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ドラマティックな再会

 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!


 凄まじいエンジン音を立てながら、ランボルギーニ・アヴェンタドールがコーナーへと突っ込む。


「曲がらん曲がらん、ソレは曲がらん!!」

「試してみましょう」


 スピードを落とさず、青色の車体ボディが曲がり角へと突っ込んだ。


 ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッ!!


 アスファルトに、タイヤこんが刻まれる。


 慣性に従ったアヴェンタドールは、斜めに軌道を変えて爆進した。


 ほぼほぼ真横になったスーパーカーは、シルフィエルの巧みなハンドリングに押さえつけられながら、速さの女神(ヘルメス)に微笑まれる。


 ドッ!!!


 アクセルをベタ踏みにして、直線、一気に距離を詰める。


 座席に押し付けられた俺は、真っ黒なポルシェ911をとらえて、二台の車は横並びになった。


「ヒーロくん」


 俺の膝の上で、アルスハリヤは懐中時計をした。


「3時間だ。3時間で決着を着ける。この制限時間タイムリミットを過ぎたら、白百合仮面計画は失敗すると思いたまえ」

「その根拠は?」


 にたぁとわらって、彼女は、自分の頭をトントンと叩いた。


情報データだ。

 まずは、三条黎を救いたまえ。僕の完璧な人心操作術によって、彼女が分家の連中にさらわれるのは計算()くのことだからね。あの時間にあの地点をポルシェ911が通り過ぎるところまで、僕の情報データもとにした計算通りだ」

「あまりにも出来すぎてると思ったら、テメーの仕業か!? いつの間に、そんな仕掛けほどこしやがった!?」


 アルスハリヤは、肩をすくめる。


「君が眠りこけてる間だよ。

 完全に意識を失っている午前1時から2時までの間、それが僕の黄金の時間(ゴールデンタイム)、ちょっとくらいなら君の身体を動かせる」

「ぁあん!? 聞いてねぇぞ、そんなこと!? お前、悪用しなかっただろうなぁ!?」

「安心したまえ。

 主権はヒーロくんが握っているから、君の人格を否定するようなことは出来ない。出来るのは、単純作業くらいのものだよ。チャットを送るとか、メールを送るとか、その程度のものだ」

「分家の誰かの連絡先をスノウ辺りから入手して、この事態を作り上げたってことか……」


 俺の胸を背もたれにして、アルスハリヤはぱちぱちと拍手をする。


「お上手お上手、猿並の知能はあるらしい」

「テメェ、誰がレイを危険に晒してまで好感度を下げたいって言ったァ……!?」

「おいおい、そう怒るなよ。今回のことはタイミングの問題で、いずれ起こったことだぞ。むしろ、問題事を解決する良い機会を作ってくれたと感謝して欲しいくらいだね。

 さて、そんなお話をしてる場合じゃないみたいだぞ」


 助手席に乗っていた黒スーツの女が、小刀型の魔導触媒器マジックデバイスをこちらに向けて――砲口から火が吹いた。


「失礼」


 シルフィエルは、片手で俺をシートに押さえつけ――バリィン!!


 呆気なくガラスが割れて、練られた火球が俺の眼前を通り過ぎる。


「うぉお!? 死ぬ死ぬ死ぬっ!!」

「ヒーロくん」


 たのしそうに、アルスハリヤは扉を示した。


「飛び移るぞ、アクション映画の基本を実践しよう」

「いや、無理に決まってんだろ!? スピードメーター視てみろ!? 120kmだぞ、120km!? 下りた瞬間に、即死コースだわ!!」

「一度、死んだんだから、二度三度、死ぬくらいは別に構わないだろ。

 恐怖で萎縮いしゅくしてる暇があったら、とっとと、格好良くあの子を救いに行きたまえ」


 パァン、パァン、パァン!!


 発砲音が響き渡り、シルフィエルは顔をしかめる。


「人間ごときに、舐められるのはしゃくですね」


 助手席と後部座席のふたりの黒スーツに、好き勝手撃たれて、真顔のシルフィエルはハンドルを思い切り左に回した。


 ドゴッ――青と黒の車体がぶつかり、互いに大きく揺れる。


 助手席の俺は跳ね跳び、お尻が浮き上がる。


 シートベルトを外していたのか、ポルシェ911内の狙撃者は、天井に頭を打ち付けてひっくり返っている。


「二回行動は、上級者の基本。

 ご搭乗の教主様にご案内いたします。再度、ぶつけますので、シートベルトをご確認ください」

「シルフィエルさん!?」


 右にハンドルを回しながらアクセルを踏み、黒い高級車を追い越したアヴェンタドールは、左へと曲がってケツの部分でその車をぶっ叩いた。


 ギャギャギャギャギャギャギャァアアアアアアア!!


 相手の運転手は、泡を喰って、ハンドルを回している。


 そのタイミングで、シルフィエルはドアを開いた。


 ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!


