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62話:犯罪者ギルド2

 さて、ヴァーファン組を潰すまでの流れだ。

 すでにストラテーグ侯爵が動いて、必要なところには根回しをしている。


 その上で、職権を侵されたと激怒するふりをしてもらうことになった。

 宮殿外にまで出張るのはストラテーグ侯爵のほうが職権乱用とも言えるけど、ここで食い込んでもらわないと困る。

 ただ宮殿内部の施設で、しかも警護している時の暗殺未遂事件だから強引でも押し通せる立場だ。

 ここは犯罪者を許すまじと盛大に怒ってもらい、要求も即刻犯罪者ギルドを壊滅させて実行犯は元より関係者すべての首を切れと過激に言い立ててもらう。


 もちろん狙いは以前話し合ったとおりの落としどころに据えるためだ。

 あと、僕が提案した資金源を断つための規制を盛り込むことも了承してもらった。


「癒着してる貴族も表立っては庇えない。その上でストラテーグ侯爵に手を引かせる公の言い訳も立たず、ルカイオス公爵並びに司教勢力も後押しとなれば、通る目算は高かったかと思われます」


 そう語るウェアレルは、夜の帝都で目の奥が光るようだ。

 獣人の血だろうか。


「こんな帝都での大捕物に、宮中警護だけじゃなく俺らまでねじ込むとは。よっぽどの役者らしいな」


 同じく目が光るヘルコフは、僕が裾を握っていることを定期的に確認していた。


「捕り方で金を貰っていないと言える者が案外少なかったそうで。情報漏洩防止に人数を絞るほかなく、それであればとねじ込んだそうですよ」


 名目上はストラテーグ侯爵を上司とするイクトが、内情をばらした。


 どうやら帝都の犯罪者を取り締まる役割の人たちは、収賄をしていたようだ。

 犯罪者ギルドからか、ヴァーファン組からかはわからないけど。


 この世界、丸暴とかないし、警察組織もないので、区画や職権で役割を別けてる。

 殺人も泥棒も詐欺も密輸も場所が同じなら同じところが担うらしいけど、ノウハウとかどうなってるんだろう?

 だから検挙率低くて、犯罪者ギルドなんて存在してるのかも?


「お三方、こっちです」


 暗い帝都でレーヴァンが明かりも持たずに呼ぶ。

 街灯はあるけど前世ほど明るくない。

 そんな中、レーヴァンが道の角から窺うのは一軒のお屋敷だった。


 都市部にある左右の建物とぴったり壁をくっつけている造りだけど、高さもあれば奥に広さがある屋敷だ。


「いい家住んでんじゃねぇか」


 ヘルコフが腐すそこは、ヴァーファン組の本拠地。

 後ろ暗いことをしているはずなんだけど、隠れもしない立派な屋敷。

 けど、ヤクザも事務所や純日本家屋のイメージだし、そんなものかもしれない。


 別に犯罪者だからって怪しい建物に住んでるわけじゃないんだ。


「裏口も押さえてあるんで、合図が来たら突入ですよ。ただし、俺らは最後ですから。俺ら以外の宮中警護は裏口のほうに行ってます」


 レーヴァン以外周囲にはいないけど、他にも宮中警護が参加してるそうだ。


「なるほど、どうやらねじ込んだだけで、私たちは漏らさないよう囲むだけの人手に回されたと」


 ウェアレルが言う間に調べると、表は配置された人が多いとセフィラの走査でわかる。

 最後に動いてもほぼやることはないだろう位置だ。


「同時刻に犯罪者ギルドの支部も潰すもくろみなら、実行犯とは言え小さな一家。こんなものでしょう」


 イクトは特別に許されて、帝都内でも帯剣している腰の得物を撫でる。

 ヘルコフも剣を腰に下げており、ウェアレルは見たことない大きな杖、ロッドってやつを持っていた。


「言っときますけど、余計なことはしないでくださいよ。お三方をここに呼んだのは、あの殿下がなんか本気っぽいから、形だけでもって話で。乗り気で武器持ってるとこ悪いですけど、やることないですからね」


