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百合IQ180✕180で、計算はしてないが無限大だッ!!

「よくよく考えてみたんだが」


 軽快に走る真っ赤なバイクの上で、アルスハリヤはささやいた。


「僕は、現在いままで、百合の間に男を挟むことを生業なりわいとしてきた」


 そして、彼女は笑う。


「だから、本能的に、男の君の好感度を上げようとしたのかもしれ――」


 バイクから蹴り落とすと、アルスハリヤは「わー……」と悲鳴を上げながら、道路を転がっていった。


「ワラキアワラキア、悪いが止めてくれ。中止だ、中止。あんなアホを信じて、突っ走った俺がバカだった」

「え~? もうおわりぃ~?」


 ゆるふわカールヘアの彼女は、人差し指を唇に当てた。


「わー、このデートのために、気合い入れてきちゃったのにぃ。そんなこと言うなら、きょー様、ちゃあんと責任取ってくれるんですかぁ? この責任の重大さ、胃にもたれちゃうくらいですよぉ?」


 自分のことを『わー』、俺を『きょー様』と呼ぶ彼女は、チェックのデザインワンピースでスーパーバイクにまたがると言うとんでもないことをしていた。


 この格好で転んだら、ぐちゃぐちゃのボロボロである。


「終わり終わり。コレにて終了。さようなら。

 適当にパフェでもおごってやるから、どっかで下ろしてくれよ」

「え~? パフェとかダサい~! わー、おやつだったら、二郎でニンニクヤサイマシマシアブラマシマシカラメマシマシ食べた~い!」

「おやつで!?」


 甘ったるい声で、ワラキアは続ける。


「うん、二郎、めちゃんこ楽しいですよぉ? ちょっと量は少ないけどぉ、必死な顔つきで食べてるオタクとか好きぃ。わー、二郎でロット乱したり、大学でサークルクラッシュしたり、運命の出逢いを装った結婚詐欺とかだぁいすき。

 今度、きょー様も一緒にやりましょぉ~よぉ~? すんごく、楽しいですよぉ?」

「二郎だけ、なんかベクトル違くない? 大丈夫?」


 ゆっくりと、バイクは停車する。


 当然のように、ノーヘルの彼女は、ウィンクしながら自撮りを始める。


「いぇい! きょー様とのツーショットチェキ、げっとぉ~!

 じゃあ、わーの恋人ってことで、SNSにあげちゃいまぁ~す……はい、おけおけ……あはっ、恋人匂わせで、わーのフォロワーの女どもが骨肉の争い始めたぁ! あはは、みにくいみにく~い!」

悪魔シルフィエルよりも悪魔らしいことを息吐くみたいに自然にするね、君は」

「え~? でも、わー、吐くよりも吸う方が得意ですよ~? 二郎も如何いかに吸うかみたいなところあるし~?」

「あ、そうすか」


 俺がバイクを下りると、当然のように、ワラキアは俺の腕を抱き込んだ。


 ふわりと、香水の香りが漂ってくる。


 可愛いを凝縮させた彼女は、ニコリと俺に微笑みかけた。


「わー、きょー様のファンだから付いてく~!」

「良いよ、付いてこないで……大人しく、ヤクザ・サークルでもクラッシュさせて遊んでなさい……俺、純愛派(愛があるのであればハーレムも可)だから、恋愛をもてあそぶような百合は許せないんだよね……既に道はたがえた……失せなさい……」

