表と裏の百合活動
ようやく、シナリオの本流は元に戻った。
騒ぎに次ぐ騒ぎ。
レクリエーション合宿は幕を閉じ、俺たちは楽しい学園生活へと舞い戻る。
なにせ、一連の事件で行方不明になっていたのは男でスコア0。犠牲者と言えばそれくらいで、三条家からは『死んでOK』のお墨付き。
騒ぎが大きくなり過ぎるわけもない。
現界に拠点を構えるアルスハリヤ派の中心メンバーが、
三条分家と揉めていたレイは、まだ、正統後継者の座に着いたままだ。
三条家は派閥争いが絶えず、レイを持ち上げているBBA連合以外にも、隙あらばレイを
レイが
「後継者の座を明け渡すつもりはありません。
力はあった方が良いですから」
当の本人のレイは、あっさりとそう言っていて。
「三条家の間に立って、私がお兄様を護ります」
そんな風に、笑っていたりした。
俺だって、むざむざ、レイを後継者争いの場に居合わせて危険に晒すつもりはない。
シナリオが進めば、この問題は月檻がどうにかするだろうが……その時は、俺も微力を尽くすつもりだ。
ラピスも、無事に学園への復帰を果たした。
俺は、
月檻は、
のほほんとして、とらえどころがない。
ただ、前よりも、距離感が近くなったような感じはする。たまに、甘えてくるような素振りも見せるので、猫みてーなヤツだなと思ったりもした。
いい加減、百合ゲー主人公の自覚をもって、女の子をドンドン落として欲しい。
で、俺はと言えば。
「お金がありません」
「……は?」
二杯目のご飯を俺に差し出しながら、スノウはそう言った。
「どういう意味?」
「いや、そのままの意味でしょ。それ以外にどういう意味があるんですか。ご主人様の頭の中では『お金がありません』は、『パチンコ代よこせ』にでも変換されるんですか。ヒモを養ってるメンヘラみたいな思考回路してますね」
俺は、大葉味噌をご飯の上にのせて、もりもりと食べ始める。
ほかほかのご飯が舌の上で踊り、味噌の旨味と絡み合う。
「うっま……」
「きしょい顔して、
金ですよ金、この
俺は、イカ明太を食べながら『イカと明太子を最初に合わせた人間は天才だな』と驚きを隠せなかった。
驚愕の表情で、俺は、スノウにささやく。
「それって、お金がない……ってコト!?」
「さっきからそう言ってんだろ」
「すいません、調子にノリました。刃物による一方的なインファイトは勘弁してください」
出刃包丁を構えたスノウは、すっと、腰の後ろに刃物を仕舞う。
「暗殺者の方々からご提供頂いた金も、一時しのぎにしかならなかったしなぁ……まぁ、大丈夫だ。
一応、金稼ぎの当てはある」
メザシをつまみながら、俺は、箸の先を空中で
「俺、冒険者になろうと思うんだ」
「なるほど、良い考えだと思います。ヒイロ様は、ダンジョンへの立ち入り許可証も既に発行されてますしね」
「そう思って、昨日、学園の冒険者協会に行ってみたんだけど……スコア0は、冒険者登録出来ないって言われちゃった」
「へぇ、なるほど」
たくあんを
「いや、それ、ダメじゃないですか。無職とニートが
「学生を無職ニート扱いするのはやめろ。
正直、予想外だった。そもそも、スコア0って立ち位置が特殊過ぎて、まさか冒険者登録も行えないとは思わなかったわ」
ゲーム内では、冒険者として登録するための条件は特に設定されていない……と思っていた。だが、実際のところは違ったのだろう。
学園に通って、冒険者協会に行く頃には、主人公のスコアは100は超えているだろうし。冒険者登録の条件が『スコア1以上』なんて、余程、特殊なプレイをしない限りは気づかない。
「で、どうします?
