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11 魔法の世界



 私が浮浪児(サバイバル)生活を始めてから二週間が経過した。

 ちなみにだけど、この大陸では精霊週間と呼ばれ、光・闇・土・水・火・風・無の七つの曜日に分かれて、光の曜日が休息日となる。仕事の始まる闇曜日に『世界に闇が訪れた』と嘆くのは、鉄板のおじさんギャグだ。

 そして一ヶ月は三十日で、一年は360日になる。そんな二週間を過ごして、森の生活に慣れたといえば聞こえはいいけど、この国が大陸南部にあり気候が暖かだからなんとかなっているだけで、これが真夏や真冬ならとっくに野垂れ死んでいるかも。

 この二週間は老婆のことやあの酔っぱらいのこともあって警戒をしていたけど、特に追っ手が掛かるようなことはなかった。


 この二週間はいつも通りの鍛錬と、魔力制御の基礎修行を続けている。その間、町には一回顔を出して、森生活に足りないものを補充した。

 その時にあの兄妹も見かけたけど、あの時に酔っぱらいの財布を渡したせいか、まともな物を食べたようで少しだけ顔色がよくなっている気がした。

 とりあえずあの二人とは、他人以上知り合い未満、と言った感じで、兄のジルは何故か私をライバル視しているようだけど、妹のシュリのほうは私を見つけると満面の笑みで手を振ってくる。


 発見したあの魔力を自分の延長として髪の毛を動かす現象は、何度か試した結果、手足のように自由に動かせるレベルではなく、振り回したときに数センチ動かせる程度だと分かった。

 やっぱり世の中そんなに甘くない。それでも百回ほどやってみると命中率が二割程度上がって、威力も少し上がった気がする。

 それよりも問題は元が髪の毛を結んで長くしているだけなので、何十回か使っていると解れてしまうことだ。多分、私の器用度が低いことが原因だと思うけど、何度も髪を編み直しているせいで、いつの間にか器用度が1だけ増えていた。

 それで現在のステータスはこんな感じ。


【アリア(アーリシア)】【種族:人族♀】【ランク0】

【魔力値:43/52】7Up【体力値:28/36】4Up

【筋力:3(3.3)】【耐久:4(4.4)】【敏捷:5(5.5)】【器用:6】1Up

【隠密Lv.1】【暗視Lv.1】

【生活魔法×6】【無属性魔法Lv.1】New

【魔力制御Lv.1】【探知Lv.1】

【総合戦闘力:24(身体強化中:26)】1Up


 この二週間でも短剣術スキルは覚えていなかったけど、その代わり無属性魔法を1レベル習得していた。鑑定スキルはまだ覚えていないけど、集中して使うことでだいぶ精度も上がっている気がする。

 レベルのある無属性魔法は【身体強化】と【戦技】なので、私は本来なら近接戦闘系スキルと一緒に覚えるはずの【身体強化】だけを先に習得したのだろう。

 この数値が正しいのなら、身体強化レベル1で一割の強化ってことか。

 ……ってことは、フェルドは身体強化をレベル5……つまり近接戦闘スキルも一般人の限界であるレベル5まで使えるってことになる。どうりで強いわけだ。

 魔力系スキルばかり覚えているのは、私の身体がまだ子供だから身体系スキルを扱えていないんだと思う。

 身体強化の基礎があるから近接戦闘スキルは早く覚えられると言われたけど、二~三年で覚えるスキルを半年~1年で覚えられるとしても、今の私にはそんなに時間をかけている余裕はない。

 型を正確になぞるだけじゃダメなのかな? 何かコツのようなものがあるのかもしれない。


 魔力が多少増えたのは、魔力の訓練をしていることと無属性魔法である身体強化を覚えたおかげだろう。でも体力値が増えたのは、森の生活に慣れただけじゃなくて、脚の関節からくる“痛み”のせいじゃないだろうか?

