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22話:魔法と科学2

「また増産のお願い? なんだか新しく作って持って行ってもらうと毎回だね」

「なんか、ブランドとして絞って売り出すにも元の数が少なすぎてとかなんとか泣き始めてですね、あ、あいつの奇行はどうでもいいんで」


 ヘルコフがまたお酒の増産を持ちかけられたと話す。

 それだけ売れてるんだろうけど、売る物がないと売りたいのに売れないと泣きつかれたそうだ。


 どうやらお酒屋さんのほうも予想外の名前の売れ方に商品がついて行かず困っているらしい。


「そう言われても、ここにある設備だけで作るには限度があるんだよね」

「それに外部から酒類を持ち込むにも限度があります。すでにヘルコフが酒乱ではないかと噂になっていますから」


 イクトがとんでもないことを言い出した。

 どうやら宮殿の出入りで持ち物検査があるそうで、僕がお願いしてるお酒も調べられるんだとか。

 売り出してからは持ってきてもらう量が増えたんだけど、そのせいでヘルコフが持ち込んだり持ち出したりが多く、それだけ酒を肌身離さないと噂らしい。


「ごめん、ヘルコフ」

「いやぁ、俺が酔ってるかどうかもわからねぇ節穴の言葉はどうでもいいんですがね。結局は量増やせないって話でしょう」


 ヘルコフは赤毛に覆われた手で耳の辺りを掻く。


「その内偽物が出てそっちが数売れば本物が売れなくなる。不味ければそれだけ客が手を引いてやっぱり売れなくなるってうるさいんです」

「それは、そんなことに関わるだけ損では? アーシャさま、手を引かれるべきではありませんか? あなたの才覚であるなら酒以外でも売れる物を作れるはずです」


 ウェアレルは耳をピコピコさせながら退き時だという。


(場所が悪いのならば場所を変えるべきであると提言)


 セフィラが身もふたもないこと言い出した。

 けど血縁とか立場とかないセフィラからするとそうなるだろう。


「セフィラが場所変えろって。けどそれ、僕に皇子やめろって言ってるようなものだしね」


 セフィラに答えるために周囲に聞こえるよう声にだす。


「さすがに八歳で親元離れて自立できるほどの甲斐性はないです。その元手もないです」


 だいたいそのお金のためにお酒造り始めたんだし。


「セフィラは賢いのかなんなのか」

「記憶力はいいんでしょうが人間を知らないようですね」


 困るウェアレルに、イクトがそもそも常識が違うことを上げる。

 側近たちは僕が指すセフィラのいる方向に帝室についてや国についてを説明を始める。


(見張りが邪魔であるならば排除すべし)


 うん、余計に物騒になった。


「人間関係の機微はまだ難しいみたい」

「親も兄弟もなければ基礎がそもそも違うんでしょうね」


 ウェアレルが説明を諦めると、ヘルコフが僕を見下ろす。


「親と言えば殿下じゃないのか?」

「主人と呼んで命令は聞くとか」


 イクトは正体不明のセフィラを警戒していたので、従順なことは教えてある。


 三人はそれぞれ別の方向に目を向けた。

 もうセフィラの位置がわからなくなってるんだ。

 そういう僕もセフィラに自己申告してもらってるからわかるだけ。


「これ、セフィラに見えるように意思表示してもらったほうがいいかな?」

(仔細を求む)


