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廃人を無礼るな

 『我ら、魔神教改め百合教、本日より行動を開始する!!』とか大見得切ったが。


 正直、この国家運営シミュレーションゲームに本腰を入れるつもりは全く無い。『悪堕ちルート』のみで用いられるこのシステムは、簡単かつほぼ自動オートで金をもうけられる手段以上の意味合いをもたないからだ。


 悪堕ちルートは、月檻桜が全てを破壊して魔神へと至るルートだ。


 別名、魔神ルートとも言われている。


 魔神ルートの中では、月檻は第七の魔人として、異界に拠点ホームを作り六柱の魔人と群雄割拠する。


 その際に用いられるシステムが、この国家運営シミュレーションゲームシステムである。


 エスコは、元々、なんでもかんでも百合ゲーにぶっ込んだ闇鍋ゲームでもあるが……楽しく百合を眺めて、ニコニコしていたプレイヤーが、唐突に国家運営シミュレーションゲームをやらされ真顔になるのは悲劇としか言いようがない。


 正直、この国家運営システム、出来は悪いしバランスもそんなに良くはない。


 エスコ開発会社が、過去に爆死させているシミュレーションゲームをコピペしたようなもので、飽くまでもオマケ要素のひとつに過ぎない。


 一部の勢力が強すぎたり、使い所が一切存在しないユニットがいたり、仕様の穴を突いたターン加速手段が存在していたりもする。


 ただ、このシステム、金儲けの手段として考えてみれば非常に優秀だ。


 異界の資源は、金になる。


 そして、異界の金は、現界の金に変えられる。


 資源を採取するユニットを作れば、後は、自動オートで勝手に採取してくれる。俺がなにか指示を下す必要はないし、シルフィエル辺りにでもぶん投げれば、上手いことやってくれるだろう。


 寝ていれば、勝手に、金が入ってくる夢のようなシステムだ。


 なにをしても、スコアが上がらない現状。


 強制スコア0の状態を脱するには、非合法のスコア売買に手を染める必要があるだろうし、金は幾らあっても構わない。むしろ、たくさん欲しい。


 それに、コレは脇道に逸れているという言うわけでもない。


 将来的にあのイベントで、ココでの経験が物を言うようになる筈だ。月檻をサポートするに当たって、勉強しておいても損はない。


 と言うわけで、アルスハリヤの権勢けんせいを手に入れた俺は、この国家運営システムを用いて金を手に入れることにした。


「つーわけで、俺、適当に採取ユニット作ったら帰るから……後、よろしく」

「え~? きょー様、テキトー過ぎない? もちょっと、責任感、っていうものを持った方が良いと思いますけどぉ?」


 玉座に座って、画面ウィンドウから作りたいユニットを選ぶだけ。


 拠点魔力を消費して、時間が経過すれば、勝手にユニットが作成される。


 高レベルのユニットを作る際には、専用の建築物が必要になるし、ユニット数が増えてきたら拠点ホームを増設する必要があるが……下手に他の魔人に目をつけられたら面倒だし、本気で国家運営するつもりはないのでPASSします。


