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皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪
真木さんを落としてから、僕はようやく一息ついた。
安全な場所へと連れて行けた事が嬉しかった。
これでもう真木さんが巻き込まれることはないだろうから……。
だけど僕はここからだ。
「グ~レ~イ~イイイイイイイイイイイイ!!」
後ろから狂気にも近い声でひっつかまれ、それが何の音なのかもわからないままに顔面に拳が強打する。
分かっていた事だ、僕があの場所からいなくなったんだから探しに来ているはずだったんだから。
だから真木さんを見られる前に逃げ出したんだ、真木さんに被害が及ばないようにと思って。
でもそれは何もかも徒労だった。
いや、そんな言葉よりも無駄だったと言った方がいいか。
何故なら殴り飛ばされた僕の体を誰かが後ろから支えてくれたからだ。
さっきと同じように、どこまでも大切そうに僕の体を包み込むこの体は誰だったか。
僕は期待と、そしてそうではないと願う希望を持ちながら後ろを振り向き、期待の嬉しさと希望の悲しさを同時に覚えた。
「私はグレイの笑顔が欲しいよ、悲しい顔のグレイなんて必要ない」
真木さん――――。
どうしてあなたはそうまで馬鹿なのですか?
どうして僕のそんな笑顔を向けてくれるのですか?
どうしてそこまで僕という存在を容認してくれるのですか?
「私は護るよ。グレイをグレイに襲いかかってくる全ての悪意から」
「どう……して……」
「だってグレイは、私だもん♪」
はい? 自分でも間抜けと分かるような声が漏れた。
真木さんが……僕? それは一体どういうことなのだろうか?
真木さんは笑ったまま、僕を抱えて、“ヘブンズゲート”から飛び出した!
――――――――――――
そうだ、ここは私の世界、私が王の世界だ。
「ここは……」
グレイは辺りの景色を見ながら驚いている。
いや、思い出してくれているんだと思う、グレイの原始の記憶、始まりの出会いを。
「ここはグレイと私が初めて出会った場所、私がグレイに犯してしまった罪の印」
嫌われても良い、嫌われても良いから伝えたい事がある。
思い出の中にしまって起きたかった記憶、それを私は無理矢理掘り起こす。
「ここは偶然。本当に偶然私が作り上げてしまった世界。大切な人達の死を分からず……いや、分かろうとはせずに築き上げた私だけの世界。世界にぽっかりと空いてしまった“天界”でも“地界”でも“人間界”でもない“私だけの世界”。そうなんだ……こんなものが許されて良い筈がなかったんだ、許される筈がなかったんだ。だから、来たんだよ、グレイが……」
グレイはの目は遥か遠くを見ている。
私達の記憶を。
「当時“天界”で一番強かったのはグレイだ。だからグレイはきた。そしてグレイは私にこれ以上の悲しみを与えない為にいくつかの誓約をしたの。
一つ。私は人を救い続ける。そして、救い続けると願い続ける限り私は救う事が出来る。
一つ。私は人を救い続ける。そして、救い続けると願い続ける限り何も私に害は及ばない。
一つ。私は人を救い続ける。そして、救い続けると願い続ける限り私の全ての害は……グレイに委譲されるという誓約」
そう、たった一人の悲しい少女を救う為に全力をかけた天使の姿。
だけど、どれだけ力のある天使でも対価なしでは成し得なかった。
それもその時は最強の抑止が働いた。
だってそうでしょ? その女の子が持っていた最悪の性質とは、“生きているだけで害を向けてくる全てに害を振りまく”というのと、“生きているだけで無条件に害を振りかけられる”という二つだったのだから。
それは二つで一つにして最高の世界の敵。
それを救う為に行ったグレイの対価は。
「グレイは私を救う為に、“天使”である事を止めた。だけど今更“悪魔”にもなれるはずがなかった。だからグレイはその全てを捨てた。自分の“天使”という側面を惜しみなく捨てた。残ったのは“天使”でも“悪魔”でも“人間”でもない、ただ存在するだけの曖昧な存在。そう、たった一人、この世界に存在するだけのグレイになっちゃったんだ!」
悲しい。
私のせいでグレイがこんなことになってるのに、私はグレイに何もしてあげられない。
私はグレイの力になれないのかな……?
私が涙を流そうとした時、上から怒号が落ちてきた。