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63話:犯罪者ギルド3

 テリー、並びにワーネルとフェルの暗殺を実行しようとした、ヴァーファン組へのがさ入れが始まった。

 まずは町の守りを担う兵たちが、一家のアジトである屋敷の扉を開けさせる。

 そこからは武力衝突というか、すごい押し合いで最初の勢いに物を言わせて兵が乱入した。


 ヴァーファン組は応戦が間に合わず、怒号を喚き散らしながらも出入り口から遠ざけられるようだ。

 同時に裏口もこじ開ける手はずだから、さらに内部は混乱することだろう。


「本当に殿下も行くんですかぁ?」


 レーヴァンが隠すことなくただただ嫌そうだ。


「僕が怪我しても怪我したこと自体隠すつもりだから、責任問題にはしないよ。それにやれることがあるからいるんだし。さ、行こう」


 まだ入り口は兵が入り切らず押し合いをしている。

 僕たちはそれを横目に隣の家屋へとむかった。


 ばれないように突入が始まってから、近隣には事情説明と家から出ないように言い回っている。

 隣は住居ではなく何処かの商会の事務所で事情説明はされていない。

 けど何故かここ、夜も人がいるんだよねぇ。


「外からじゃ光漏れないように、雨戸からカーテンまでしっかり閉めてるなんざ、つまりは後ろ暗いところがあるってわけだ」


 ヘルコフが、ドア越しに外の様子を窺う相手がいることを知っていて、あえて声に出した。

 言葉に反応して一瞬虚を突かれたところを、力任せにドアを蹴破り、片腕を入れると鍵を外して内部に侵入を果たす。

 その物音を聞いて、さらに奥からすでに凶器にできる角材を片手にした顔に傷のあるお兄さんが出て来た。


 そこをヘルコフの陰に隠れていたウェアレルが風の魔法で吹き飛ばす。

 ついでに奥からさらに顔を出した新手にぶつけて二人を征圧。

 扉にくっついていた相手は、ヘルコフが殴り倒して黙らせる。


「えぇ? 昼は普通に商会で、何も違法なことしてないって…………」


 レーヴァンはさすがに、嫌そうな表情の上に苦み走った色も添える。

 今日のために調べた時には、違法性もなく表立っての関わりもなしだと僕も聞いてる。


 けど夜に人がいるとセフィラが言った。

 その言葉に怪しんで、ちょっと思いつきで隠し通路を探させてみたんだよね。

 するとビンゴ。

 隣のヴァーファン組から、こっちの商会に通じる壁に偽装した扉があった。


「アーシャ殿下が気づかなければこちらから逃げられていましたね」


 イクトが廊下の先で、動揺するレーヴァンに声をかける。

 ウェアレルの魔法の後に、すぐさまヘルコフの後ろから中へと突入していたんだ。

 そして倒れた二人の後の新手を警戒し、予想どおりさらに現れた敵はイクトが拳を入れて即座に黙らせている。


「この建物に裏口がないことは確認済みですから、新手が出てくる前に隠し扉を塞いでしまいましょう」


 ウェアレルは、イクトが新手に注意を向けている隙を狙った別の敵に風を叩きこむ。

 そうしてさらに、階段まで進む間に四人を倒すことになった。


「想定より多いな。やっぱり周辺調べてたのを嗅ぎつけられてたか」


 ヘルコフが熊の鼻を上階に向けてぼやく。

 まだ上にもいるらしい。


「階段を押さえれば退路は絶てるから無理しないで」


 僕は心配して言ってみるけど、誰もまだ一撃も受けてないんだよね。

 しかも剣持ってるのに抜かないし。


 室内で使いにくいことと同時に、僕を気にしてくれてるのかもしれない。

 そしてそれくらいの余裕はある状況と思っていいのかな。


「あの、玄関しか抜けられないって話です?」


 ついて行けてないレーヴァンは、こっちの建物はノーマークで内部構造もわかっていないようだ。

 僕の後ろにいるのは、ついてくるのがやっとであることと同時に、しんがりってやつをやってもらってるから。


「隣と繋ぐ以外の抜け道はないよ。けど地下にね、隠れられる部屋があるんだ」

「わかってるなら、わざわざ突っ込まなくてもいいでしょう」


 レーヴァンは僕に安全でいてほしいというか、あまり関わらせたくない感じだ。


「犯罪者ギルドと合わせて数をすでに分散してるでしょ。さらに裏口にも人数を割いてる。人が足りないから玄関のほうもまだ押し合い状態だ。だったら一カ所抑えるだけでいいこっちは僕たちで賄ったほうがいいじゃない」

