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皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪

 目が覚めると、真っ白な世界に私は立っていた。


「ここは……何処なんだろ……?」


 起きあがり周りを見るが、出口の様なものや、入口のようなものも無かった。

 しばらく惚けていると、目の前から二人の人が近づいてきた。


「ようこそ真木さん、あなたを待っていましたよ?」


「こちらに来なさい、少し話しておきたい事があります」


 よく見ると、二人の背中にはそれぞれ、異なる対の色をした翼が生えていた。


 一人が持つのは純色の白。

 とても綺麗で、思わず自分の目にいれていいものか悩める程のものだ。


 もう一人が持つのは純色の黒。

 とても綺麗で、見とれては取り憑かれてしまいそうな迫力がある。


 私の視線に気が付いたのか、二人は微笑を携えながら注意してきた。


「私達の翼をあまり直視しないほうがいいですよ?」


「真木さんのような人間が直視れば悪影響しか与えませんからね」


「あ、はい」


 私は阿呆のような返事をして、二人の翼をあまり直視しないようにして二人を追った。


 到着したのは真っ白な部屋だった。

 唯一黒を持っているのは、真ん中におかれている机だけ。

 それ以外には家具どころか装飾品すらおかれていない。


 私があっけに取られていると、二人は手招きして、椅子を一つ私に勧めた。

 私はされるがままにそれに座って、身を小さくする。


「そう固くならないでもいいよ?」


 白い翼を持つ、改めてみると綺麗な男性が、私に紅茶を差し出した。

 同じように黒い翼を持つ、これまた改めてみると端正な顔立ちをした男性にも紅茶を入れている。


 私はいれられた紅茶を飲む。

 基本的に食べられるものはなんでも食べる! 主義の私でも、この紅茶はとても美味しいと思えた。


 すると、同じように紅茶を飲んでいた男性が、思い出したように手を打つ。


「自己紹介がまだだったね? 私の名前はルシファー、悪魔だよ」


「そういえばそうだったね、私の名前はシルフィー、天使だよ」


「えっと……私は」


「真木さんでしょう? 知っていますよ、とても心が綺麗な方だ」


 黒い翼を持つ悪魔、ルシファーさんに言われると恥ずかしくて耳まで赤くなる。

 シルフィーさんが、それを微笑ましく見るも、少し慌てたように始める。


「実は私達は真木さんに一つお願い事をしたいんだ」


 お願い事。

 その単語を聞いた瞬間、私は背筋を伸ばして姿勢を正す。


 私に出来る事ならなんでもします!

 だから、私からもう二度と奪わないでください!


 そう言った感情を押し込めながら、ルシファーさんとシルフィーさんを真剣なまなざしで見る。


「実はね……あの子の事を、君がグレイと名付けた天使の事を守って欲しいのだ」


「グレイはね、生まれた時から親に見捨てられて、一人で生きてきた、たった一人でだ」


「それがいけなかった、誰でも良かったんだ……何人か、いやそこまで贅沢は言わない、たった一人でも良かった、誰かがグレイの友達になっていてくれれば、おそらくグレイは自分を閉じる事は無かったんだ」


「そして、グレイは自分を呪って呪って呪い尽くしてしまった。

 結果が、自動的に自分に嫌悪あるいは敵意を向ける存在に対して呪いをぶちまける天使、といった最悪の代物になってしまった」


 それって、なんて……。

 かわいそうなんだろうか……。


「もちろんグレイは何も悪くないよ? 今はまだ未完成だけど、これが完成すればおそろしい事になる」


「何が……起こるんですか?」


「世界が滅亡する、比喩じゃない……事実そうなってしまう。

 これはまだ先の話さ、気にする事はないよ、でも現状でも大変なんだ」


 ルシファーさんは非常に悲しい顔をしている。


「いいかい、自動的に自分に嫌悪あるいは敵意を向ける存在に誰一人の例外なく呪いをぶちまけるんだよ?

 そこに自分という例外なんてものはないんだ」


 でもそれじゃあグレイは!


「そうです、グレイが自分を卑下し続ける限り、自分の呪いで苦しみ続けるのです」


 それがあまりに痛々しい事だった。


 自分で自分を閉じて。

 自分で自分を傷つけて。

 自分で自分を蔑ろにして。

 自分で自分を呪い続けて。

 自分で自分を追い込んで。

 自分で自分を殺そうとする。


 おそらくグレイはそれに気付いていない。

 だからこそ、余計に悲しい。



「だから真木さん、あなたにお願いします。

 グレイを見捨てないでください、彼が一人で生きる事を選べるまで」


「そしてどうかグレイが生まれてきた意味を持てるように」


 二人の荘厳な天使と悪魔は私に深く頭を下げた。


「一つだけ……聞いてもいいですか?」


 だけど、頷くにはどうしても私には納得いかないことがあった。

 これだけはどうしても聞いておきたかった。


「何で……何であなた達がグレイの友達になってあげなかったのですか!? そこまで言うならグレイの友達になってあげればよかったじゃないですか! それなのになんで……! なんで……! 自分じゃなくて他人を頼ろうとするんですか! おかしいじゃないですか!」


 私の叫びを、二人の天使と悪魔はだんまりと聞いていたが、やがて口を開いた。


「無理ですよ、真木さん」

「そうですよ、だって私達は」

「「とうの昔に死んでいるのですから」」


 ――――――――――――えっ?


「私達はもっとも古い天使、悪魔の部類です。

 ですがそのような天使と悪魔は世界に溶けて、その姿を現す事が出来ません」


「故に誰かに頼らざるおえない、しかも慎重に相手を選ばなければグレイを逆に傷つけることになる。

 この日を待ち望んでいました、真木さん、あなたこそ理想の人だと思ったのです」


「でももし出来なかったら……」


「それはあなたのせいではありません」


「でも世界が……」


「その時は一つだけ手があります、あくまで最終手段の絶対に使いたくない手ではありますが」


 あるんだぁぁぁあああ!? なんて突っ込みは出来なかった。

 私の心の中の葛藤を見抜いたかのように、ルシファーさんが優しく言ってくれた。


「取り繕わなくていいですよ、ありのままの真木さんが、グレイにとって最も影響を与えると思っていますから」


「それって、どうい――――――――――――う?」


「時間ですね、では頼みましたよ真木さん」


 私はその言葉を最後に、その世界から引きずりあげられた。


「「信じていますよ真木さん、あなたの世界が、グレイの世界を変えてくれると……」」



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