61話:犯罪者ギルド1
ようやく犯罪者ギルドを調べていたストラテーグ侯爵のほうから報せが届いた。
ディオラと再会したり、小雷ランプを修理したり、ノマリオラと色々あったけど、それでも気になってたんだ。
「第一皇子殿下がおっしゃる建造物を見張っていたところ、確かに犯罪者ギルドの支部であることを確認できました」
どうやって確認したのかわからないけど、だいぶ時間がかかったと思うのはフェアじゃないんだろう。
何せ僕は不可視で壁も透過できるセフィラを使った結果だし。
「また、他にも実行犯が出入りしたという建物を調べたところ、組織犯罪を行う一家の持ち物であることがわかりましたな」
「組織犯罪を行う一家? え、家族ぐるみなの?」
ストラテーグ侯爵の説明に聞き直すと、ヘルコフが赤い被毛に覆われた手を横に振った。
「本当の血縁関係じゃないですよ。親子の契りというような形式で、絶対服従と裏切りの重罪化を謳うのは組織犯罪集団では一般的でしてね」
それを一家と呼ぶそうだ。
つまりあれだ、ファミリー。
あ、たしかヤクザもなんとか一家っていうね。
「そんなのいるなら取り締まらないの?」
「取り締まってもいますが、まず犯罪被害が表に出にくいんです。恐喝や暴力は当たり前。報復は執拗に、悪質に。そうして稼いだ金でさらに他の者の口を塞ぐ始末」
今度はイクトが教えてくれるんだけど、どうやら市井では一般常識っぽい。
「じゃあ、犯罪者ギルドは?」
「そっちはさらに面倒な形態だと聞きます。元は力の強い一家が四つ集まって、不可侵の条約を結んだことから生じたとか。傘下の一家も入って巨大化し、今では犯罪によって知りえた情報の売買や、獲物の競合を避けるための談合など。噂では貴族も噛んでいるとか」
「不確かなことを言うものではない」
ウェアレルにはストラテーグ侯爵が釘を刺す。
ただ側近やレーヴァンたちの表情を見るに、まるきり噂だけとは言い切れないようだ。
「公然の秘密ってことか」
「滅多なことを言わないでいただきたい。それとも、そう言うにたるご経験が?」
ストラテーグ侯爵が渋面ながら切り返して来た。
「それだけ悪いことしてる人がいるってわかってるのに取り締まらないってことは、需要があるからだ。そして金を荒稼ぎしてまでさらに使うってことは、それが有効だから。取り締まる側の口もお金で塞げるんじゃないかと思って」
聞かれたから答えたのに、ストラテーグ侯爵は天井を仰ぐ。
うん、金で口塞ぐって言うイクトのほうを否定しなかったからね。
レーヴァンはもう無礼なんて気にせず、面倒そうに言った。
「そこまでわかるなら説明いらないんじゃないです?」
「説明してくれないなら僕は僕が正しいと思うことをするだけだよ? それだと報告とか、後始末とかが面倒だから、整合性が取れるよう準備するのを待ってほしいと言われて待ってたのに」
セフィラから得た情報を流して、侯爵が確認。
それと共に相手を捕まえるために準備と人手の手配をするというから待ってたんだ。
僕の言葉にストラテーグ侯爵が諦めたのか溜め息を吐いた。
「はぁ、続けよう。実行犯を出したと思われる一家は、ヴァーファン組と呼ばれており、フィリオという頭目が二百人の構成員を従えている」
「それって規模としては大きい?」
「小さいほうだ、と言えば想像はつくでしょうがな」
「うん、親に当たる別の一家が指示してヴァーファン組にやらせたってことでしょう?」
つまり、皇子を暗殺するなんて大それたことを実行するヴァーファン組の他に、実行させるとんでもない組織が別にあるってことだ。
依頼をしたのはエデンバル家だとしても、危険な犯罪者が野放しになっている。
(セフィラ・セフィロト)
(すぐに現地に向かい上位組織の特定を行います)
(そこはきっとストラテーグ侯爵が知ってる。話を聞いてからでいいよ。ただ、場合によってはこっちでどうにかしよう。組織を相手に有効な手を考えておいて)
僕が胸の内で話していると、声をかけられた。
「何をお考えです? なぁんか嫌な気配するんですけど?」
レーヴァンが鋭いな。
僕が数年で慣れたように、レーヴァンもこっちのやり方に慣れたかな?
