伝説の樹の下で告白したら、云々的なアレ的な云々
なにが起きてる。
鏡に映るタキシード姿の
プール内で
――今夜、魔神教による襲撃がある
今夜。今夜と言うのが問題だ。
本来、魔神教の襲撃は、レクリエーション合宿の3日目に予定されているイベント……つまり、本来であれば、明日、発生する予定のものだ。
シナリオの流れが変わっている。
それは良いことなのか、悪いことなのか。
現時点では判断はつかないが、シナリオの流れが変わったと言うことは、原作からなにかしらの変化があったということだ……本来のゲームと異なる点と言えば、俺がヒイロに成り代わっていることしか思いつかない。
俺は、百合を……アイツらを護る。
その覚悟は、とうの昔に出来ている。俺が原因であるのなら、
魔神教の襲撃。
本来の流れであれば、俺の介入は必要ではない。
月檻ひとりいれば事足りるし、俺はその姿を視ながら、サイリウムぶん回し『百合ぃ!! 百合よ、目覚めろォ!!』と声援を送っていれば良い。
だが、気になる点がある。
本来、魔神教の
にも関わらず、彼女は、俺に『今夜、魔神教による襲撃がある』と言うことが出来た。
可能性はふたつ。
もしくは、そんな情報を俺に言ったところで意にも介さない格上が来るか。
その程度であれば良い……その程度であれば。
もし、俺の予想を上回るような格上が来れば……その時は……。
「…………」
鏡を見つめる。
俺が笑うと、金髪のゴミ畜生も笑う。
はぁ、と、ため息を
なんで、俺は、エスコ世界で最もヘイトを集めるキャラになって、ヒロインたちとイチャイチャしてんのかね……百合をたずねて三千里……幾ら歩いても、進む道を間違えれば、辿り着くわけもないわな。
「おい、クソ野郎」
俺は、鏡の中の金髪ゴミ毛虫に笑いかける。
「下手すりゃ、正念場だぜ……覚悟、決めろよ……テメーみたいなゴミ野郎に許可をとる必要はないと思うが……いざという時は……わかってんだろ……?」
返事ひとつ
「お前が壊そうとしたモノ全部、俺が丸ごと救い取ってやるよ」
俺は、九鬼政宗を片手に空き部屋を出る。
「たぶん、そのために……俺は、ココに来たんだからな」
扉を閉めて、俺は、暗闇の中に
「百合、最高」
レクリエーション合宿、2日目のメインイベント。
下層のアメジスト・デッキ、ダンスホールで行われるダンスパーティー。
ご立派な劇場に
この
そのため、1回30分の5部に分けられ、全体で2時間30分のパーティーとなっている。
1部から5部まで、どのタイミングでダンスを踊るかは自由だが、人数の都合上、全ての部に参加するわけにはいかない。
参加出来るのは、1部から5部のどれか1部だけだ。
このダンスイベント、百合ゲーらしく……と言うか、恋愛シミュレーションゲームらしく、ひとつの伝説が存在している。
――レクリエーション合宿のダンスパーティーで、ダンスを踊った人同士は結ばれる
なんとも、ロマンティックな伝説である。
伝説の樹の下で女の子から告白して成立したカップルは、永遠に幸せになれるとか言う邪教徒の作った伝説みたいだ(過激派)。
ココで、
誰とダンスを踊るか、だ。
ココで一緒にダンスを踊ったヒロインの好感度は、一気に上がるため、ココでの選択には慎重を
なにせ、ココには、
他のヒロインのルートに入ろうとしていたのに、ココで適当にダンスを踊って、ラピスルートやレイルートに入り、ココまでの道中は全てパーになりましたなんてよく聞く話である。
ラピスたちを狙っていないのであれば、ココは泣く泣く『部屋に戻って寝る』もしくは『誰も参加していない部に参加する』と言う選択を取らなければいけない。
さて、そんな好感度急上昇イベントに、もちろん俺は参加――するわけないですね^^
ココは、『部屋に戻って寝る』
とか言いたかったのだが、この
当然、誰とも踊るつもりはない。
お行儀よく
九鬼正宗は、パーティー会場に隠して。
俺は、新たに得た力『
ククッ……コレで、もう見つかるわけもない……俺の完璧な偽装……コレぞ、百合を見守る究極の形……
俺は、
月檻、ラピス、レイ、
そんなことを考えていると……会場が、唐突にざわついた。
恐れるように、集まっていたお嬢様たちが道を
蒼色のドレス。
静まり返った海原のように、優しい蒼が
だが、それ以上に、彼女は美しかった。
しずしずと。
会場を進むラピス・クルエ・ラ・ルーメットは、宝石の付いたティアラをかぶり、会場の視線を一気に引っ張り込む。
ひとつにまとめた長髪から、黄金色の
その美貌に圧倒されたのか、誰もが息を
きらきら、と。
シャンデリアから舞い落ちる光を吸い込み、己のモノとしたエルフのお姫様は、天使だと紹介されれば頷いてしまう程に綺麗だった。
ロンググローブを
まるで、誰かを待つように。
劇場に待機していたオーケストラが、闇夜に
呆気に取られていたお嬢様たちは、我を取り戻し、手に手を取って踊り始めた。
「………」
ラピスは、顔を上げて、目線を
きっと、月檻を探しているのだろう。
この世のものとは思えないラピスは、完全に周囲から浮いていて、誰も彼女のことをダンスに誘おうとはしなかった。
だからこそ、彼女の手を取れるのは、月檻桜以外にいる筈もない。
1分が
月檻もレイも、姿を現さない。
徐々に、ラピスの顔に焦燥感が表れ始める。何度も、自分の両手をぎゅっと握り込み、キョロキョロと辺りを見回している。
ココで、俺が手を出すわけにもいかない。
このダンスイベントは、大事なイベントのひとつで、今後の方向性を決定付ける。誰と踊るのかは、月檻に選ばさなければならない。
「……アレじゃあ、
「……えぇ、可哀想に」
くすくすと笑い声が聞こえてきて、俺の前の二人組が、楽しそうにラピスを眺める。
「エルフの国のお姫様には、お友達がいないって本当だったのね」
「だって、エルフだもの。人間とは違うでしょ。それにお姫様。誰も踊る気がしないってのも頷けるわ」
意地悪い笑みを浮かべた二人は、徐々に声のボリュームを上げる。
聞こえていたのか。
ラピスは、蒼色のドレスの
俺は、会場の隅でその姿を眺める。
――そろそろ、学園も始まるし、入ったら直ぐにアレがあるでしょ?
