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皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪

「助けに行くのは分かった。理由が無いのも分かった。理解はしないがそうである事が確かならこれ以上言ったところで解決はしない、だからそれは横に置きましょう」


 ルシファーさんが何を言いたいのか分からない。

 止める理由があるのか無いのかもわからない。

 ただ、何か恐怖を感じる。


「真木さんはいいましたよね、グレイが笑顔になると、だから行くんだと」


「言ったよ? それが?」


「では問いましょう。笑顔を作るのに笑顔を殺すのはいいんですか? 真木さんはここに来る時、一人を確実に悲しませています」


「っ! それは!」


「弁明は聞くつもりはありません。答えなさい。真木さんは笑顔の為に笑顔を失わせることを是とするのですか?」


 ルシファーさんの声は信念に直接話しかけるようなものだ。

 笑顔が欲しい、だから笑顔を奪う。

 それは、それは……嫌だ。

 ルシファーさんの目を見る。

 その目はまっすぐに私だけを見つめている。


「私はそれを是とはしません」


「ほお? ならば聞きましょう、真木さんがここに来る時、あった悲しみの訳を」


 押しつぶされるような感覚だ。

 だが、私は何の為であれ、笑顔が失われていると言う事を認めたくはない。


「悲しみなんかじゃないです……私は悲しませたなんて思ってません」


「だが悲しませたという事実は……」


「ルシファーさん、どうして悲しんでいるなんて分かっているんですか? サッチーに直接聞いたんですか? 私はサッチーが悲しんでいるなんて思っていません、サッチーはきっと怒るでしょうが、私の帰りを待っていてくれていると思います。だから、そこに悲しみなんて感情は絶対にありません」


「……そっくり返しましょう、あなたにも幸さんの気持ちは分からないでしょう?」


「はい。だからこれは合ってないかもしれない、でも合ってる確立も否定しきれない。つまりそう言う事です」


 だからもうこれ以上私の事を引き止めないでくれ、私はその想いをルシファーさんにぶつけた。

 ルシファーさんは微笑……というよりも苦笑を携えて、言う。


「そうですね……わかりました、もう真木さんの事を止める事はないと思いますが、最後に一つだけいいですか?」


「はい?」


「「あなたに幸あらん事を」」


 私は荘厳な二人に見送られながらこの世界での意識を閉じた。

 でも、すべてが終わって何もかもを取り戻したら、いつかまたここに戻ってきたい、とそう思った。



――――――――――――


「行ってしまいましたね」


「そうだな、行ってしまったな」


 ここの世界は私とルシファーによって支えられた世界。

 真木さんという“最凶の天使”……グレイを受け入れてくれた人の意識の隅に置かれた世界。

 そこで私達は優雅にお茶を楽しむ。


「真木さんは、結局行ってしまいました、これからどうしましょうか」


「どうもしないでいいでしょう。だって、あの子は何かやってくれる、私はそう思えてますから」


「ふふ、私もですよ♪」


 楽しい会話だ。

 これが自分自身……いや、魂を分けたもう一人の個としての私との対話か。


「それよりも、私達にはする事があるでしょう?」


「そうですね、今の内に準備をしておくのも悪くはない」


「ですね、ここをしばらく離れましょう。お互いの戻るべき場所に戻り、仲間を集めてここに戻ってきましょう。これから、酷い戦いになると思いますよ」


「そうですね。でも私はそれが楽しい」


「ええ、もちろんですよ」


 顔を見合わせて笑う。

 やはり、自分だ。話は絶対に合うのだから楽しくて仕方ない。


「では、行きましょうか、シルファー“大天使長”」


「ええ、行きましょうか、ルシファー“大悪魔長”」


 私達はこの世界から離れ、今一度、あの意識だけの世界に戻って行った。


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