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15 冒険者ギルドへ

14話の説明の重複部分を整理しました。





 どうして今まで覚えられなかった戦闘系スキルを得られたのか?

 それも練習してきた【短剣術】だけじゃなくて【体術】というスキルも同時に得ている。しかも【威圧】を得ているということは……

 もしかしたら、あの時か……。【威圧】は私がヴィーロに向けて“殺気”を放ったときに得られたものだろう。だとしたら、その他のスキルもその時に得られたと考えるほうが納得できた。

 短剣術はずっと練習してきたけど、体術スキルを得られたのはフェルドに教わった受け身や身体の動かし方をずっと練習してきたからだろう。

 それが一気に実を結んだのは……たぶん、命懸けの実戦を経験することで魂に強い衝撃を受けたからではないだろうか?


「ほら、ボ~ッと考え込んでないでギルドに行くぞ」

「……うん」


 パンっと軽く肩を叩かれ、先を歩き出したヴィーロの後を慌てて追いかけながら、少しだけ考察の続きをする。

 スキルはそう簡単に得られるものじゃない。私には大人並みの知識があり、普通の子供よりもスキルを得る下地があるのは理解できるが、短剣術を得られたのは予定通りだとしても、体術まで得られたのは出来すぎだ。

 でも、あの女の“知識”によると、『剣で一人斬れば初段の腕前』みたいな話があったらしい。女の前世の話で、初段がレベル1と同じなのかも分からないけど、私がスキルを得たのはそんなギリギリの戦いをしたからかもしれない。

 まぁ、ヴィーロからしてみれば本気ではなかったのだろうが、盗賊に捕まれば死と同義なので私は必死だった。

 けれど、【威圧】だけは少し違う気がした。確かにヴィーロとの戦闘が切っ掛けにはなったのだろうが、普通の子供は……いや、普通の大人でも無理だろう。

 命懸けの戦闘。敵を殺すという明確な意志。そして……経験。

 普通の平民は殺気なんて放たない。それを得た“子供”は、たぶん一般人から見たら奇異な存在だろう。

 ……もう少し強くなるまで、手の内はあまり晒さないほうがいい。


 スラム街を抜けて、ヴィーロの後に続いて表通りに出る。

「…………」

 多少身ぎれいにはしているつもりだけど、戦闘をこなした後だからよく見ると少し汚れている気がする。

 身ぎれいにしているのは『足下を見られないように』という理由もあるけど、一番の理由は目立ちたくないからだ。老婆を殺してから三週間以上経っているのでまだ追っ手がいるとは考えにくいけど、それでも隣の町で事件が起きたと覚えている者はまだ多いだろう。

 着ている布地は多少痛んでいるけど貫頭衣は普通の物で、髪には灰をまぶしてあるが元々のピンクブロンドよりは目立たないはず。……なのに、通りを歩いていると何人かの私に向けられる“視線”を感じた。

 浮浪児だとバレたのだろうか? 今は大人と一緒にいるので何も言ってはこないけど、一人でいれば何か問題に巻き込まれる可能性がある。

 そんなことを考えながら、その大人であるヴィーロに視線を向けると、少し顔を顰めて振り返る彼と視線が合った。


「……なに?」

「あ~…なんだ。顔を隠したいなら、もうちょっとちゃんとしたの捲かねぇか? そこらで買ってやるからよ」

「……別にいいけど」


 なるほど。首に捲いて顔を隠している“ボロ布”が目立っていたのか。

 何しろこれは、顔を隠すためだけに、着られなくなったボロ服をただナイフで裂いて首に巻き付けているだけの物だ。洗ってはいるけど確かに見た目はよろしくない。


「おお、そっか。じゃあ、えっと…あそこにあるな」

 何故かホッとしたようなヴィーロが辺りを見回して見つけた露店に進み、私もその後に続くと向けられる視線もそのままついてきた。

「はい、いらっしゃいっ!」

 店主らしきおばさんが威勢のよい声をかけてくる。この露店は布地屋のようだけど、見本も兼ねているのか、ある程度簡単な服なども売っていた。

「何か、マフラーみたいに首に捲く奴あるか? 顔を隠せるような」

「マフラーとショールなら少しあるけど、ここにあるだけだよ」

「そうか……俺はよく分からんから選んでいいぞ」

「うん」

 よく分からないけど、買ってくれるなら遠慮はしない。とりあえず隠密するのなら黒系を買うべきか。

 そもそもこの国は大陸の南方にあるので、防寒着系は基本的に薄手の物しかない。なので肌触りがよくて長いものを買ってもらい、首に捲いていたボロ布を外すと何故か微かなざわめきが聞こえた。

「おやまぁ……」

 店主が呆れたような声を漏らす。何があったのかと辺りを見回すと、十代前半らしき少女が、シュリと同じような赤い顔で私を見つめていた。

 何となく慣れないその視線に、とりあえず首に新しい黒い布を捲くと、辺りから微かな溜息が聞こえてきた。

「……?」

 理解できなくてヴィーロを見ると、頭痛がしたように片手で頭を押さえて大きな溜息をついていた。

「……もう行くぞ」

「うん」

 よく分からないけどヴィーロはギルドに向かうことを優先するらしい。

 歩き出した彼の後をまたついていくと、ヴィーロはとても小さな声で『余計に目立ったじゃねーか……』と呟いていた。


「ここが冒険者ギルドだっ!」

 何故か自棄になったようなヴィーロの声が通りに響く。

 少し早足のヴィーロが中に入り、私も少し気後れしながらも後に続く。知識はあっても初めての場所は何があるか分からない。少し警戒しながら中に入ると、中にいた数人の冒険者から視線を感じたが、ヴィーロが一緒にいたせいか特に何かしてくる様子は見られなかった。

