11
皆さんに楽しんでいただければ幸いです♪
「ごゆっくりお楽しみくださーい♪」
二回目のセリフを聞いて、僕は幸さんと一緒にゴンドラに乗りこんだ。
外から鍵が掛けられる。
「どう? さっきは真木と一炉緒で楽しかった?」
「はい……とても楽しかったです」
「それは良かったわ♪」
まだ乗ったばかり、時間はまだまだたくさんある。
今度こそ、てっぺんからの景色を見てみたいです……。
「ねぇ……真木って危ないでしょ?」
「……え?」
「性格的に危ないとか、グレイみたいなショタッ子に手を出しているとか、百合ッ気があると、そんな事じゃなくてね、真木自身が性質が危ないって感じなかったかしら?」
幸さんは、独白のように言っている。
おそらく返事をしなくても、幸さんは話を続けるだろう。
しかし、僕としてもここまで楽しい思いをさせてくれた幸さんに対して無視は出来ない。
でもさきの返事はどうすればいいのかわからなかった。
「どういう事でしょう?」
「うん。真木ね……困った人は助けないと気が済まない質でね、前にも言ったと思うけど、もしもグレイが何も言わずにいなくなったとしたら、真木は確実にグレイを探すよ……それはもう寝る間も惜しんでね……」
それが一体どういう事なのか、僕には理解出来なかった。
そんな優しさを向けられた事がないからだ。
「真木ね、自分の目に映る範囲では妥協はしないんだよ、助けるって決めたら意地でも助けちゃう、その姿に何度憧れた事か……」
幸さんは遠くを見る。
まだそんなに高い所に行っていない。
まだ四分の一にすら到達していないのだから。
「私ね、真木に一度助けられたんだ……あれは小学四年の時だったかな? 私家がお金持ちでね、その日はパーティーがあったんだ、私の婚約祝いのね……」
「……婚約?」
「結婚を約束する事よ。私達みたいなお金持ちの家庭では当たり前の事なんだけどね、私は好きでもない男性と将来を誓い会わないといけなくなったんだ……」
それは……その理不尽は、僕への虐めによくにていた。
理由なんて何もない、ただそうなるしかなかったのだ。
「それが嫌で嫌で逃げ出したんだ、そしてそこで出会ったのが、当時やっぱり小学四年だった真木に。
正直に言うとね……私の家の事情を知らない初めての友達なの、私はそれがとてもうれしかったんだ……だから、だろうね、真木と一週間一緒になっただけで親友になれた、心の友と呼ばれるような関係にまでなったんだ。
そして真木の性格が分かった。私の事情を察してくれると信じる事が出来たの、だから話した、家の事とか、どうして家出しているのか……真木に出会う前までの自分を包み隠さずに」
ようやくゴンドラは四分の一にまで到達したようだ。
ここらあたりから、アトラクションの障害物が少なくなり、見渡せる範囲が広くなる。
「じゃあね……真木ったら、すっごく怒ったんだよ? 信じられる? 私はどこまでも裏切られた気分だった……そして真木自らが呼んだ、私の家の使いの者に私は連れて帰られたんだ……その時は頭の中が真木への復讐でいっぱいだった、どんなに恨んでも恨み足らないくらいに恨んでたの」
幸さんの目は遠くを見ている。
おそらくは僕の知らない、真木さんとの出会いを思い出しているのだろう。
「それから一日経って私は復讐する為の計画を立てていたの、小学四年では考えられないような、それこそ自分が嫌悪するお金持ちのやり方で復讐しようとしたの。
でも全てが何もかもが徒労だった。その日、真木は私の家に押し寄せて来た、武器にリコーダーを持って暴れながらね、信じられなかった、私の家に喧嘩を売るような馬鹿がいるのかと身内は呆れていたんだよ、そこで叫んでる言葉もまた面白かったなぁ♪」
幸さんは僕の方に目を向けて、微笑む。
深くにもドキッときたが、今はそれどころではない。
「サッチーは私の嫁になるんだああああああ!! って、小学四年生の女子が怒鳴りながら、世界でも恐れられているようなお金持ちの家に暴れながら入って来たんだよ? 怖くて怖くて堪らないように涙を流しながらね……結果的にお父様が真木を気に入ったから事を荒立てずに済んだんだけど、もしも気に入られなかったら、真木ばかりじゃなく、真木に関係する全ての人が復讐の対象になったでしょうね。
そこで、真木はお父様の前まで連れて行かれたんだけど、取り押さえられて武器さえ持たないままでも、それでもずっと叫び続けていたんだよ? サッチーは私の嫁だあああああああ!! ってね?」
思い出して笑っているのか、幸さんは、酷く愉快気だった。
それは、どこか懐かしいような笑顔だった。
「その時気付いたんだ、真木は自分の身を心配して家に連絡したんだって事が、そしてその時から考えて……いたかどうかは真木だから分からないけど、行動しようとしてたんだろうね、私の嫌な事を取り払う事を。ただでさえ馬鹿なのに小学四年の時に考えれた事が、違う婚約者がいれば問題ないんじゃないか? って、極まりって感じだよね♪ でもそれがとても嬉しく、そして同時に自分の事を責めた。私じゃない真木があそこまでしているのに、私がなんであそこにいないのかってね……」
頂点に近い場所で、幸さんはもう一度景色に目を向ける。
僕もつられて景色に目を映す。
「だから私は勇気を振り絞って、真木の隣に立った、そして婚約破棄を明言したの。その時の心地が今ここにいるのと同じような感じだったわ。
まるでどこまでも世界が広がっているような、そんな感じ。私は真木のおかげで、今こうして楽しくグレイと遊ぶ事が出来るんだ♪」
頂点で、幸さんが見せた笑顔は本当に綺麗なものだった。
それは、“天使”でも顔負けのような、本当の笑顔だった。
「でもね、その後気付いたんだ。真木がそれをした理由。もちろん私を助けたかったっていうのも大きかったと思うんだけど、よくよく考えてみればその時の私達は出会って一週間も経ってなかったんだよ? どうしてそこまでの他人にそこまで出来る? そう考えた。
答えは簡単だった。真木にいくらか質問してそれは確定に変わったんだよ。真木はね、目に映る全ての幸せを望んでるんだ、そしてその中に目に映らない自分は入ってない。自分が不幸になる事で誰かが幸運になるなら喜んで自分が不幸になる事を選ぶんだ、真木は。それはとても、危ないじゃない?」
そういう事か……つまり真木さんの幸せという勘定には、自分は入っていないのだ。
自分の幸せより他人の幸せ、それが全てで最大。
他心の幸せこそが己の全ての願望と言う事だ。
それはとても……危ない……。