 四輪から白い煙を吐きながら、とんでもない勢いでアヴェンタドールは回転し、開いたドアからポルシェ911までの道のりが示される。


 シルフィエルは、微笑んで、胸に手を当てる。


「いってらっしゃいませ」

「そういう有能さは、銀幕以外で求めてねぇ!!」


 放り出された俺は、低空を飛びながら引き金(トリガー)――両手を十字クロスさせて、人差し指と中指で経路線レールを描いた。


「よう、女の子だけでピクニックか?」


 真正面から、俺をとらえたポルシェ911の運転手は驚愕で口を開く。


 笑いながら、俺は、二本の指を伸ばした。


「俺も飛び入り参加で」


 ドッ!!!


 出力を絞った不可視の矢(ニル・アロウ)が、フロントガラスを破壊して、俺は両足でダイナミックエントリーする。


「ぶっ!!」


 運転席の女性は、俺の飛び蹴りを顔で受け止める。


 飛び込んできた俺を視て、助手席の侍衛じえいは、魔導触媒器マジックデバイスをこちらに向けて――ぱしっ――俺の足で弾かれる。


「なっ!?」

「よっと」


 両腕の力で跳ね跳び、半身を回しながら、左足の甲を顔面にブチ込む。


 あごに綺麗に入って、彼女は失神した。


「何者だ、貴様!?」


 後部座席で藻掻もがくレイを押さえながら、最後に残ったひとりが砲口を向けてくる。


「よく聞いてくれた」


 俺は、喉を潰したようなだみ声で言った。


「私の名前は、謎の白百合仮――」

「死ね、変態!!(パァンパァン)」

「是非もなし!!」


 助手席に隠れて、俺は、火の球を避ける。


 侍衛じえいは、身を乗り出してきて、助手席の俺に砲口を突き付け――同時に、九鬼正宗の砲口を彼女の喉に当てた。


「早撃ち勝負でもするか?」


 彼女は、震えながら、冷や汗を額から流す。


「俺は、百合ゲーの特典のために、PCの前で貼り付いてF5を連打したこともあるプロフェッショナルだ……商品をカートに入れて、注文確定させるまでの速さは誰にも敗けないという自負がある……ちなみに、新作の百合ゲーは特典付きであろうとも、ほぼほぼ売り切れることはないので、そんなことをする必要は全くない……どうする、この話を聞いても、まだ俺と勝負す――」

「死ね、変態!!(パァンパァン)」

「でしょうねぇ!!」


 紙一重で避けた俺の手から、九鬼正宗が弾き飛ばされる。咄嗟とっさに、俺は、先端を丸めた水の矢(ウォーターアロー)侍衛じえいを殴りつけた。


ァ!!(渾身のギャグ)」


 ずるりと、彼女は気絶して、俺はこちらを見つめるレイに親指を立てた。


「安心しろ、もう大丈夫だ。

 怪我、ないか? 直ぐに拘束を外すから、じっとしてろ」


 余程、怖かったのか。


 涙を流しながら、レイは俺を見つめ――グォングォングォォオオン!!


 まだ、エンジンがかかっていたポルシェ911は、気を失った運転手が踏んでいるアクセルに従って走り続けていた。


 その行く先に広がるのは、ガードレール、その向こうには断崖絶壁。


 後部座席。


 レイの上に出現したアルスハリヤは、たのしそうに両手を打って歓声を上げる。


「実に素晴らしいシチュエーションだ。この僕のディレクション、一部の隙もない……そろそろ、有終の美(フィナーレ)だぞ、ヒーロくん。

 あと数分で、この車は海の藻屑もくずになる。お姫様を抱き上げて、颯爽さっそうと脱出したまえ」


 俺は、にこりと微笑む。


「……ちょっと言いづらいんだけどさ」

「なんだ、このに及んで遠慮するんじゃない。

 計画の第一段階は、見事に成功した。数分の余裕はあるのだから、互いの活躍に祝杯を捧げて、余裕ぶった嘲笑ちょうしょうをコイツらに進呈してやれば良い」

「じゃあ、言うね」


 俺は、笑って。


 シートベルトで、雁字がんじ搦めになった自分の片足を指差す。


「外れないわ、コレ」

「ははははは、それは面白い冗――は?(真顔)」


 俺は、ぐいぐいと、シートベルトを引っ張るが外れる様子がない。


「君、ふざけるなよ。君が死んだら、僕は死ぬんだぞ。こんなアホな死に方、あってたまるか。とっとと、引き千切れ」

「ちょっと前に、強化投影テネブラエの効果が切れちゃってさ」


 俺は、爽やかに笑った。


「ついさっき、弾き飛ばされた九鬼正宗、座席の下だわコレ」

「…………」


 アルスハリヤは、笑いながら白目をいた。


「あは……あはは……あははははは……!」

「あはははははっ!! 壊れちゃったよ、コイツ!! ざまぁ!!(大爆笑)」

「言ってる場合かぁあああああああああ!! とっとと、どうにかしろ、このアホがぁああああああ!! 君の責任だぞっ!! ふざけるのも大概にしておけよ、この猿頭がぁあああああっ!!」

