烙印と罠
量産品の
地面に横たわる長剣の横には、痕跡が
「……フェアレディの
俺のささやきに反応して、ラピスは
「ダメだ、お前は触るな。
なにが仕掛けられてるかわからない……そう言うのは俺の役目だ」
「でも」
「良いから触れるな。お前に怪我させたら師匠に殺されるわ。
委員長、ちょっと距離取ってて」
こくりと頷いた委員長が離れて、俺は、
なにも起こらない。
そっと、導線をなぞって、残留している魔力を確認していく。
馬鹿と魔力は使いよう。
仕掛け次第で、
例えば、導線の途中に異物を挟んでおいて、持った瞬間に魔力の逆流を引き起こし、
もしくは、魔導触媒器に火薬を仕込んでおいて、属性『火』と生成『火炎』の
自分がその場にいないのにも関わらず、
第五の魔人『
師匠は、本ゲームにおける最強であることは確かだが。
正直、あの
単純な戦闘能力、戦略/戦術を組み立てる
まぁ、師匠を害するようなカスは、全員、俺が潰すんですけどね^^
師匠とラピスの師弟愛、これ即ち、俺にとっての
出来れば、魔人討伐は、月檻にやり遂げて欲しい。
だが、そこにこだわって、ヒロインたちが毒牙にかかってしまったら本末転倒だ。
対魔人戦は、慎重に進める必要があるだろう。
そもそも、魔人はヒイロが敵うような相手ではないが、原作ゲーム知識持ちの俺の
百合に挟まる男とか、あの、
犬死には御免だが、ヒロイン死亡によるBADエンドコースを俺の死で回避出来れば、エスコ世界に来た
俺の人生は、百合に捧げまぁす!!
百合に挟まる男の命とか、特に三条燈色の命とか、そういうのぽーいで。ヒイロくん、俺の中で、有害男性として指定してるので廃棄処分は当然ですね。はい。
「…………」
と言うわけで、喜んで地雷撤去をした俺は、ラピスたちに振り返る。
「オッケー、問題なし」
寄ってきたラピスが、宝石みたいに綺麗な瞳で俺を見上げる。
「フェアレディの烙印……魔神教……?」
以前、襲撃された時のことを思い出したのか。
ラピスは、ぶるっと震えて、腰の
「どうでしょうね」
「フェアレディ派が、現場に烙印を残すなんて話は聞いたことがありません。深夜のドンキに出没するヤンキーじゃあるまいし、わざわざ、現場に悪戯の痕跡を残して何の得があるのか……メリットが見当たらないかと」
「なら、その心は?」
「模倣犯の可能性が高い」
顎に手を当てたラピスは、ゆっくりと口を開く。
「でも、どうだろ……フェアレディ派に限らず、魔神教って、
深夜のドンキに出没するヤンキーが、眷属として働いてる場合もあるんじゃない?」
「ですが、深夜のドンキに出没するヤンキーが、このような
「なんで、もう、深夜のドンキに出没するヤンキーが犯人みたいな流れになってるの?」
そもそも、ラピスは、深夜のドンキに出没するヤンキーがどういう人物なのか知らないだろ。
委員長は、立ち上がって、スカートに付いた土を丁寧に払った。
「どうにも、きな臭くなってきましたね。
判断は
「進むだろ。
臭いくらいで文句言ってたら、日本の真夏の通勤列車とか乗れないし」
急に。
ラピスは、ちょこんと後ろに下がって、木の陰に隠れてから自分の匂いを
「……別に、変な臭いしないよ?」
「い、いや、だって、ダンジョンに入ってから少し汗かいたし! 変な臭いするとか思われるくらいなら死んだ方がマシ!!」
顔を真っ赤にして、俺から距離を取るラピスの前で、
「委員長を見習えよ、乙女心を素手で絞め殺したレベルの不動さだぞ」
「えぇ、そういった失礼なことを口走る
「す、すいやせん……えへへ……あっしとしたことが、口が滑りやした……」
