望郷

作者: 揺木

曇り空を見上げて、ふと故郷を思い出した

もう、しばらく

と言うには短いかもしれないけれど

自分にとっては随分と、帰っていない故郷


この曇り空は、故郷の冬には到底足りない

なんてことを、真夏も近づくこの時期に思い出す

そんな自分が、可笑しくなった


帰りたいけれど

帰れない

まだ帰るわけにはいかない


故郷の冬の曇り空は

雪を降らせる雲が覆う空

ねずみ色と灰色の中間くらいの

分厚く重たい、空の色


特に好きだったわけでもないのに

なぜだか、ふっと思い出す色


ああ、雪景色が見たいなあ

道端の雪を蹴飛ばしたいなあ

野原に積もった雪に飛び込みたいなあ

雪かきだって、今なら喜んでできるかも


おっと、今は夏だった

夏と言えば、花火大会


大きな花火が見たいなあ

空一面を埋め尽くす、大輪が見たいなあ

みんなの思いが詰まった、小さな花が見たいなあ

人混みは、今は勘弁してほしいけれど


今は、今なら帰っても許されるかなあ

でもまだ、帰るのは怖いなあ


ああ、はやく

故郷に大手を振って帰れるようにならないかなあ