パーティー結成
丁寧に編み込まれた
「こ、こんばんは」
「……本日の営業は、終了しました」
俺は、扉を閉めて、フーリィの方に振り返る。
「あのさ、人の話、聞いてました? お姫様抱っこして、耳鼻科までご案内差し上げましょうか? 脳神経外科に緊急搬送すんぞ?」
「だって、私、ラッピー推しだもん」
「『だもん』じゃないんだよ、『だもん』じゃ。
俺が必要としてるのはビジネスパートナーであって、この薄汚い手を清めちゃうような美少女じゃないんですよ。美しい百合は可憐な花々と並ぶべきで、隣に腐臭のする男を配置したら、根腐れ起こしちゃうでしょ?」
「あら、その反応? ラッピーのことは、可愛いと思ってるってこと?」
「やめろ、お前、やめろ。世話焼きお姉さんみたいな立ち位置から、俺とラピスの仲を
「あのですね、俺たちは、古き良き
胸のときめきとか、解釈違いだから、ノーサンキューね」
「失礼します」
俺の背後で、扉が開いて。
きちっと制服を着こなした委員長が、
「クロエ・レーン・リーデヴェルト、参上いたしました」
その後ろから、私服姿のラピスが、コレ幸いと言わんばかりに室内へと滑り込んでくる。
なぜか。
ふたりの少女は、俺を挟んで、フーリィの前に並んだ。
「…………」
そっと、後ろに下がろうとして――
「動かないでくださいますか、三条さん」
目を閉じて、しとやかに手を
「
それと、先程は、ジェットコースターを楽しませて頂きましてありがとうございました。貴方は、命の恩人ですね」
「い、いえ、とんでもないです……はい……」
視線を感じて、ちらりと、横を視る。
こちらに熱視線を
そんな俺たちの様子を視て、フーリィは微笑む。
「良かった、サプライズと顔合わせは大成功ね」
「寮長ォ……俺ェ……必要としてるのは、ひとりなんですよォ……ダンジョンに潜ったら、俺の分の報酬は丸々消えるんでェ……あんまり、大人数を巻き込みたくないって言うかァ……なァ……?」
「三条さん」
委員長は、髪を
「貴方の
私には開示出来ない重要な目的があるため、無償での貴方へのご協力は惜しみません。先程の騒ぎで、貴方の実力も確認出来ましたし、戦闘では役には立ちませんが手助けくらいはさせて頂くつもりです」
「重要な目的……?」
「夢見がちに換言すれば、乙女の秘密ですね」
すまし顔で、委員長は俺の追求を避ける。
「早速の助言ですが、ルーメットさんにはご助力頂くべきかと。
「なんか、遠回しに、俺と一般庶民をバカにしてない?」
「してません。下界民特有の被害妄想です」
「いや、でも、ラピスは……」
期待するかのように、こちらを見上げていたラピスは、一転して悲しそうに目を伏せる。
彼女は、何かを
「…………」
「必要だわァ!! なんで、最初に、誘わなかったんだろ!? 俺って、バカだなァ!! 素晴らしい
「ふふ、喜んでもらえて良かった」
帽子を脱いだラピスは、嬉しそうに微笑む。
「良かった……最近、避けられてるかなって思ってたから……久しぶりに、ヒイロと一緒に
「ど、どういう意味……それ、どういう意味……?(荒い息)」
「ラッピー、ヒーくんが、貴女を避けてるなんて誤解よ。むしろ、大切に思っているからこそ、無報酬でのお手伝いを頼めなかったの。
いじらしい男心をわかってあげて? ね?」
フーリィは、こちらに向かってウィンク――真顔の俺は、殺意を
帽子で口元を隠して、ラピスは、ちらっと俺を見上げる。
目が合ってしまうと、彼女は、嬉しそうに目元をほころばせた。
「…………」
俺の肩に、可愛い鳥さんでも止まってたのかな^^
「三条さん」
両眼を上に向けて、現実逃避に専念していた俺は、委員長に声をかけられて正気を取り戻した。
「話がまとまったのであれば、冒険者協会で話をつけてきませんか? 善は急げ、時は金なり、遅刻厳禁の校則もあることですから」
「そ、そうだね。委員長、さすがだね。ベストオブ委員長だね。
ちょっと、その前に、先輩と話があるから廊下で待っててもらっても良い?」
「承知しました。
学外活動時間も限られていますので、お早めに。3分測ります」
ピッと音を響かせて、委員長はタイマーをセットし、勝手にタイムキーパーへとジョブチェンジしてから廊下に出ていった。
「ヒイロ」
ラピスは、俺に向かって、綺麗な微笑みを向ける。
「後でね」
「う、うん」
ご機嫌の彼女は、委員長に続いて外に出る。
寮長室には、俺と寮長が取り残され。
事務仕事に精を出していたフーリィは、苦笑してから俺を見つめる。
「お姫様を廊下に待たせる王子様なんて、前代未聞じゃない?」
「毒リンゴで商売してそうな魔女と話をつける必要があるんで。
魔神教が狙ってる、次の
「答えはYES」
俺は、安堵の息を吐く。
まぁ、ラピスを呼び出してる時点で、
「なら、誰?」
「美人との会話を長引かせるために、同じやり取りをループするつもり?
