アルスハリヤ先生の秘策
「……本当に、コレで合ってる?」
俺は、『百合』の花がデザインされた白い仮面をかぶる。
焦げ茶色のローブを羽織って、真っ白な仮面をかぶった俺は、どう視ても変質者のソレであり……腰にぶら下げている九鬼正宗は、偽装が
「僕を信頼したまえ」
自信満々のアルスハリヤは、裏路地のゴミ箱に腰掛ける。
「さて、君の名前はなんだ?」
「三条燈――」
「違う。
「……謎の白百合仮面V3」
俺は、仮面の裏側でため息を
「もうちょっとさ、名前、どうにかなんなかったの? なに、V3って? どこから、Vが3つも舞い込んできたの?」
「Vは『Version』の頭文字だ。
僕の灰色の脳細胞は、既に、この『白百合仮面計画』を第三段階まで進めている。君のような
Do you understand?」
「アンダスタンッ!!(水矢射出)」
「OK!!(額に直撃)」
おでこに矢を刺したまま、アルスハリヤはニヤリと笑う。
「さて、改めて、計画の最終確認をしようじゃないか。
「……もしもし」
『こちら、シルフィエル・ディアブロート。
感度良好。問題ございません』
青色のメタルボディ。
ランボルギーニ『Aventador 780-4 Ultimae Roadster』に乗っている
『ワラキア・ツェペシュ、準備オーケーでぇ~す!』
真っ赤なカワサキ『ニンジャZX-10R』に
『ハイネ・スカルフェイス、搭乗完了』
4,999円のママチャリに乗った
「我ながら完璧だな」
「待て待て待て」
俺は、チリンチリンうるさいママチャリ・ガールを指差す。
「スーパーカー、スーパーバイクと来て、急になんで、日本製ホームセンター産特価価格ママチャリがやって来たの?」
「今回の計画に万全を
「いきなり、ガバってんじゃねぇか!!
つーか、今回の計画に、スーパーカーもスーパーバイクも絶対に
俺は、駅前に
「視てみろ!! あの悲しそうな顔!!
「…………(スカッスカッ)」
「ほら、視ろ!! 特価価格に釣られて粗悪品なんて買うから、もうベルが壊れて、ベルすら鳴らせなくなったぞ!!」
灰色の髪をもつハイネ・スカルフェイスは、虚空に親指を当てて、鳴る筈もないベルを鳴らし続けている。哀れにも程があった。
「おいおい、あまり
つまるところ、スーパーカーに乗って三条家に突っ込み『三条黎再会問題』を解決し、スーパーバイクで魔神教日本支部にカチ込んで『月檻桜及びアステミル再会問題』をどうにかして、ママチャリで
「不満しかねぇよ!!
「だからこそ、だ」
ゴミ箱の上で、アルスハリヤは、両足をぷらぷらと揺らす。
「良いか、この『謎の白百合仮面計画』は、君、
たったの数時間で、謎の白百合仮面V3は三条黎を救い、月檻桜及びアステミルに強さを見せつけ、ラピス・クルエ・ラ・ルーメットを
彼女らは、想う筈だ……『この素晴らしく有能な人は、どこの誰なんだろう? どこか、ヒイロに似ているが、もしかして彼が帰ってきたんじゃないか?』」
ぱちんと、魔人は、指を鳴らした。
「期待感を煽って、興味を引いたこのタイミングで正体を明かす。
もちろん、その正体は君じゃあない。シルフィエル・ディアブロート、彼女が、白百合の仮面を外して現れる。その後は簡単だ。君が生きている証拠をシルフィエルの手で提示し、信頼関係を築いた上で
実に
「彼女らは、最初、君の情報を欲してシルフィエルと会うようになるだろう。しかし、徐々に、シルフィエルの魅力を
あたかも、層を築き上げるようにして『ヒイロ』、『シルフィエル』、『ヒイロ』、『シルフィエル』、『シルフィエル』、『シルフィエル』……徐々にシルフィエルの魅力を与える配分を増やしていき、最終的には『ヒイロ』は消えている。
僕は、この百合破壊手法を『
「お……おぉ……!!」
思わず、俺は、拍手をする。
白色の手袋を着けたアルスハリヤは、両手を上げて俺の歓声を受け止める。
「お静かに、
僕は、この手を使って、たくさんの百合カップルを破壊してきた。愛と言うのはね、
断言しよう。この『謎の白百合仮面V3計画』が終わった時、君は、彼女らからなにも想われることのないただの三条燈色に戻っている」
「先生!! アルスハリヤ先生!!」
俺は、目を輝かせて、アルスハリヤへと駆け寄る。
「あっはっは、そんなに騒ぐんじゃな――」
そのまま、右ストレートで、彼女を壁に叩きつけた。
「…………いや、なんで?」
「コレは、お前が破壊してきた百合の分!!
そして、コレがァ!!」
俺は、アルスハリヤの腹に左拳をブチ込む。
「ただの
「醜い人間がッ!!」
俺の腹パンで、両足が宙に浮いたアルスハリヤは、ふわりと着地する。俺の着地狩りに
「ストリートで、子供相手にコンボを繋げるんじゃない。まったく。君と言う男は、ストリートファイトの常識も知らないのか」
立ち上がったアルスハリヤは、ぱんぱんと砂埃を払う。
「さて、そろそろ、シルフィエルたちを配置につけたまえ。
くれぐれも言っておくが、コレは時間との勝負だ。なおかつ、君の正体がバレないことが最重要視される。絶対に仮面を外したりするなよ」
「さすがに、そんなアホなことはやらねぇよ」
俺は、
『
俺は、
「もう呼ぶことはないと思ってたんだが……今回限りで、協力よろしく」
「教主様のお力になれるのであれば、このシルフィエル、光栄に存じます」
彼女は、少し頭を下げて、美しい笑みを浮かべる。
「では、発進しても?」
「いや、待ってくれ。
そろそろ、スノウから、レイの居場所の連絡が……あ、来た。もしもし」
目の前に
映るなり、彼女は、物凄い大声で叫んだ。
『レイ様が
「……は?」
『きっと、分家の連中です!!
早くしないと、手遅れにな――』
真っ黒な高級車とすれ違って、その中の彼女と目が合う。
粘着テープで口を塞がれて、結束バンドで拘束されているレイは、後部座席で
瞬間、俺は叫んだ。
「シルフィエルッ!!」
「
シルフィエルは、ギアチェンジして、ハンドルを握った。
「
エンジンが唸り声を上げ――一気に、青い車体は、アスファルト上をぶっ飛んだ。