「え? ワラキアたちは、俺になにを期待してるの?」

「「「世界征服」」」


 今どき、日曜の朝に出てくる悪役でもそんなこと言わねーぞ……。


「シルフィエル、この拠点ホームで取れる資源ってなにがあるの?」

「海底鉱物でしょうか。所謂いわゆる、有用金属元素ですね。ミスリルを含むものも採れるので、近隣の悪魔と交渉すればそれなりの額で売り払えるかと」

「食材は、魚とか貝とか?」

「そうですね、魚介類が主になります。他にも海藻も取れますし、一部の魔物は食用に適しています」


 食料資源も鉱物資源も豊富。


 最低限の採取ユニット3体を作り出して、1体を食料採取、残りの2体を鉱物採取に回すことにするか。


 明日の朝には、それなりの量になってるだろ。


「教主、眷属けんぞくは呼び寄せないの? 手先が器用だから、建造物とか建てられるし、肩揉みとか雑用もしてくれる。

 所謂いわゆる、パシリ」

「いや、別に、建造物とか作るつもりないし……まぁ、でも、俺もこの小銭稼ぎ以外で、魔神教を利用するつもりないから烙印らくいんだけでも外しとくか。

 呼んどいてくれる?」

「あい」


 ハイネは、次元扉ディメンジョンゲートを潜り抜けて消える。


「では、教主様」


 すちゃっと、耳かきを装備したシルフィエルは微笑む。


「耳かきでも」

「……いや、なんで?」

「我々にとって、主の世話を焼くことこそが至上の喜び。

 大体の男は、太ももに頭をせさせて、耳かきすれば落ちるとヤ○ー知恵袋で言っておりました」

「よりによって、人間をヤ○ー知恵袋で勉強するのはやめろ。

 と言うか、俺を落とそうとするな」

「わー、魚も貝も食べませんから。二郎しか食べないもん。拠点ホームから二郎取れないなら、わー、家出しちゃうから」

「黙りなさい、二郎オールウェイズ。現在いま、私が教主様と話しているのです。

 二郎が採れるのは二郎だけに決まってるでしょう。もう二度と、二郎から出てくるなこの下等ジロリアンが」


 シルフィエルとワラキアは、笑顔で殺気を飛ばし合う。


 その間で、俺は、こういう対立系の百合も良いよなと思った。最初、バチバチに喧嘩してたのに、最終的にはユリンユリンになるタイプとか好きです。


 そんなことをしているうちに、採取ユニットが出来上がる。


「…………」


 魚の身体に人間の手足を持ち、落書きみたいな槍を持った採取ユニット『マグロくん』は、びくんびくん震えながら俺の命令を待っていた。


「人魚ですね」

「魚人な」

「人魚だぁ~」

「魚人な」


 俺は、画面ウィンドウから命令コマンドを呼び出し、マグロくんに『食料採取』を命じる。


「自分、不器用なんで……」

「命令を了承したようですね」

「今の返事だったの!?」

「自分、不器用なんで……」


 人間の耳では『自分、不器用なんで……』にしか聞こえない言葉を吐いて、魚人は美しいフォームで海に飛び込んでいった。


 残りの二体も生産完了して、二体のマグロくんが震えながら並ぶ。


「じゃあ、君たちは海底鉱物を取ってきてくれる……?」

「「自分、不器用なんで……」」


 二体は、謎のハイタッチを交わして、進路を交錯こうさくさせながら、芸術的に海へと飛び込んでいった。


「教主」


 そのタイミングで、ハイネが帰ってくる。


「暇人三銃士を連れてきたよ」

「誰も呼んでねぇよ!! 誰だソイツら!?」

「間違えた。眷属三銃士だ」

「えっ……」


 その中に、ひとり、見覚えのある女の子がいた。


 呆然と俺を見つめる緋墨ひずみ瑠璃るりは、腰を抜かして、ぺたんとその場にお尻をついた。


 見る見る間に、両眼に涙が溜まる。


「さ、三条燈色……あ、あんた……生きて……」

「暇人三銃士?」

「暇すぎて、たたみの目を数えてたら不登校になってた女」

「畳とシヴィ○イゼーションに人生を破壊されたので、もう学校に戻る予定も暇もありません」

「このタイミングで、暇人三銃士の流れを続けるな!! 散れッ!!」


 奇妙な顔合わせと再会が済んでから、暇人三銃士ならぬ眷属三銃士に話を聞いてみれば。


 知ってはいたが、やはり、アルスハリヤ派は壊滅状態らしい。


 豪華客船クイーン・ウォッチ襲撃失敗によって、中心メンバーがことごとく捕らえられたのが致命的な痛手になったのだろう。


 敵対しているライゼリュート派やフェアレディ派による残党狩りにったせいもあり、大半の眷属が烙印を外して(高位の魔法士と医者の協力があれば可能)脱退し、残ったのはたったの三人とのことだ。