「ヴァーファン組だけに対処するなら、上を調べてそっちは僕がとは思ったけど?」
レーヴァンの顔が引きつり、ストラテーグ侯爵は顔を覆う。
「殿下、それはさすがに危ないですよ?」
ヘルコフが言うと、ストラテーグ侯爵とレーヴァンが揃って頷く。
「けど大掛かりになって潰すとなると数年がかりでしょう。帝室が狙われたし、見せしめだけはしなきゃいけないから、潰すならヴァーファン組止まりの可能性がある。だったら、逃れようのない犯罪の証拠一つちょっと盗んで陛下に渡せば」
「入手経路を陛下に詰問されることになりますが?」
ウェアレルも心配が勝るのか問題点を挙げて再考を促す。
「そこはちょっと言い訳考えないといけないけど。テリーたちの安全のためにも残しておくわけにはいかないし。陛下の権威づけに使えるなら使わないと損じゃない?」
「そうですね。噂、とは言え関与が疑われる貴族が横やりを入れるのは目に見えています。そうなると長引かせるよりも、短期で確実な一刺しは有効ですし、結果としては安全でしょう」
僕が考えてないわけじゃないとみて、イクトが頷いた。
「待て!」
けどさすがにストラテーグ侯爵が止めに入る。
「つまり、なんだ? 可能なのか?」
僕が証拠を手に入れることをまず疑っているようだ。
側近たちはセフィラと不可視化を知ってるから受け入れたけど、そこからだよね。
もちろんセフィラのことを言う気はない。
「…………やる気があるなら情報渡してもいいけど、ちゃんと目途立ててほしいな」
「否定しねぇ…………」
レーヴァンも嫌そうに言うけど、ストラテーグ侯爵は眉間を揉んで気を取り直す。
「上との繋がりの証拠は、ヴァーファン組を押さえてからと考えており」
「それじゃ遅い。エデンバル家がそうだったでしょう。リトリオマスを捕まえて情報を聞き出して、それから問い詰めても遅かった」
実際今も言い逃れされていて、リトリオマス以外の関与を明確にできていない。
このままだとエデンバル家は宮殿から遠ざけられてもそのまま残る可能性があるし、裁けてリトリオマスの近縁者のみとなる。
犯罪組織が前世のマフィアやヤクザと同じなら、貴族との繋がりによって情報漏洩もありえるだろう。
だからこそ動いた後では遅いんだ。
「まず見せしめのためにヴァーファン組を確実に潰すのです。そこから再発防止、抑制のために厳罰化と取り締まり強化、規制強化を企図した行動であり、急ぐばかりが最善ではないのですが?」
「それができるだけの意見は集まってるの? ストラテーグ侯爵」
「帝室が襲われた、ことが聖堂でなされた。この二点が大きい。ルカイオス公爵はもちろん、司教側もことを重く見て賛同していますな」
政治的な手回しはちゃんとしてたらしい。
小さいながら、自分だけの派閥を維持してるだけはある。
「あなたが拘る第二皇子殿下の御代までには排除できるでしょう。もちろん、情報提供があればそれが早まりますが?」
情報は欲しいけど僕に動いてほしくないってことか。
あとは父のようなまだ力の弱い皇帝が出ても、事態の収拾が遅くなるだけだから引っ込んでいてほしいとか。
警護をつけていた責任者として前に出なければいけない立場だとか。
ここまでやって今さら皇帝に出てこられてもってことかな?
「…………うん、陛下にはエデンバル家を排除することを全うしてもらおう。ストラテーグ侯爵には犯罪組織のほうをどうにかしてもらったほうがいいか」
「賢明な判断だとは思いますけど、なぁんで十歳がそこまで物分かりいいんですかね?」
レーヴァンが僕の肉体年齢を疑うようなこと言い出す。
まぁ、答えないけどね。
「ストラテーグ侯爵、僕からの要請としては見せしめの一環を装って、組織犯罪集団の資金源を断つ規制も入れてほしい。あと暴力的な報復を想定して、前に出しても身を守れる人っている? どうせならその人を襲う時を待って逆に厳罰化の促進に使えないかな?」
前世を参考にして提案してみると周りがドン引きしてしまった。
側近たちも困った顔してる。
(あれ? だめ?)
(主人の視点が子供のそれではないと改めて認識したと思われます)
まさかのセフィラに窘められてしまったのだった。
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