「いっそ、地下まで逃がしてその部屋に押し込めて逃がさないでもよかったでしょう」


 レーヴァンが言うとおりにもできる。

 ほとぼり冷めるまで籠る可能性があるけど、そこは前世の文化でちょっと気になることがあったんだよね。


「逃げ場のない所に籠ってさ、極刑免れない罪犯してて、隠れ場所も露見してだよ? もはやこれまでって、永遠に口を閉じられる可能性ってない?」


 時代劇とかにあるよね。

 悪事が露見してから破れかぶれの大立ち回り。

 あれ、フィクションだからその後に裁きがあるんだけどさ、現実だとそんな命がけの特攻されたら迎撃してやられる前にやるしかない。

 さらには立てこもった密室で死なれるのも困る。

 だったら生きてる内に捕まえられるよう手を尽くすべきじゃないかな。


「あの、家庭教師方? 第一皇子にどういう教育してんですか? なんか物騒なこと言い始めたんですけど」


 僕に言い返せないレーヴァンが、妙な方向に矛先を向ける。

 階段を登ろうとしてたヘルコフがウェアレルをつつくと、ウェアレルは首を横に振ってイクトを差す。

 イクトは我関せずと言わんばかりにヘルコフを見た。


 まぁ、僕のせいかな、これは?


「経験豊かな人ばかりだから、僕が実際に体感してなくても想像の余地は多いんだよ。それよりここ、危ない場所なんだからいつまでもお話してる場合じゃないと思うんだ」

「あ、はい」


 レーヴァンはもう聞くのも疲れた様子で黙る。

 と思ったら、何やらぼやく声が聞こえた。


「…………俺、見張りのはずだったんですけど?」


 レーヴァンが黙った間に二階へ突入し、隠し扉のある三階を睨む。

 もちろん二階にも退路確保のための敵がいた。


 まずヘルコフがその目立つ体躯でタンク役をし、その後ろからウェアレルが魔法で遠距離攻撃で敵を近寄らせない。

 動きが鈍ったところをイクトが素早くアタッカーとして対処し、その上で新手が来たらヘルコフがカバーに入る。


「すごいなぁ。思いつきを言っただけでこんなに形になるなんて。みんな戦い慣れてる?」

「へぇ、この陣形って殿下の発案なんですか?」


 レーヴァンがだいぶやる気ない感じに聞いて来た。


「発案ってほどじゃないよ? 怪我少なく済むようにしたいっていう話をして、ウェアレルは後衛だから一番無傷っていうか、そこがやられるようなら撤退とか説明してもらって。攻撃力高いけど、ヘルコフは的になっちゃうから、いっそ動かない方向がいいとか。そのほうが僕のことも気にしてられるとか。で、そうなると前に出てもらうのはイクトになるけど、だったら安全に攻撃するために最後に動く形でやろうって」


 ようは口だけの僕だ。

 だからそんな話だけでこの動きをものにする三人がすごい。


 そんな話してる間に三階へ辿り着いた。

 どうやら敵は二階までで終わりだったようだ。

 セフィラに走査してもらったけど、廊下に出ている人はもういない。


「向こうの建物から追いつかれるだけだし、この隠し扉のある部屋の前にバリケードでもいい気はするけど?」


 僕は聞きながら、レーヴァンに見えない角度で指を二つ立てる。

 中にいる敵の数だ。


 すでに隠し扉で隣の建物からは脱出したけど、僕たちが下から上がっているのを知ってまだ部屋に潜んでる。

 セフィラ曰く、隠し扉の所で留まっているらしい。


「捕まえに行きましょうや。そのほうがストラテーグ侯爵へ、殿下のことを伝える時に口噤ませる材料になりますよ」

「我々が入りますので、決して前には出ないように。扉の影から顔を出すようなこともなさらないでください」


 ヘルコフとイクトが即決して、僕に釘を刺す。


「では、相手の隙を作るためにまず魔法を。室内での威力が十分弱まってから合図しますので」


 ウェアレルも乗って杖を構えた。


「これならこっちも侯爵さま連れてきたらよかったなぁ」


 子供の僕を連れてヴァーファン組の頭目を無傷で確保する。

 その結果を改めて見たレーヴァンが不穏なことをぼやく。


 報告めんどくせぇとか呟いてた気がするけど、僕は聞かなかったことにした。


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