 俺の左腕にすがって、泣き続ける緋墨ひずみが落ち着くのは、もう少しかかりそうだった。


 俺は、残ったふたりに目線を向ける。


「まぁ、色々あって、今は俺がココのトップだ。そこの幹部三人衆の行き場がなくなるから、最低限の運営は続けるつもりだが、今後、魔神教として動くつもりは一切ない。トップが変われば、活動理念も変わるからな。

 悪いことは言わない。烙印を外してやるから、元の生活に戻れ」


 ふたりは、顔を見合わせる。


「い、一応、死んだことになってるから家に居場所が……えへっ……そ、それに、瑠璃るりちゃんたちくらいしか友達いないし……」

「同じく」


 俺は、ため息をく。


「だからと言って、アルスハリヤ派として残り続けるのは危険過ぎるだろ。烙印があるってことは、俺の命令には絶対に従うってことだぞ。今後も、男の俺に付き従って、なんでも言うことを聞くつもりか」


 同時に、ふたりは頷いた。


 余程、家には帰りたくないらしい。


 そもそも、魔神教自体、そうやって行き場を失くした人間の心に付け入り、眷属を作り出しているわけだし……ココで、この子たちを放り出すのは簡単だが、そうすれば胸くそ悪いことになる未来しか視えない。


「教主、かくまってあげたら」


 ぽんぽんと、俺の頭を骨杖こつじょうで叩きながらハイネが言った。


「眷属がいなかったら、誰が私の肩揉むの。教主にやらせるよ」

「え~? きょー様は、肩じゃなくて胸を揉むのが得意ですよねぇ?」

「英雄、色を好むということですか……さすが、教主様、尊敬の念を禁じえません」

緻密ちみつな連携決めて、煽ってくるのやめてくんない?」


 俺は、シルフィエルが回収してくれた九鬼政宗の柄をいじる。


 恐る恐ると言ったていで、眷属のふたりは俺を見上げてくる。どうしようもなくなった俺は、髪を掻き回した。


「わかった。拠点ココに残れ。現界にアルスハリヤ派の居場所はないし、シルフィエルたちにまもってもらえるこっちの方が良い」


 わぁっと歓声を上げて、ふたりは手を合わせる。


「だけど、勘違いするなよ。まず、その烙印は外させてもらう。お前らは自由の身で、何時いつでも脱退しても構わない。嫌なことは嫌だと言っても良いし、俺の命令には一切の強制権はない。

