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皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪
あれは……!
僕は身をこわばらせた、なぜならばその降りてくるものの正体は今まで僕を追いかけてきていた“天使”達だからだ!
早く逃げないと……!
「どこにいくの、グレイ?」
だけどそれを真木さんに阻まれる。
真木さんには力はない、僕にも力はない。なら逃げるしかないじゃないか!
いや、せめて真木さんだけでも安全な場所に連れていかないと!
「大丈夫だよ、だってこの世界はグレイしか許さないもん♪」
なんて子供らしい……というかこの場所がどこなのか僕には分からない。
ここはどこなんだろうか? “人間界”とも見えない、“天界”でもない、行った事はないけど“地界”にも見えない。
ただ白くて、ただ美しくて、ただどこまでも現代味のある風景。
僕はこれをどこかで見た事がある。
「これは……僕の……」
そうだ、これは僕の原風景。
僕が僕である為の……。
そして見た。
今だけは真木さんも、上から迫ってくる数え切れない程の“天使”達も目に入らなかった。
そこにいたのは純白の翼を持つ……“僕”だった。
「久しいな、私。そこまで小さくなっているとは思わなかったぞ?」
「あなたは……僕なんですか?」
「一人称が違うか……これは私を振り返りたくないという証でもあるのかな? それと、質問の答えは“イエス”だ。私は君であり、君は私だ」
“僕”はそういうと、僕の前に立った。
まるで“天使長”でもあるかのような威厳が目の前からくるが、僕はそれを当然の事として受け止めてしまった。
なんでだろう?
「私の威厳を簡単に受け入れてしまった、何故だろう? 君はそういう風に思考を回すのか。答えは私は君だからだ。君は君自身に対して疑問を持った事はないだろう? それと同じ理屈さ。私が君である以上、君自身である私に疑問を持つ事はありえないのだよ」
「考えている事が分かるのですか?」
「君に限っては私に知らない事はないよ? 何度も言うが、私は君だからね」
僕は“僕”を見た。
大人の風格、純白の翼、漲るような存在感、溢れんばかりの魅力――――どれをとっても僕とは思えない。
それをまた読んだのか“僕”はフフっと笑った。
「これは僕なんかじゃない、僕がこんな翼を持っている訳がない、こんな存在感があるわけがない、こんな魅力があるわけがない、そう思っているんだね」
“僕”はここで一呼吸置いて、
「当たり前さ」
そう言ってのけた。
僕は驚くしか出来なかった。
“僕”は続ける。
「だって君はそれら全てを犠牲にしたんだから。だから私はどれだけみすぼらしくなっても、どれだけ存在が希薄になっても、どれだけ世界に憎まれるような存在になったとしても――――私は君を尊敬する。自分の事だから恥ずかしいけど、それをしてもいいくらいの価値があることを君はしたんだから」
「僕は一体ここで何をしたんですか?」
「君はね、たった一人の少女を救ったんだよ。どこにでもいるような普通の少女、ちょっと人より悪運が強いだけの少女をその全身全霊をかけて救い抜いたんだよ……」
“僕”が真木さんに目を向ける。
その目に含まれるのは喜びも悲しみも、全て受け入れ決意した目だった。
「ここは真木ちゃん……いや、真木さんの心の意識の中から生まれ、世界になるまで発達した原風景。私はここからずっと真木さんの事を見ていた。ずっと君の事を心配していた。君が公園で倒れてるのを見た時、どれだけ心配したか分かっていますか? 自分があんなあられもない姿になっているのですから」
「ごめんなさい」
「謝る必要などない。私がそうなるような人生を決定してしまったのだ。だから謝るのはこちらだ、済まない、グレイ」
“僕”が僕に対して頭を下げる。
ちょっとだけ、悲しかった。
「私はここにいることで生きながらえる事が出来たのだ。だが……それでは駄目だと気付いた。私は君に、グレイに私を返そう」
悲しい顔が近づいてきた。
よく見ると、その双眸からは光の玉が流れ出ていた。
「私の全てを、君の全てを今返そう。そして護ってくれ、私が護りたいと願い、君に護る事を押し付けてしまった少女を、これからも護ってやってはくれないか?」
そして悲しい笑顔を浮かべる。
相容れない感情を共に受け入れた顔はぐしゃぐしゃに歪んでいたが、それでも……それでも笑顔と分かった。
だって“僕”は僕だもの。
――――だから間違いは訂正する。
「……僕も護りたいから。僕も……真木さんの事を護りたいから、そんな事しなくてもいいですよ。僕はあなたの分まで真木さんを護って見せます」
「私の力はいらないということですか?」
「はい。あなたはずっとここで、僕達のことを見守っていてください。きっと幸せを見せてあげます」
「――――ありがとう……これほど、自分の事を感謝したことはありませんよ。
最後に一つ良い事を教えてあげましょう♪」
最後に“僕”は――――いいや、“君”は心の底からの笑顔を僕に見せてくれた。
――――――――――――
固まったグレイに上からあまたの“天使”達が襲いかかってくる!
グレイの体が呑み込まれる。
だが、私は心配なんてしない、心配なんて意味の無い事はしなかった。
だってグレイがこれしきのことで負けるなんて考える事も出来ないようになったのだから!
「おかえりなさい……“僕”」
“天使”達がはじき飛ばされた! まるで強大な力によって無理矢理に。
それがグレイの力であることは目に見えて分かった。
「お帰りなさい、グレイ」
「ただいま、真木さん」
私達はようやく、長年の時を開けて巡り会う事が出来たのだった。