貴方は、本件には関わらせません」
「俺の知ってる人間ですか?」
「YES/NOでの回答を迫る
「わかったよ、そっちは貴女の領分だ。無理には立ち入らない」
「素敵な口説き文句」
微笑を浮かべつつ、フーリィは書類に目線を落とす。
「でも、一歩、踏み出しても良い?
さっきのダンジョン探索入門、あの魔車の乱入のせいで、寮長には招集がかけられたってことになってたけど……でも、本当の狙いは、寮長の命だったわけで、その呼出し自体も魔神教の思惑の内だったんですよね?
寮長を呼び出したお偉いさんって、魔神教の一員だったりしません?」
「一歩どころか、
積もった書類に目を通しながら、彼女は長い足を組む。
「正直、その線を漁っても、成果は薄いでしょうね。普通、そこまでわかりやすく、ヒントを出したりしないわよ。
「なら、次の
多少、襲撃時間がずれる可能性もあるし、順番に見張りに付くのはどうですか? もしくは、人員を雇って、怪しい動きがあったら俺か先輩に知らせてもらうとか。
とりあえず、現時点で集まってる情報を口頭形式でまとめませんか?」
「そうねぇ……」
フーリィは、硬直して、書類から俺に目線を移した。
「驚いた。
ヒーくん、貴方、想像以上に頭が回るのね」
「はい?」
「貴方、『依頼者が怪しい』なんてわかりきってたことを話題に出して、私の油断を誘った挙げ句、さも代替案を出しているみたいに見せかけて、魔神教襲撃の情報を引き出そうとしてたでしょ?」
「…………」
「少し、貴方のことを甘く視てたかもね。
蒼い目が、俺を
「貴方が、敵に回らないことを祈るわ」
……俺も、同意見だけどな。
結局、フーリィは俺の
まぁ、
廊下に出た瞬間、委員長はタイマーをストップさせる。
「2分42秒、優秀ですね」
「あざーっす!! ざっす!!(体育会系)」
「ヒイロ、あの
俺は、苦笑する。
「有り難いお説教、喰らってただけだよ。
行こうぜ、冒険者協会、閉まっちゃったら面倒だしな」
興味津々のラピスには誤魔化しを入れて、俺たちは学園へ向かって歩き出した。
鳳嬢魔法学園内、大広間。
多種多様な設備が取り揃えられるそこには、冒険者協会も
本革製のソファーが、設置されている待合スペース。
申し付ければドリンクが出てくるそこで、俺たちは、発行された番号札を
「……遅いな」
「ね。
なにかあったのかな?」
ラピスが、カウンターの奥を
「申し訳ございません。
誠に勝手ながら、本日の受付は終了させて頂きます」
「え、なんかあったんすか?」
「その……」
言葉を濁した彼女の前で、俺は、ラピスに親指を向ける。
「こちらにおわす御方をどなたと心得ますか? 恐れ多くも
「言わせてません(ぺしぺし)」
「痛い痛い、そういうの委員長にやって。
要するに、厄介事なら、こちらのお姫様並びに助さん格さん的な立ち位置にいる俺たちが受け付けます」
「じ、実は……」
え、こんなんで、マジで話しちゃうの!? コンプライアンスとか大丈夫!?
「本学園の生徒様が、ダンジョンで
「なるほど、わかりました。
その捜索――」
俺は、ニヤリと笑う。
「俺たち『百合ーズ』が引き受けましょう」
「なんですか、そのファミレスみたいな陳腐な名称は?」
委員長の苦情は受け付けず、俺は突発的に発生したイベントに名乗りを上げた。