 そして、我が百合教は、恋愛を禁止しない。ただし、結婚式には俺を呼べ」


 手を合わせているふたりをガン見して、俺はニタァと笑う。


 たぶん、付き合ってるな。で、あれば、俺にはこのふたりを護る義務が生じる。


 やれやれ、今のうちから、上司として仲人なこうどの練習でもしておくか(ニチャァ)。


「…………あたしも」


 緋墨ひずみは、俺の左腕に顔を押し付けたままささやく。


「ココにいるから……本当は、あそこで死んでたから……残りの人生は、あんたのために尽くす……そうすることにした……」

「いや、やめて。もうこれ以上、この組織大きくするつもりないから。小銭稼ぎに利用するくらいのつもりだから」

「…………」

「返事しろ、緋墨ひずみィ!!」


 嫌な予感を覚えつつも。


 俺は、緋墨たちにも、今回の小銭稼ぎに付き合ってもらうことにした。


「えへっ……教主様、安心して……」


 眷属のひとり、椎名しいな莉衣菜りいなこと『りっちゃん』は、前髪をいじりながら言った。


「リイナ、シヴィ○イゼーションで人生ぶっ壊してるから……えへへ……こういうのすんごい得意……」

「うん、やめて。誰も頼んでない。大人しくしてて。

 コイツに絶対運営させるなよ。何も触れさせるな。おそらく1ターンを進めるためだけに、地獄を視てきた廃人だ。面構えが違う」

「きょーちゃん、だいじょぶだいじょぶ」


 青色の瞳に金色の髪の毛、フライトジャケットを来た少女。


 眷属のひとり、ルビィ・オリエットこと『ルーちゃん』は、フーセンガムを膨らませながらギコギコと椅子を揺らした。


「りっちゃんは、天才だからさ。任せておけば、一夜にして城が立つよ。

 オレも、ちょっとハードウェア、ソフトウェア、どっちにも詳しいから。色々、そっち方面で攻めてみるよ。期待しといて」

「だから、やめろっつってんだろうがっ!! 話、聞けや!!」

「「…………」」

「生暖かい目を俺に向けるな!! フリじゃねぇよ!! 本気だよ!! 表立って命令出来ないとか、そういうことじゃなくて本当の意味でやめろ!!

 シルフィエル!!」

「はい」

「絶対に、コイツらに手を触れさせるなよ。細かく権限ロックが出来ないクソシステムだから、オープンにしておくが……やらかすようなら直ぐに俺を呼べ」

「お任せください」


 シルフィエルは、アルスハリヤ直下の部下であるため、俺の命令を絶対に遵守じゅんしゅする筈だ。


 本来であれば、アルスハリヤを呼び出して、色々と確認したいところだが……前回の騒ぎのせいで、俺の怒りが収まらず、呼んだら○してしまうので呼ぶことが出来ない。


 まぁ、シルフィエルに任せておけば大丈夫だろう。


 色々と、心配なことはあるものの、今日のところは現界に戻って、明日の朝一にでも様子を見に行けば良い。


 もし、シルフィエルによるセーフティが効かず、アイツらがやらかしたとしても……早い段階で止めればどうにかなる筈だ。


 さすがに、考えすぎだな。


 苦笑して、俺は、現界に戻ってとこに入る。


 明日、多少の金になるくらいの鉱石が手に入ってれば良いが……さすがに、貧困生活は嫌だからな。


 すやすやと、俺は眠って。


 次の日の朝、俺は、拠点ホームへと舞い戻る。


「…………」


 そこには、一夜にして宮殿がっていた。


 広大な異界の地には、水晶クリスタルで出来た宮殿が建てられ、謎の通路チューブが隅々まで行き渡り都市が形成されている。海底には神殿が建っており、異常なレベルの魔物がうようよと行き交っていった。


「…………」


 俺は、画面ウィンドウを開く。






【国家名】

  神聖百合帝国

【資源数】

  木材:9582000

  鋼材:22800000

  食材:31200000

 【産出数】

  木材:420000

  鋼材:820000

  食材:1080000

 【所属員】

  コマンダーユニット

   三条燈色

   緋墨ひずみ瑠璃るり

   椎名しいな莉衣菜りいな

   ルビィ・オリエット

  ユニークユニット

   シルフィエル・ディアブロート

   ワラキア・ツェペシュ

   ハイネ・スカルフェイス

  ノーマルユニット

   海龍*320

   ウォーター・ランサー*12000

   刃影犬ジャギー・ドッグ*14000

   全属性魔法士(邪悪)*15000

   秘蹟甲羅サクラメント・タートル*5200

   反射海中石*6400

   マグロくん*99999

   カツオちゃん*99999

 【建造物】

   拠点ホーム

   海上海中連結都市

   水晶宮クリスタル・パレス

   海底神殿

   ランサー・ドーム

   影生みの巣

   海龍の渦

   邪士の学堂

   海中池

   カツオの溜まり場

 【テクノロジー】

   初等建造物Ⅰ~Ⅲ

   中等建造物Ⅰ~Ⅲ

   高等建造物Ⅰ~Ⅲ

   初等魔法研究Ⅰ~Ⅲ

   中等魔法研究Ⅰ~Ⅲ

   高等魔法研究Ⅰ~Ⅲ

   飲水生成

   水圧調整

   海中通路

   自動食料生産

   海水ミサイル

   海洋バイオテクノロジー

   対魔障壁

   海底熱水噴出孔発電

   水棲樹木

   希少鉱石加工

   掘削技術






「…………」


 俺は、空を見上げて、フッと微笑む。


 アカン(白目)。

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