 初めは過度な運動と疲労からくる筋肉痛だと思っていたけど、私の中にある“知識”がそれを『成長痛』だと教えてくれた。

 人の身体は急激に成長するとき、そんな現象が起きるらしい。

 でもそれは10歳を超えてもっと身体が大きくなってからのはず。ではどうして七歳の私にそんな現象が起きているのか不安になって“知識”を調べてみると、魔力に関するある情報が浮かんできた。


 平民以下だとあまりないけれど、幼い頃から魔力を鍛えている貴族の子供は、成長が早いらしい。

 貴族は成長が早く老化が遅い。それは貴族が神に選ばれた蒼き血を持つ支配者階級だから…と、貴族の一部が自分で言っちゃっているようだけど、あの女の師匠によると、単純に魔力が多いとそういう現象が起きるみたい。

 確かに今の私の魔力はそこら辺の大人よりも多い。でも“知識”にある貴族でも、七歳ていどで成長が早くなった例はあまりないはずだ。多分、スキルの数や戦闘訓練が影響していると考えるよりも、七歳児からこんな切羽詰まったような訓練をしてないからだと思う。


 要するに纏めると、私が大人並みに魔力が大きくなったから、身体が急成長しているので関節が痛い。

 だから身体を休めれば治るというわけじゃないので、訓練を休む理由がない。それでも効率はやはり悪いので『魔法』のほうを重点的に練習することにした。


 何を選ぶかを考える前に、まず、『魔法使い』の系統が重要になる。


 一つ目は、ずっと考察をしている、自分の魔力を使って周囲の魔素に干渉して、属性魔術を行使する『魔術師』だ。

 これが一番一般的な『魔法使い』で、どの状況でも使えるので使い勝手がよい。

 でも欠点として、使用者の精神力によって威力や効果が大きく違ってくる。そして熟練度によっても違うが、長い精神集中が必要なので、魔術を行使している間は無防備になりかねない危険があった。


 二つ目は、精霊に自分の魔力を“対価”として『お願い』をすることで精霊に力を行使させる『精霊術師』だ。

 精霊との親和性を高めれば魔力の消費を抑えられるし、人間が扱う魔術より高威力が得られやすい。

 その反面、精霊の機嫌が悪ければ威力が下がるし、石畳では土属性は使えず、洞窟では風属性を使えない。森の中で火を使うと水の精霊に嫌われる。

 そもそも精霊の声を聞こえないと使えないらしいので私は無理だ。


 三つ目は、魔法陣を使って精霊や契約した魔物を呼び出す『召喚術師』がある。

 精霊術師と似ているけど、違うところは一回契約をすればよほど非道なことをしない限り、召喚したモノは術者に従い味方として戦ってくれる。

 召喚するときには精神集中は必要だけど、一旦呼び出してしまえば術者も戦士や魔術師として戦えるのが利点だが、その契約をするのに相手に気に入られるか屈服させる必要がある。そして身体強化ほどではないけど喚び出している間は魔力を消費するので、高位の魔術師や戦士が護身用に覚えたりするのが普通らしく、初心者からはじめる人はまずいない。

 そんなわけで私が魔法を覚えるとしたら最初から『魔術師』一択だった。


 魔術には六つの属性がある。

 人はこの中で自分に適した属性の魔術を使える。…というのが一般的な見解だけど、生活魔法がこの六属性の基礎となっていると仮定するのなら、ほとんどの魔術師が全部の生活魔法を嗜みとして覚えるそうなので、個人の属性という考え方がおかしいことになる。

 おそらく個人の属性とは、それまでの経験や好み、生活環境などに左右される、好き嫌いなのではないかと考えた。そしてその属性をたくさん使うことで、体内にその属性の魔力を生み出す【魔石】が生成されるのではないだろうか?

 でも、こんな子供の私でも考えるようなことを、これまでの魔術師が気付かなかったのかな?

 やっぱり、『加護(チート)』のように何か“裏”があるのかもしれない。


 得意な――好きな属性を十回で覚えるとしたら、苦手な属性を覚えるのに百回掛かるとしよう。永遠の命を持つというエルフ種ならともかく、人族が魔術を極めようとしたら一つの属性でも何十年とかかるだろう。

 だから、苦手な属性は斬り捨てて得意分野を伸ばすほうが効率的だ。

 そして魔術が得意なエルフにしても、森の中に住む森エルフは火属性が使えない。これは、森を焼く“火”を無意識に忌避しているせいではないだろうか?