 早速食いつく好奇心の塊。


「もしやホムンクルスですか?」

「それはまだ早いし設備が足りないよ、ウェアレル」

「錬金術で動く人形というものがあるとか」

「そっちはゴーレムだね、イクト」

「まぁ、場所わかったほうがこっちも楽だしな。けどどうやって?」


 ヘルコフが一番単純に聞いて来た。


「見えるようにするだけなら別に体とか物質はいらないんだよ」


 僕は大きいビーカーの中に、小さいビーカーを入れる。


「まず人間の目に見えるからある、見えないからないってわけじゃないし、視覚っていうのは案外適当なんだ」


 水を注いでいくと小さかったビーカーは空気中より一回り大きく見える。

 これは光の反射が空気中と水中で違うから起きる錯覚だ。


「触れば実際の大きさはわかるよ。けど、目で見る物は実物の真実ではない」

「む、これは…………」


 イクトが一生懸命睨むようにビーカーを見るけど、大きく見えてしまう錯覚は変わらない。

 他にも光の反射による錯視の実験をした。

 それによって何が言いたいかというとだね。


「見えるっていう現象は、つまり光を見ることなんだ。夜がわかりやすいと思うけど、光がなくなったら途端に見えなくなるでしょ」

「なるほど。セフィラが光を操ることでその姿をあるものに見せるということですか」


 本当にウェアレルは理解が早い。


 セフィラは魔法が使える。

 僕が術式を仕込めば狙ったとおりにも動く。


「なんか、魔法で幻惑されたなら解けるのにこれ全然、正確に見えないな」


 ヘルコフもイクトと一緒になって錯視をどうにかしようとしてる。

 そこは体の機能だからどうしようもないんだけど。


 今度盲点の実験させたらどんな反応するだろう?

 見えていた点が消失して、そこに見えていると錯覚する脳の働きとかきっと知らないはずだ。


「うん、何か引っかかるな。ないけど見える、あるけど見えない?」


 僕は呟いて思い至る。


 見えてるからお酒を大量に持ってるヘルコフが奇異の目で見られるんだ。

 だったら見えなくすればいいんじゃない?


「よし、セフィラ。ちょっと他にやりたいことできたから雑に術組むけど、後で自分で最適化しておいて」


 セフィラも魔法を使って軽く風を起こしたり火を起こしたりで自己主張できる。

 けど安定しないし僕が術を組むことで安定させていた。


(主人は何を望まれる?)


「僕の望み? セフィラ、いきなりどうしたの? いや、そう言えばこれって僕たちの会話を元に言葉発してるはずだから、僕こんなにわかりにくい?」

「そんなことはありませんよ、察するにセフィラ自身が酷く合理的で不必要と断じた言葉を省いているのでは?」


 ウェアレルの推測に、ヘルコフは納得の様子。


「本を多く読み覚えているにしては詩的表現をしないのもまたそうした理由でしょうか」


 イクトに言われて想像してみる。

 詩的に喋るセフィラ?


 うん、おかしな想像しかできないしこれでいい。

 というかなんか生き物かどうかも怪しいし、よほど迷惑じゃない限りは本人のやりたいようにがいいだろう。


 肉体がない状態で気を付けてやれることってすごく少ないし。

 外見を整えることで表現ってものを覚えてくれればいいな。


(…………主人の望みを叶えるべくするべきことはなんでしょう?)


 あ、言い直した。


「つまり僕の手伝いをしたいの? もちろん、セフィラにやってもらいたいことができたんだ。それをしてもらうためにちょっと僕のほうでも考えを纏める必要があるからね。あ、はいこれ。術式」


 人間は全ての魔法が使える。

 ただし極めると言えるほどの威力も範囲もない。


 けど魔法として発現できるし、構成を理解すれば魔法陣と呼ばれる術式を組むこともできる。

 他の種族だと自分に合った属性しかできないそうだ。

 純粋な獣人に至っては魔法陣を書くこともできないとヘルコフに聞いた。


 たぶん身体強化という魔法の適性から、外向きに影響させることができないんだろう。

 それで言えばセフィラは人間に近いのか使う魔法に属性の縛りはない。

 だったら僕の考えてることを実現できる才能がセフィラにはあるかもしれなかった。


「うわ!? 眩しい!」


 なんて考察している間に、渡した術式で早速光ったセフィラ。

 僕たちに目つぶしを食らわせるという失敗をしたのだった。


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