私、ヒイロ様を探してたこともあって……まだ、勤め先が見つからないんですけど」
「え、いや、お前、勤め先は三条家だろ?」
「そんなもの、とっくの昔に解雇されましたよ」
冷静沈着に。
お味噌汁をすすって、ほうっとスノウは息を吐いた。
「当たり前じゃないですか。バレますよ、それは。ヒイロ様は、三条家の監視下にいるんですから。本来、レイ様のお側にいないといけない私が、お役目を放棄して貴方のお世話を焼いてると知られれば解雇されるに決まってるでしょ」
「え……じゃあ、
「はい、当然」
さーっと、俺は顔色を青くする。
「いや、お前、レイのところに戻れよ……三条家の侍女って、高給取りだろ? なんで、俺のところに残って人生をふいにしてんの?」
「さぁ」
ちらりと、スノウは俺を見つめる。
「なぜでしょう」
「このバカ……そういうことは早く言えよ……クソ……とっとと、レイのところに戻れ。
レイなら、金回りも良いだろうからお前の給料も――」
「嫌です」
ぽりぽりと、スノウはたくあんを
「嫌って……なんで?」
彼女は、顔を
「……自分で考えれば」
「わかんないから、聞いてるんだけど」
どうやら、スノウの意思は固いらしい。
説得には応じそうにもないし、レイから言い聞かせてもらっても、恐らく
こうなれば、どうにかして、俺が給料を払ってやるしかない。
冒険者として働けないとなると、バイトするくらいしかないが……学生と言う身分である以上、深夜帯の仕事は出来ないし、月給制のバイトを今から始めたら来月には干物になっている。
「三条様」
相変わらず、美しく優雅なメイド服姿だ。
ただ、そこにいるだけで、空気がやわらいで安らいでいく感じさえする。
「お出かけですか?」
「まぁ、ちょっと……本当は、遅れてる授業の復習でもしようと思ってたんですが……リリィさんは、日曜なのに働いてて偉いですよね」
「三条様も、日曜に授業の復習をしようとするなんて頭が下がります。
あの子なんて、まだ眠っていますから」
リリィさんは、くすくすと笑う。
「いやいや、もう、授業の復習してる場合じゃなくなったので」
「大丈夫ですか? 少し、顔色が優れないような」
そっと、リリィさんは俺の顔を
「なにか困ったことがあったら、
男に対して、ココまで優しいとか聖人か……しかも、
じーんと、胸に染み渡る感動を味わっていると。
リリィさんは、一枚のプリント用紙を取り出して、俺に手渡してくる。
「まだ、三条様にはお渡ししていませんでしたよね。
どうぞ」
それは、一枚にまとめられた寮内新聞だった。
各寮では、寮長が指名したメンバーに役職が割り振られることがある。
そのひとつが『新聞係』で、この役職が割り振られた生徒は、週に一回、寮内の
新聞と言っても、プリント一枚の簡単なものだ。
大した負担にはならないし、学業が優先されるので、対応不可の場合は一週休みなんてこともよくある。
他の寮ではそうでもないが、
ゲーム内でも発行される
寮内新聞には、
新入生歓迎会……そう言えば、俺が
寮に住んでいない生徒にも、この新入生歓迎会への参加が認められている。
ゴミカスクソ野郎の総本山、我らがヒイロくんも嬉々として参加し、女の子たちを品定めして月檻にぶっ飛ばされると言う流れがあった筈だ。
「是非、参加してくださいね」
「あぁ、はい、時間があったら」
まぁ、俺は、参加しないけどね^^
女の子たちが集まって、交友を深める場に男は必要ないので……俺の代理として、スノウに参加させるか。
リリィさんと別れて、俺は街に出る。
駅前まで足を運んでから、裏路地に入って――ゴミ箱の中に入っていった。
この世に必要ない男を焼却処分すると言う
どぼんっ!!
俺は、頭から水の中に落ちて、青色の只中に
「教主様」
タオルを持ったシルフィエルに出迎えられる。
俺は、丁寧な手付きで頭を拭かれながら、屋敷内の階段を上がっていった。
最上階。
小さくて簡素な部屋の中に、ぽつんと、古ぼけた玉座があった。
ホコリを払ってみると、導線が走っている背もたれが視えた。
玉座に腰掛けた俺は、肘掛けに魔力を
【国家名】
Not Found
【資源数】
木材:0
鋼材:0
食材:0
【産出数】
木材:0
鋼材:0
食材:0
【所属員】
コマンダーユニット
三条燈色
ユニークユニット
シルフィエル・ディアブロート
ワラキア・ツェペシュ
ハイネ・スカルフェイス
ノーマルユニット
Not found
【建造物】
【テクノロジー】
Not found
俺の
設定を変えていないせいか、簡易的に表示されている国家状況ページを視て笑った。
イケる。
ニヤリと俺は笑って、国家名を入力する。
国家名 -> 神聖百合帝国
センス
「シルフィエル」
「はい」
胸に手を当てて、シルフィエルは深々と頭を下げる。
「俺は、この神聖百合帝国を広げて金を
足を組んだ俺は、高笑いを上げる。
「異界に百合の花を咲かせる。
それこそが、我が、神聖百合帝国の本懐である」
「
異界の金は、現界の金にも替えられる。
この国家運営システムが使われるのは、『悪堕ちルート』くらいのものだが……このゲームシステムを利用して、俺は、金を手に入れてスコアを取得し、百合の花を異界にも咲かせてみせよう。
利用出来るものは、なんでも利用してやる。
俺は、裏稼業の印として、白百合の仮面をかぶった。
「我ら、魔神教改め百合教、本日より行動を開始する!!」
「はっ」
笑いながら、俺は、片手を振って――表は学園生活、裏では国家運営――そんなちぐはぐな生活が始まった。