「え~? わー、なにもしてないよぉ? 勝手に、みんな、わーの二郎巡りに付き合って、急にぶっ倒れてサークル崩壊するだけだもん」

「それ、破壊してるのサークルじゃなくてストマックだね」


 ニコニコしながら、俺から離れないワラキアを視てため息をく。


 と同時に、目の前にアルスハリヤが現れた。


「早くバイクに戻りたまえ。計画に支障が出るぞ」

「最初から、計画に支障が出ていることにお気づきではない?」

「安心しろ」


 アルスハリヤは、指を一本立てる。


「プランBだ」

「チャート変更は、ガバのもとって学校で習わなかった?」


 ちょこんと、俺の前に立つアルスハリヤはわらう。


「先程の失敗は、枝葉末節の整え方を間違えただけだ。僕に慢心があったことも認めよう。

 だがしかし、このプランBは現在いままでとは違う」

「どこが?」

「失敗した時のために、プランCも用意してあ――待て、わかった、待て。冗談だ。賢者特有のユーモアに決まってるだろ。聞け。歩き始めるな」


 立ち去ろうとした俺は、ため息をきながら振り向いた。


「もう、オチが視えてるんだよ。

 どうせ、また、俺だってバレて、三条燈色の好感度が上がるだけだろ? そのパターンをあと2回も繰り返すの? 正気? お前、もう、魔人やめちまえよ」

「いや、次は、絶対にバレない」


 怪しげに目を光らせながら、アルスハリヤはささやく。


「次は、ワラキアに謎の百合仮面BLACKをやらせるからだ」

「……話を聞こうか」


 俺は、その策を聞いて、こくりと頷いた。


「アルスハリヤ」

「なんだね、ヒーロくん」


 俺たちは、にたぁとわらう。


「勝ったな」

「あぁ」


 俺たちは、バイクに乗って――一気に、魔神教日本支部――フェアレディ派の拠点に乗り込む。


 都心の貸しビル、そのひとつにフェアレディ派の拠点がある。


 運営している眷属けんぞくが有能なのか、ビル内に存在する幽霊会社ゴーストカンパニーは胡散臭さが消臭されている。


 ビル内の何社かは、CMも流されている英会話教室やヨガ教室、魔神教ではない脱税目的の特定非営利活動法人も傘下さんかにあって、本流には辿り着かないように巧妙に細工されていた。


「月檻たちは上だな」


 俺は、白百合の仮面をかぶり――ワラキアは、黒百合の仮面をかぶって俺と同じ格好をした。


 背格好は大差ないので、パット見は見分けがつかないだろう。


「やだ~! わー、こんなダサい格好、したくないんですけどぉ!」


 俺の喉から、ワラキアの声が出てくる。


「我慢しろ。少しの辛抱だ」


 逆に、ワラキアの喉から、俺の声が出てくる。


 仕組みは、至極単純なものだ。


 互いに咽喉いんこうマイクを首周りに取り付けて、小声でしゃべり、喉元のスピーカーからお互いの声を出力しているだけである(マイクを買う予算はなかったので、スノウからお小遣いを前借りした。怒られた)。


完璧パーフェクト完璧パーフェクトだ、ヒーロくん。バレるわけがない。人間は第一印象を顔、次に声から定めると言うからね。顔は仮面で隠しているから、彼女らは声で判断して見分ける筈だ」

「で、月檻たちは、俺の声が出ている謎の百合仮面BLACKを追いかけて――その仮面をがす」

「だが、仮面の裏にあったのは、ワラキアのご尊顔そんがんだ」

「後は、ワラキアが、例の甘味の層重ね(ミルフィーユ)を行えば良い……月檻たちは、俺からワラキアに好意を移すって流れか。

 コレは、間違いなく、勝ったなァ!! さすが、先生!! 天才、天才!!」

「おいおい、ヒーロくん。僕を誰だと思ってる」


 アルスハリヤは、微笑を浮かべて俺の肩を叩いた。


「愛の破壊者……魔人アルスハリヤだぞ?」

「KAKKEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!!」


 盛り上がっている俺たちの横で、ワラキアはマニキュアを塗った爪をいじる。


「そんなに上手くいきますぅ?」

「「間違いない(確信)」」


 九鬼正宗は、海の藻屑もくず(シルフィエル、回収中)になっているし、俺を見分けられるポイントはひとつもない。


 勝ったな(確信)。


「わーは、きょー様のファンだから頑張るだけだけどぉ……じゃあ、きょー様、はぁい、わーのお腹にお手々回してくぅ~ださい? 別に、お胸でも良いよ?」

「お肩で」

「良いの?」


 ブォン、ブォン、ブォオオン!!


 アクセルを回したワラキアは、微笑んで――


「振り落としても、もう拾わないから」

「え?」


 視えていた景色が、掻き消える。


 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 前輪を上げた彼女は、自動ドアをガラスごと粉砕しながら突っ込み、悲鳴を上げた受付嬢の前で綺麗にターンする。


 そのまま、非常階段へと突っ込み、魔法で扉をぶち壊す。


 バゴォン!!