 ギルドを見渡すと、幾つかの紙が貼られた掲示板と、受付のいる幾つかのカウンターが目についた。

 冒険者ギルドは、傭兵ギルドから派生した探索専門の傭兵支援団体だ。スポンサーは商業ギルドであり、魔物の素材や遺跡から得られるものを売ることで成り立っている。

 結成当初は開拓をする未開地などの調査を国などから請け負っていた経緯があり、現在の魔石の探鉱夫のような状態でも、ダンジョンの攻略や高レベルの魔物の対処など、それに対処できる高ランクの冒険者はかなりの恩恵が得られる。


「新規の登録を一人頼む」

 ヴィーロがカウンターの一つでそう言うと、カウンターの向こうで書類整理をしていた二十代後半の女性が顔を上げ、ヴィーロとその後ろにいた私を見て少しだけ目を見開いた。

「その美しょ…コホン、そちらの子ですか? 随分小さいようですが、戦闘スキルは持っているのでしょうか?」

「おお、持ってるぞ。短剣術だな」

 ヴィーロの言葉に私が頷くと、女性は癒されたように目を細めてから、ジロリとヴィーロに視線を戻した。

「では試験を行いますが、今からでよろしいですか?」

「それはいいが……あんた、態度が違いすぎだろ」

「試験?」

 私が呟くと二人が同時に視線をくれる。

「ああ、ちゃんとランク1相当の戦闘スキルがあるか確認のために、戦技を使うことになっている。出来るよな?」

 気軽に聞いてくれるが、私は静かに首を振る。

「……私、使えないよ?」

「なにっ!?」

 どうやら私がさっきまでスキルが無かったことを失念していたらしい。

「あんだけ戦えて、身体強化も出来て使えないのかっ。……参ったな」

「よろしければ、有料になりますが短剣術レベル1の戦技講習をお受けになりますか? 銀貨5枚になりますけど」

「それでもいいが……それなら場所だけ借りて俺が教えてもいいか?」

「それですと、地下の訓練場使用で1時間辺り銀貨1枚いただきますけど、よろしいでしょうか?」

「そのほうが手っ取り早そうだ。それじゃ手続きを……って、そうだお前、【回復(ヒール)】を使えたよな?」

 そのことを思い出したヴィーロが声を潜めて尋ねてくる。するとそれを聴いた受付の女性は驚いた顔をしながらも同じように声を潜める。

「その年齢で光魔術を使えるのですか……。それなら【回復(ヒール)】で試験を受けるのは大丈夫ですよ。そこら辺の冒険者なら怪我の一つくらいしているでしょう。……いえ、少々お待ちください」

 女性は何か思いついて背後にいる他の職員のところへ向かい、何事か話すとすぐに戻ってきた。

「申し訳ありません。お若い方が魔術師――特に光属性の場合、下手をすると素行のよくない冒険者に使い潰される恐れがあります。そちらの方のパーティーに加入して保護をするのなら別ですが、ソロで活動することもあるのなら、しばらく情報は開示したくないですね」

「俺のパーティーは、今は活動してないからなぁ……」

「でしたら、信用のおける冒険者が戻るのを待っていただくことになりますけど…」


「ヴィーロ。私は【戦技】を覚えたい」


 私がまた発言したことで二人がまた同時に顔を向けてくる。

「使用料くらいなら私が出す」

「いや、その程度は必要経費で俺が出すさ。確かにそのほうが面倒なくていいか」

「では、お決まりのようなら、そちらの方の認識票(タグ)を拝見できますか? それと登録される方の年齢と名前をこちらの用紙にお書きください」

「歳は……十歳、と」

「十歳ですか? 少し小さいような気もしますが」

「一歳や二歳は誤差だろ? 名前は……お前、名前は?」

 ヴィーロから見ると、今の私は八歳から九歳くらいに見えるらしい。それと今更名前を聞いていないことに気づいた彼が、書類から顔を上げて振り返る。

「……アリア」

「おう、そうかそうか」

 そんな私たちのやり取りを見ていた受付の女性は、かなり剣呑そうな視線をヴィーロに向けながらボソリと呟く。

「名前も知らないとか……。あなた、その子を誘拐してきたのではないですよね?」

「……失礼なことを言うな。ちゃんと人の顔を見て判断しやがれ」

 そう言われた女性がヴィーロの顔をジッと見る。

「……その子を誘拐してきたのではないですよね?」

「してねぇよっ!」




元々ヒロインなので、アリアの顔立ちは目立ちます。

それと、アリア(アーリシア)は物語の主人公としてのチートはありませんが、ヒロインとして人に追われやすくなる厄介な特性がありそうです(笑)


次回、戦技の取得と、新しい武器。


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