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24話:魔法と科学4

 科学では実用化も難しい光学迷彩。

 言い換えれば透明人間化だ。

 科学の上ではレーダーなどの中では可能になってたはずだけど、素材や反射が違うと無理だとかいろいろ問題はあるらしい。


 けど魔法を取り込むことで、なんと、できました。


「もしかしてこれ使えば、僕も自由に外へ出られる?」

「ちょっとお待ちを」


 ワクワクして聞いたらイクトからストップがかかった。


 僕は今セフィラ・セフィロトにお願いして体の縦半分で割る形で透明化中。

 全体を消す予定だったんだけど、止められたのでそのまま次の言葉を待つ。


「あ、殿下。それなんか怖いんで戻ってください」


 ヘルコフに言われたので僕は声に出さず命じる。


(セフィラ・セフィロト、戻して)

(試行の中断理由として不適当です)


 邪魔されたことに文句を言いつつも、セフィラは光学迷彩を解除した。


(光学迷彩なる技術の実証実験求む)


 改めて要請されました。

 本当に好奇心を放っておかないんだから。


 けどイクトたちは顔を突き合わせて話し合い中だ。

 漏れ聞こえる内容は僕だけを出すなんてさせられないとかの安全面での懸念。


 お仕事の関係とか、責任問題とかあるもんね。

 まだ子供で自由に行動することを許されてない僕が外に出る、しかも許可を取らずにとなると知ってて見過ごすなり協力する側近が責められるんだ。

 そうならないためには絶対ばれないという確信が必要なんだろう。


「じゃあ、ついでに実験もしよう。三人とも、かくれんぼするよ」

「アーシャさま、それはまさか、この室内でその見えなくなることで私たちを試そうと?」


 ウェアレルが落ち着かない様子で三角の耳をくりくり動かす。


「逆だよ。みんなが試すんだ。僕とセフィラが隠れるから、百数えたら捜しに来て」


 僕は言いながらエメラルドの間から出て行く。

 瞬間セフィラが僕を見えなくした。

 最近は側近にお願いされて光ってたのにそれも消して見えないようにする。


(推奨、机の下)

(それじゃつまらないよ。見えないこととそれによって身を守れるってことを証明しないといけないんだ)


 これは隠れてるだけじゃ駄目だ。

 危険となったらそのまま逃げられるくらいのことを証明しないと、きっとあの三人も許可を出してくれない。


(同じ部屋に誰か来たら離脱を計る)

(了解)


 こうして広い部屋を初めて有効活用した僕たちのかくれんぼが始まった。


「おや、そこですね。ほう、見えないのに掴める?」


 僕は金の間の暖炉脇から移動しようとしてイクトに肩を掴まれる。

 観念して姿を現すとまた驚かれた。


「どうしてわかったの? 見えてなかったんだよね?」

「足音や身のこなしで衣擦れが。あとはアーシャ殿下の身長を考えたところちょうど肩を」


 動いた音で大きさと向かう動きを予測してのことらしい。


「もう一回! セフィラとちょっと話し合ってからもう一度!」


 ここで靴を脱いで足音を殺すのは違う。

 僕はセフィに音を反射させて消す方法を教えた。

 足音なら僕の体重や床と靴底の硬さなど情報は揃ってるのであとは調整だ。


「…………そこですか? ふむ、確かに見えなくなるだけのようですね」


 青の間に隠れてたら動く前にウェアレルに見つかった。


「目を閉じて魔法使ってたよね? 風がちょっと来た。…………もしかして風の通り方で、ないはずのものがある場所を探り当てたとか?」

「正解です。風を三段に分けて周囲に放つことで、しゃがんでいた場合の漏れもカバーしていました」


 均一に風が当たらない場所には物があると睨んでのソナー的な活用だ。

 目で見ても何もないのに魔法で手応えがあればいるのはばれることがわかった。


「む、これは反射じゃ駄目だよね」

(魔法の発生は予測可能です)