 分厚い扉が内側に吹っ飛んで、警報が鳴り響いた。


 ワラキアは、バイクのままで非常階段を駆け上がっていく。凄まじい速度で上がるスーパーバイクは、衰え知らずで、2階3階と上っていき、警備員たちはその勢いに気圧けおされて道をける。


「うおっ、おえっ、えへっ、おぼっ!?」

「あははっ、きょー様、わーの胸掴んでるぅ、紳士ぶってた癖にえっち~!」


 階段を上がる度に、尻をボコンボコンと打たれる。


 必死にワラキアにしがみついた俺は、新しい階に辿り着く度に反転し、次の階段へと向かうバイクに嘔吐おうとしそうだった。


 とんでもない運転技術で、ウィリー走行した『ニンジャZX-10R』は、12階の扉をぶち破り――囲まれていた月檻と師匠がこちらを振り返る。


「ワラキア、突っ込め!!」

「あはっ」


 あか色の目を光らせたワラキアは、猛烈な勢いでフェアレディ派の眷属けんぞくへと突っ込み――速度にノッたまま、車体を倒した。


 ギュァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 ぺたんと、床スレスレまで倒れ込んだ車体。


 スライディングするかのような形で、赤色のバイクはタイヤを高速で回転させ、眷属たちをなぎ倒していく。


「………ッ!?」


 既に飛んでいた俺は、小刀を逆手で構え――月檻は迎撃の構えを取り――ざん、彼女の背後にいた眷属の剣柄が断ち切られる。


「え?」

「よう」


 俺は、月檻の背中に背を着ける。


「背中を預かりに来たぜ」


 当然、俺の声は、ワラキアの喉から出ている。


 大量の敵に囲まれて、俺は、月檻の裏側で構えた。


 聞こえる筈もなかったが、それでも、俺は主人公に仮面の裏で微笑みかける。


「構えろよ、主人公……お前は、表だけで良い。

 裏は――俺に任せろ」


 彼女は、目を見開いて――思い切り、俺を抱き締めた。


「ヒイロくん……おかえり……」

「えっ!?」

「ホントにキミは……」


 月檻は、くぐもった声でささやく。


「いっつも……来て欲しい時に来るんだから……」

「ヒイロッ!!」


 歓声を上げながら、師匠アステミルは俺を抱き締めて――俺は、彼女の柔らかい身体にうずまる。


「このばか弟子が!! ばかばかばか!! ばかばかばかばかぁ!! お土産みやげは、どうしたんですか!? お土産!! なんで、私のチャットに返信してくれないんですか!! ばかばかばかばかぁ!! ばかぁっ!! 私の愛弟子が死ぬわけがないんですよっ!! だからぁ!!」


 わんわん、泣きながら、師匠は俺を抱き締め続ける。


「お土産ぇ!!」


 この420歳、お土産への執着心が強すぎる!!


 俺は、咽頭いんとうマイクとスピーカーを外して、月檻たちを見つめる。


「な、なんで、俺だってわかったの……?」

「だって、レイからチャットで回ってたから。

 白い百合の仮面がヒイロだって」

「あっ……(宇宙の真理を理解した音)」

「ヒイロ、久しぶりにご飯でも食べに行きませんか?

 私、貴方のいない間にスタンプ(ドヤァ)、スタンプの使い方、マスターしましたから(ドヤァ)。ご飯でも食べながら、貴方にも見せてあげます(ドヤァ)。私、貴方の師匠なので、チャットでスタンプを送ることが出来ます(ドヤァン)」


 ドヤ顔、うっざぁ^^


 さっきまで、くらい目をしていた月檻と師匠は、雰囲気からして別人のように変わっていた。


 困惑していた眷属たちは、本来の目的を思い出して一斉に武器を構え――一閃――師匠に刈り取られて、全員が全員、床に沈んだ。


「私、お寿司が食べたいですねお寿司。

 お皿がくるくる回る、ジャパニーズサイクロンディッシュ寿司が食べたいところです。もしくは、新幹線で運ばれてくる、ジャパニーズマッハリニア寿司をご賞味しょうみしたい気分ですね」

「俺の知らない寿司だ……」

「ヒーロくん!!」


 アルスハリヤの叫び声。


 振り返ると、美しいアルミボディが俺を待ち受けていた。


 二輪車ママチャリに乗ったハイネは、額の上の二本指をビッと下に下ろし、クールにベルを鳴らした。


「…………(スカッスカッ)」

「撤退するぞ!! ハイネが迎えに来た!! 今回は、我々の情報データの敗北だ!! 次は、プランHでいく!!」

「俺の預かり知らないところで、何回もプランを切り替えて、ことごとく失敗させるのはやめろォ!!」


 俺は、アルスハリヤに導かれて、ママチャリへと駆け走る。


「悪い、師匠! 俺には、大事な使命がある!! 寿司はまた今度な!!」

「え~……!」

「またね、ヒイロくん。お姫様の救出、頑張って」


 俺は、ママチャリの荷台にまたがって――


「…………(スカッスカッ)」


 ママチャリは、ノロノロと、エレベーターにまで向かっていった。

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