権強まったら、少しは僕から目逸らさないかなって」
今回の犯罪者ギルド打倒のついでに、実はそんなことを考えていた。
もちろん主眼はテリーの気遣いを台無しにした犯罪者を捕まえることだけどね。
仕事増やした分、ストラテーグ侯爵もこの一件で見返りもあると踏んでのことだ。
さらにその見返りで僕の利点にもなってもらおうという寸法。
説明したら、側近たちは唖然としていた。
「俺、まだ殿下のこと侮ってたかもしれねぇ」
「年齢と共に成長しているに決まっていますよね」
「最近は子供らしく笑っていることが多かったので」
側近たちが何やらごにょごにょ言い合ってる。
まぁ、誤解がなくなったならそれでいいけどね。
(よく考えたら、弟と仲良くなって、将来の禍根排除できて、陛下の力も強められる上に、入学の可能性引き出せるって、今回のことはすごくラッキーだったかも?)
(異議あり。主人の幸運に対する期待値の低さを是正されたし)
なんだかセフィラに妙な突っ込みをされたのだった。
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