「けど打ち消しても結局他とは違う反応出るし…………」


 セフィラとまた打ち合わせをして僕は再度かくれんぼに挑む。


 けど本物の透明人間ではないのだから、そこにいることはどうしようもない。

 見えないように聞こえないようにしないといけない。


 エメラルドの間に戻って考え、目を上げると形も大きさも違うフラスコの数々がある。


「いや、待てよ。あることはあるとわかるんだ。それなら木を隠すなら森作戦、デコイを発生させよう」

(仔細を求む)


 僕はセフィラと相談して今度は風や水といった波状の探査に対して、あると誤認させる魔法を別に作動させた。

 そこは音を打ち消すのと同じように、波状の探査を遮断するように見せかけた魔法だ。


 これが功を奏し、ウェアレルは僕たちを捕捉できなくなる。


「まぁ、色々思いつくもんだ。おら、そこだ!」

「うわぁ!?」


 けど赤の間へ抜けようとした時、ヘルコフに素早く襟首をつかみ上げられた。


「音もデコイも駄目って、ヘルコフの嗅覚反則だよ」

「まずもって姿が見えない殿下のほうがすごいんですよ」


 ヘルコフに降ろされてなんだか諭されるように言われる。


(献策、嗅覚を麻痺させる臭い物質の散布を推奨)

「直接鼻潰すのはなぁ。それに僕自身が臭いを発してるんだから動いたら気づかれるし」


 ウェアレルのような画一的な方法ならデコイで行けた。

 けれどヘルコフは本能的に生の臭いを嗅ぎわける。


 消臭しても無駄だし、別の臭いに置き換えても見つかった。

 セフィラが言うように嗅覚自体を攻撃はできるけど、それは足音を消すために靴を脱ぐのと同じだ。


「よし、今度は魔法を使おう」

「まだやるんですか、殿下?」

「だってヘルコフだけだもん」


 二人で青の間へ向かうと、そこには座って休憩中のイクトとウェアレルがいる。


「また捕まりましたか?」

「ヘルコフどのは経験が違いますね」

「いや、俺も休憩したい」

「まだ次の授業まで時間あるから」


 僕はヘルコフを置いてエメラルドの間でセフィラに術式を入れ直す。

 けどその日は結局ヘルコフを出し抜くことはできなかった。


 三日後。


「もうわからん、降参ですよ、殿下」


 僕はヘルコフの声に姿を現す。

 するとウェアレルとイクトが拍手を送ってくれた。


「まさか獣人の鼻を惑わすとは。風魔法で臭いの元をわからないようにというのは最初上手くいかなかったようでしたが」

「どんどん偽装が上手くなって行ってな」


 疑問を上げるウェアレルにヘルコフが鼻の辺りを擦りながら答える。

 イクトは満足そうにうなずいてた。


「アーシャ殿下の成長ぶりは素晴らしい。少し足さばきを教えただけでも良くなりました」

「お前ら面白がって教えるからどんどん上手くなっていったんだよ」


 ヘルコフが文句を言うとおり、ウェアレルも風の魔法の上手い操り方教えてくれてる。


「ねぇ、これで外出てもいい?」

「しかし私どもも理由なくアーシャ殿下から離れるわけにはまいりません」

「ま、結局は殿下一緒のほうが動けはするんですよ?」


 イクトとヘルコフ曰く、僕がいるから側近たちも宮殿をふらふらできるんだとか。

 住人である帝室関係者よりも、そこで働く者のほうが厳しく出入りできる範囲を制限されているんだって。

 けど僕が行きたいのはもっと別の所だ。


「宮殿の外に出てみたい。この帝国の都を見てみたいんだ」


 宮殿は街一つくらいの広さがあって、生活するには全く出なくても問題はない。

 けど、問題がなくても観光をしたいと思ってしまうのは、前世が日本人だった僕の好奇心だ。


 僕が希望を告げた途端、側近はそれぞれが難しい顔で考え込む。

 そしてウェアレルが呟くように言った。


「ご覧になったことは、一度切り、ですね」


 確かに父が皇帝になる前は郊外の屋敷で暮らしてたはずだけど。

 世間知らずすぎることか、それともいまの出入りを監視される立場か。

 何やら沈痛な顔をされてしまったのだった。


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