 とりあえず複数の魔術を練習するのは効率が悪いし、“裏”があると仮定して、覚えるのは一つか二つがいいと考える。

 だったらまず、どれが得意だとか色々試すのではなく、趣味嗜好が固まってしまう前に私の戦闘スタイルを考えて効率だけで選ぶべきだろう。


 単純に戦闘を考えるのなら火魔術が最適だと思う。大抵の生物には火が有効だし、火が燃え移れば延焼ダメージが見込める。

 弱点があるとすれば、その延焼ダメージが自分にも返ってくるかもしれないのと、炎は物理的な重さがないので、放出系の火魔術は速度が遅い点にある。

 例えば【火矢】を撃ち出す呪文の場合、子供が思いっきり石を投げる程度の速さしかないので、まともな戦士なら避けてしまう。

 土魔術の【石弾】なら物理破壊力があり、大人が使うスリングと同程度の速度を得られるはずだけど、魔力の低い【石弾】では硬い鎧や盾で簡単に防がれる。

 水系で氷の矢を作れるのなら速いしかなりの威力を見込めるけど、水魔術は対生物効果の呪文が多いので、物理的破壊力は低い。

 風魔術だと目視が難しいので相手にバレにくく速度もある。でも対生物効果も対物理効果も他の魔術より低めだ。


 光魔術は体力を回復させたり傷を癒したりできる。毒を消したり魔術攻撃を防ぐ呪文もあるけど、攻撃手段がとても少ない。

 闇魔術は幻術系やサポート系の呪文が多い。熟練すれば空間系の呪文を覚えて空間転移も出来るそうだけど、そんな呪文は宮廷魔術師クラスじゃないと使えない。

 そして光魔術同様、闇魔術にも直接攻撃手段がほとんどない。


 どれもこれも一長一短。そう考えると火魔術の攻撃特化の力があり、水魔術は傷を塞いで簡単な治療もできたので、どちらも使えたあの女は、一般的な魔術師として理想的だったのかも。

 そもそも私は魔術に何を求めているのか?

 生きるための手段としての“武器”が欲しいのであって、多少魔力が増えたといっても一般人の大人と同じか少し多い程度でしかない私が、多くの魔力を消費する攻撃魔術に頼るのは危ない気がした。

 攻撃力なんて短剣術と投擲を鍛えればいいのだから、その補佐をするような系統を覚えるべきだろう。

 ――ヒュンッ!

 投げた鉄串が地面に刺さる。

 私はあの鉄串を使ってこの二週間、投擲の練習をしてきた。

 焦げた煤が付いて真っ黒に錆びた鉄串は、丸二日ほど砥石で研ぐと予想通り鍛えた鋼で出来ていた。

 そのままでは使いづらいので先端部分を刃のように研いでみた。使えるようになるまで時間は掛かったけど、本当に鋼でよかった。これだけ手間をかけてただの鋳造だったらどうしようかと思った。

 でもまだ、土には刺さるが木の幹には刺さらない。それじゃ全然駄目じゃないかと思うかもしれないが、まっすぐ飛ぶようになっただけで随分と上達したんだよ。


 だから私は、近接戦闘と投擲を補佐するために【光魔術】と【闇魔術】を覚えることにした。

 この二つを選んだ理由は、近接戦闘をするので怪我を自力で治したいのと、少ない体力を回復させる手段が欲しかったから。

 それと隠密を覚えた私は、闇魔術の幻惑と相性がいいのではないだろうか。無理に正面から撃破するのではなく相手の裏をかき、罠を張り、駄目なら逃げる。

 正々堂々戦うなんて騎士様かフェルドのような筋肉オバケに任せればいい。


 ではさっそく魔術の修行……と思ったけど、あの女は魔術の属性を調べるために一通り訓練はしたはずなのに、闇魔術のことをさっぱり覚えていなかった。

 いや、興味がなかったから、初めっから師匠の授業を聴いていなかった可能性もあるのか……。

 その代わりといってはなんだけど、【光魔術】はかなりの“知識”を持っていた。

 どうしてまたそんなに知識に偏りのあるのかと思ったら、どうやら『乙女ゲーム』の“私”が光魔法を使えていたので、必死になって勉強したらしい。

 それだけ興味があってどうして覚えなかったのかというと、あっさり火魔術と水魔術を覚えて、そっちが愉しくなって飽きてしまったみたい。

 ……魔術師は集中力が大事だとよく分かるね。



次回は、魔術を覚えます。


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