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皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪



投稿時間は18時です。

「っで? あなたは誰?」


 食事の時間が終わると、直球に真木という女性が聞いてきた。

 もう一人の女性はご飯を済ますと、洗い物をしてさっさと帰ってしまった。


「えっと……一応天使です……こんななりですが……」


「へぇ~天使なんだぁ、でも私が聞いてるのはそんな事じゃなくてね、あなたの名前が知りたいの、教えてくれない?」


「……ぃ」


「え? 何?」


「……ないんです……名前が」


 僕が正直に言うと、真木さんは手をぶんぶんと振って苦笑いを浮かべている。


「あ!! ごめんごめん! 気にしてること聞いちゃったかなあ!?」


 その後必死に低頭、むしろ土下座している。

 そしてもの凄い速度で頭を床に叩きつけている。


「あ、気にしてませんから!」


 それをされると僕の方が困る。

 何しろ、人に謝られた事なんてないのだから。


 真木さんは大きく深呼吸して、最後に真剣に謝ってから止まった。


「じゃあなんであんな所にいたの?」


「ぁ……それは……」


 言えない。

 僕が“人間界”に下りてきた理由なんて言える訳がない。

 特に、僕にここまでしてくれる人には……。


 でも何にも言わなければこの人は心配するだろう。

 何か言わねば、何か言わねばいけない。


「……観光です」


 たまたま目に付いたチラシを見ていった。

 しかしその後、後悔した。

 こんな理由、信じてくれる人なんて……、


「観光かぁ! いいねぇ! 天使様のいるところではこの世界に観光するんだぁ! すごいねぇ……もはや国際交流なんてめじゃない勢いだね!」


 信じた。

 僕の言う事を寸分たりとも疑おうとはしていない。


 どう……して……。


 僕はチクリと胸に痛みを感じた。

 それが、さっきついた嘘によるものだと気付いたのは、もっと後の話だ。


「ツアーかな……それとも個人かなぁ……」


 そんなどうでも良い事を呟く真木さん。

 あなたは人が良すぎます。

 だからあなたに迷惑をかける訳には…。


 そう思い、立ち上がって無言で部屋を出ようとする。

 真木さんは悶絶しながら、団体様お断りぃぃぃいいい!!! って叫んでいる為気付かない。

 ようやく痛む心を抑えて、ドアにたどり着いたのはいいが、


「少年よ、まさか恩になった人に何も告げずに出ていくのではないな?」


 と妙に深みのある声が、開いたドアの向こう側から聞こえた。

 先に帰ったはずの女性だ。

 手には数着の男性用の服が抱えられている。


「焦る事はないわよ? あぁ見えても真木は人を見捨てるなんてしないもの」


「でも……迷惑がかかってしまいます……」


「あなたが無言で出ていくと余計に迷惑よ? 多分彼女は何日でも、あなた一人を捜し続けるでしょうし」


「そんなことされません!」


 僕は叫んでいた。

 こんな感情を向けれた事が無い為同様していたのかもしれない。


 しかし女性は、ヤレヤレと首を振って、


「あなたがどう思おうと知った事ではないけどね、それでも彼女は絶対に実行するわよ?」


 そして、最後にとても信頼している口調で、遠い昔を見る目で言う。


「だって馬鹿だもの」


 すると、どうやら最後の一言だけを捕らえたのだろう。

 一日一人で交代制にしてみよぉぉぉおおお!! と叫んでいた真木さんが起きあがって、その女性に飛びかかった。


「馬鹿じゃないもん!! サッチー最近酷いよぉぉおお!」


「はいはい、アイスも買ってきたから、食べよう?」


「アイス!! じゃあ私スー○ーカップで!!」


「残念ながら、スーパーカップは一つしかないのよ、そしてそれは私のもの!」


 サッチーと呼ばれた女性は手に持ったスー○ーカップをドンと掲げて見せつける。


「ジャンケンしよぉおおよおおお! 不公平だ! 不公平だ!!」


「いいわよ! まさか馬鹿な真木が天才の私に勝てると思ってるんでしょうね!?」


「ジャンケンに馬鹿も天才もないよ!? それに私馬鹿じゃないし!」


「ジャン、ケン――――!」


「あぁ! 待って! え? 待ったなし? ちくしょーー!!」


「「――ポンッ!」」


 サッチーさんがパー、真木さんがグー。

 サッチーさんの勝ちだ。




「スー○ーカップ……」


 真木さんはそうぼやきながら、スイ○バーをぺろぺろとなめている。

 僕も同じものを食べているが、うん、おいしいと思うぞ?


「ふふん♪」


 サッチーさんは、真木さんの目の前。

 本当に三十センチもないような目の前で美味しくスー○ーカップをいただいていた。

 それもとびきり美味しそうに。


「うぅうう……」


 真木さんが半泣き状態になるまでそう時間はかからなかった。

 すると、それをみていたサッチーさんは、仕方ないわねとスプーンでアイスを掬った。

 やはりなんだかんだ言っても仲がいいのだろう。


「ほら、三回回ってワンって言えばあげるわよ?」


 いや、いいのか、これ?


「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ワン!」


 真木さん……なりふり構わないんだね……。

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