「ヒイロ、異様に三下のマネが上手いよね」
褒められてるのに、なんか、全然嬉しくない。
とりあえず、俺は、ドンキ・ヤンキーの痕跡を足で消す。
被害者が残したらしき
少し進んでから、早速、魔物とエンカウントする。
「…………」
二本足で歩き、巨大な右拳を持つ人型のキノコ。
フェアレディ派の魔物、『
各種の魔物は、六柱の魔人、いずれかの配下として扱われており、そのダンジョンで最も影響力が大きな魔人に
原作ゲームでは、各魔物がドロップするアイテムは異なるので、特定の魔物を狙う場面もある。そういう時には、事前にダンジョン情報を参照して、そのダンジョンを支配している魔人を確認しておくことも大切だ。
どうやら、
三体の巨大キノコは、のそのそと歩きながら近づいてくる。
彼らの武器は、巨岩のように固く大きな右拳で、大振りなモーションで愚直な右ストレートを仕掛けてくる。
原作では、そのHIT率は異様に低く、だが、当たれば大ダメージ……
ちなみに、なぜか、お嬢に対してこの手の攻撃は必中になる。
「…………」
ゆっくりと近寄ってくるキノコから、俺たちは距離を取って、ラピスは遠くから土矢を
彼らは、それでも、真っ直ぐ向かってくる。
「…………」
俺たちは、距離を取る。
チクチク、チクチク。
矢が刺さったキノコたちは、傷つきながらも、
「…………」
委員長はあくびをして、俺たちは距離をとる。
チクチク、チクチク。
ついに、一匹のキノコが倒れる。
二匹のキノコは、倒れた一匹のキノコに駆け寄り、両脇から肩と背中を叩いて
手と膝をついた一匹のキノコは、ふるふると頭を横に振る。
それでも、二匹のキノコは、彼を
ついに。
一匹のキノコは、よろけながら立ち上が――その脳天に、土矢が突き刺さった。
「人の心とかないんか!?」
「え、な、なにが……?」
『変化:土』を用いて、地面から土矢を変化形成し続けているラピスは、大量の矢をキノコたちに送りながら首を傾げる。
「一回……一回、撃つのやめよ……あのさ、武士道とか、そういう言葉、あるじゃん……?」
「横から失礼。
そう言った
キノコ、死すべし。慈悲はなし」
「正面から失礼。
言ってることは正しいだろうが、正論は感情論で打ち消させてもらおう。
だって、俺、アイツらと」
俺は、己の拳を打ち合わせて叫ぶ。
「正面から、ぶつかってみてぇ!!」
「相撲部屋に入りなさい」
「うるせぇ!! ぶつかりてぇ!! 己の力を示してぇ!!」
「あ、ヒイロッ!!」
俺は、キノコたちに向かって駆け出し――あっという間に囲まれ、ボコボコと右拳で殴られる。
「いや、ちょっと!? アレ!? 正々堂々は!? 武士道は!? さっきまでの熱い流れは!? え、嘘でしょ!? なに、お前ら!?」
「ぐぁああああああああああああああああああああああああああ!!
「遠くから失礼。
どうにか、包囲網から抜け出した俺は、遠距離から
散り散りに逃げたキノコたちのことは、深追いしたりせず、ボロボロになった俺はラピスたちの元に戻る。
「さすがに、フェアレディ派は賢いな……」
「貴方がバカなんですよ」
強敵との戦いを終えて、俺は、泣きながら首を振る。
「ちょ、ちょっと、悔しいから、あっちで泣いてくるね……恥ずかしいから、
俺は、ラピスたちから離れて、木々を掻き分けて進む。
魔力を制御して気配を消した俺は、葉と
「よう」
冷徹な刃に、命を握られている
人型のキノコは、ラピスたちを視ていた目をゆっくりとこちらに向ける。
「なぁ、教えてくれよ」
俺は、口端を曲げる。
「その着ぐるみ、ドンキで買ったの?」