「ひぃ……ひぃ……!! や、やめろ、もう笑わせんな……あははははは……っ!!」


 どんどんどんどん、崖が迫ってくる。


 俺は、席の下の九鬼正宗に手を伸ばし――指先が微かに触れて、更に奥へと押し込んでしまう。


「……コレ、アカンやつだわ(真顔)」

最期さいごに、外の景色でも視ておくか(諦観)」

「うーっ!! うー、うー、うーっ!!」


 後部座席に転がっていたレイは、藻掻もがきながら、必死に目でなにかを知らせてくる。


 目線の先――そこには、侍衛じえいが落とした小刀型の魔導触媒器マジックデバイスが落ちており――彼女は、必死に、ソレを顎先で押し出した。


「それだっ!!」


 俺は、懸命に、助手席から手を伸ばす。


「うっ……!!」


 俺とレイは、互いに小刀を押し出し、伸ばして――手が触れる。


「握った!!」

「早くしろ早く!! とっとと、脱出しろ!!

 なにしてる!?」


 無属性の小刀を出した俺は、足に絡まったシートベルトを斬ってから――気を失った侍衛じえいを担ぎ上げる。


「置いていけ、そんなゴミ!! 人間がリサイクル出来るとでも思ってるのか!?」

「百合は、どこから生まれるかわからないんでね!!

 人間はリサイクル出来ないが、人間の心はリサイクル出来る!! 俺にはわかる!! いずれ、この子たちは、俺に最高の景色を見せてくれる!!」


 強化投影テネブラエ――扉を蹴り飛ばした俺は、彼女たちを生成クラフトした魔力表層で包み込み――


「うおらぁッ!!」


 近くの茂みにまで、投げ飛ばす。


 三人を投げ飛ばしてから、俺は眼前まで迫っている崖を見つめた。


「優先順位を間違えたな、このアホ人間が!! あの雑魚たちを見捨てて、利用価値の高い三条黎を救えば良かったんだ!! 今更、三条黎を救うのは無理だ、諦めろっ!!」

「うるせぇよ、腐れ魔人」


 俺は、レイを抱き上げる。


「ココで見捨てられるようなら、お前と一緒に心中してるわけねぇだろ」


 レイは、目を見開いて俺を見つめる。


 ガードレールを破壊して、崖の上から、真っ黒な車体が落ちてゆく。


 自動車は自由落下を始め、俺は、扉から身を投げ出し――思い切り、魔力をめて、レイを崖上まで投げ飛ばした。


 一瞬、仮面越しに、俺とレイの目が合った。


 そして――落下が始まる。


「まぁた、お前と心中かよ。しかも、お前のバカな企みが元で」

「いいや、ヒーロくん、コレで合っている。

 なにせ、この場所こそが、第二地点セカンドポイントだからな」


 にたにたと、魔人はわらった。


「多少のアクシデントはあったが、ココまで僕の演出範囲内だ。

 コレで――」


 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


有終の美(フィナーレ)だ」


 爆裂するエンジン音。


 切り立つ崖を下りてきた一台のバイクが飛んで――俺へと、右手を伸ばす。


「お迎えでぇ~す!」


 ワラキア・ツェペシュは、俺の手を掴んで、後輪で岩上へと着地する。


 魔力で耐久性を底上げされたバイクは、大破せずにその衝撃を受け止めて、俺を後ろに乗せたワラキアは海沿いを疾走した。


 俺は、安堵の息を吐き――


「お兄様ぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「えっ(絶望の予感)」


 崖上からの叫び声を聞いて、上を見上げる。


「絶対に帰ってくると思ってた……私が願ったら、絶対に貴方はやってくるから……お兄様……信じてた……信じてました……お兄様なら、必ず、私を救いに来てくれると信じてたから……」


 俺の安否を確認したレイは、嬉しそうに笑いながら泣いていた。


「…………」


 俺は、自分の仮面を両手で確認する。


 きちんと、着けている。


 アルスハリヤは、驚愕の面持ちでレイを見つめていた。


「ば、バカな……こんなの僕の情報データにないぞ……!?」


 俺は、クソ雑魚データキャラの首に、生成クラフトした縄をかける。


「ま、まさか、声でバレた……いや、行動で……どちらにせよ、僕の計画に穴があっただと……そ、そうか……!!

 アホの体内で、アホの魔術演算子と混ざったことで、僕の灰色の脳細胞が異常をきたし――」


 俺は、アルスハリヤを蹴飛ばし、バイクにくくり付けられたアルスハリヤは地面を引きずられ始める。


「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! こんなの僕の情報データにないぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「スピード上げろ^^

 先生は、まだ、目が覚めてないようだ^^」

「おっけ~!」

「グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 僕の情報データの力がァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 俺たちは、キャッキャウフフと処刑を堪能たんのうしながら――魔神教日本支部へと、突っ走っていった。

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