 レーヴァンは街灯に半分照らされた顔で言い聞かせる。

 どうやらストラテーグ侯爵が僕の側近たちを入れたのは、動きを抑えるためらしい。


 そうと教えられても今さら困る。


「…………ちょっと、なんで全員そろってあらぬ方向見るんですか。そこ怒るとか、突っかかってくるとか」

「遅いんだよなぁ」


 不安に駆られたレーヴァンへ、ヘルコフがあらぬ方向を見たまま呟いた。

 溜め息一つでウェアレルは、懐を探る。


「こちら、ヴァーファン組の上部組織、クーロー組が出した指示書の控えになります」

「なぁ!?」

「大声を出さない」


 イクトがわかっていたようにレーヴァンの口を押える。

 鼻まで押さえられたレーヴァンはもだえるけど、イクトはついでに片腕も押さえていて抵抗が難しいようだ。


 そして酸欠になって、抵抗もできなくなったところでようやく解放する。


「アーシャ殿下はやると決めたらやりますし、誰の許可も求めはしませんよ」


 イクトが壁に縋って深呼吸するレーヴァンにそう教えた。


 まぁ、ここまで宮殿から一緒に来なかった理由だよね。

 ちょっと先に宮殿を出て、三人に守られながらクーロー組まで行って来たんだよ。


 場所? セフィラが調べたよ。

 人の目? セフィラが問題なくしたよ。

 書類? セフィラが捜査しただけだよ。


「ほ、本物? だいたい犯罪の指示書に控えってそんなのあるわけ」

「よく見てください。これは犯罪者ギルド側からの依頼書も兼ねているのです。危なくなればギルドの力を借りる証明書でもあります。クーロー組からすれば皇子暗殺などという危ない橋。控えという保身は握っておいて不思議はありません」


 ウェアレルの説明に、ヘルコフが補足する。


「すでに失敗して犯人探しは行われてる。保身の大事な書類だ。大事に仕舞い込むんじゃなく、すぐ手に取れるところにあったそう、あったぜ」


 伝聞形式を言い直した。


 うん、僕が行ったからね。

 一番小さいからセフィラの処理が楽だし。

 もちろん反対されたけど押し通した。


(まさか安全を確保するって話でセフィラが援護してくれるなんて思わなかったけど)

(能力を疑われるに等しくすでに証明済みの事案です)


 あぁ、かくれんぼ?


 もちろんセフィラのお蔭もあって、一人で侵入し、最短で安全なルートを選択してもらった。

 正直、ドキドキもハラハラもないただのお遣い、行って取ってくるだけで終わってる。


「なんで、いや、あんた方そこまですごい人たちだったんですか?」


 レーヴァンが書類受け取って本物と見るや、茫然と側近たちを眺めた。


 ちゃんと犯罪者ギルド、クーロー組、ヴァーファン組、そしてエデンバル家も名前はなくても印やなんかで全て揃ってる書類だ。


 その上で、側近たちの力を上方修正するらしいレーヴァン。


「なんでそんな人たちがあんな宮殿の端っこでくすぶってんですか?」

「こんな神業できるわけないだろう?」


 そのまま誤解させておいてもいいと思ったんだけど、イクトが呆れたように否定した。

 レーヴァンは意味がわからず、もう一度書類の真贋を確かめようとする。


 ヘルコフが、裾を握る位置から推測したらしく、僕の手をつつく。


「見てきた感じ、確実にストラテーグ侯爵が手を切れないらしい相手ですし、一人は抱き込んでおいたほうがいいと思いますよ」

「そうですね、今回のことが何処まで広がるか少々未知数のところがあります。中心となるストラテーグ侯爵に直接ものが言えるパイプはあったほうがいいでしょう」


 ウェアレルもどうやら賛成らしい。

 そしてすでにイクトがレーヴァンの口を塞いでる。


 しょうがなく僕は姿を現した。


「ストラテーグ侯爵の心痛強めないためにも、まずは見ないふりしてほしいかな? 全部終わってから実はって話すか、胸に秘めておくかはレーヴァンが決めていいし」


 突然ヘルコフの影から顔を出した僕に、レーヴァンは目を見開く。

 そして薄暗い中でもひどく目が動揺しているのがわかった。


 衝撃が強すぎてちょっと時間がかかったけど、脱力したのを確認してイクトが手を放す。


「色々言いたいことはありますけど…………なんでいるんですか?」


 レーヴァンは根本的なところから聞いて来た。


「潰すと口にされたからには自らそのために動く。アーシャ殿下はそう言う方だ」


 僕が言う前に、イクトが答える。

 たぶんレーヴァンはどうやってって聞きたかったんだろうけど、言うつもりはないしね。


「あ、陛下にも言ってないからそこは秘密でね」


 僕のお願いに、レーヴァンは聞いてないとでも言うように耳を覆ったのだった。


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