アイツ、このダンスパーティー、楽しみにしてたよな。
――ドレスでも、買っておこうと思って
わざわざ、このために、俺を引き連れてドレス、買いに行ってたもんな。
「御大層な登場したのに、可哀想」
「あーあ、せっかくのドレスがもったいない」
護衛も引き連れないで危険を
「泣いちゃうんじゃないの、アレ」
「あはは、視て、涙目になってきたわよ」
ドレスの
その姿を視た瞬間――自然と、身体が動いていた。
真っ直ぐに歩き出し、俺は、その二人組の間へと突っ込む。
「おい」
彼女らは振り向き、俺を視て
「退いてくれるか?」
「な、なによ、急に!
あ、貴方、男の癖に――」
「ココは、御令嬢が交流を深めるための場所だ。礼節を
実家に帰って、テーブルマナー以前の礼儀から学び直してきな」
「い、行きましょ! こ、コイツ、ヤバいわよ!」
彼女らは、逃げるように去っていく。
俺はラピスの元へと歩いてき、驚く彼女の前で――
「どうか、私と踊ってくれませんか?」
目を見開いたラピスを見上げて、俺は微笑みかける。
「ドレス、似合ってるよ。綺麗だ」
彼女は、微笑んで、涙が頬を流れ落ちる。
「おそいよ……ばか……」
俺とラピスは、手に手を取って、ダンスホールに立った。
男と女。
それも、片方はお姫様で、もう片方は軽薄そうな金髪男。
自然とダンスホール上の談笑は消え失せて、オーケストラの演奏だけが場を支配する。シャンデリアの光彩が、俺たちの真上を踊り、その光に合わせてステップを踏む。
どこまでも、色鮮やかに、俺たちはダンスホールで息を合わせる。
夢見心地の表情で、ラピスが俺を見つめていた。
そのぼうっとした
「ヒイロ、下手くそ」
「当たり前だろ。ダンス歴0年0ヶ月0週0日だぞ」
「じゃあ、この機会に練習しよ。教えてあげる」
「お姫様直々にとは、大層有り難いことで」
俺たちは、踊る。
いつの間にやら、時間は流れ去り、曲が終わってラピスは俺を見つめていた。
俺は、彼女から手を離して声を張り上げる。
「いやー、マジかー!! 男の俺なんぞとあのラピス様が踊ってくれるなんて、どこまで慈悲深いんだよー!! え!? 今なら、誰とでも踊ってくれるんですか!? 嘘でしょ!? 早いもの勝ち!?」
会場がざわめく。お嬢様たちは、興奮気味にささやき合った。
「お、男と踊ってたわよ!? あのラピス様が!!」
「な、なら、わたしとも踊ってくれるのかな?」
「だ、だって、男と踊るくらいよ!? 男なんかと踊るくらいなら、きっと、私とも踊ってくださるわよ!!」
俺は、オーバーなリアクションでラピスの手を握る。
「誰も立候補しないなら、もう一回、俺が踊ってもらっちゃお――へぶっ!!」
ドドドドドと押し寄せたお嬢様たちに跳ね除けられて、俺はラピスの
あっという間に、彼女は女の子たちに囲まれていた。
「ぜ、是非!! 私と!! 私と踊ってください!! 前からファンだったんです!!」
「ちょっと、割り込まないでよ!? ラピス様は、次にわたしと踊るのよ!?」
「ら、ラピス様、恐れ多いのですが、れ、連絡先を!! よ、良かったら、今度、私と遊びに行きませんか!?」
「え……えっと……あの……」
急に大人気になって囲まれたラピスは、女の子たちの壁の隙間から俺を見つめる。
俺は、彼女に微笑みかける。
「楽しめ」
「あ……ひ、ヒイロ……!」
大満足の結果に、俺はニヤけながらその場を後にする。
コレで、ラピス狙いの女子が一気に増えた……可能性は無限大だ……最悪、月檻にこだわらなくってもいいさ……百合ってのは自由でなくっちゃあならない……ラピス、頑張って、その中から運命の
百合に邪魔な男は、クールに去るぜ。
会場の隅に戻ろうとした俺は、突然、道を塞がれて――
「こんばんは、色男さん」
「月檻……テメー……どこ行ってやがった……!」
思わず、
「良いから良いから、後がつかえてるんだから戻って戻って」
「お、おい、押すなよ、どういうこと?」
「桜さん、次は私ですからね。お兄様の次は、私が予約済みなので。
どうぞ、お間違えがないように」
「いやいやいや、伝説伝説!? 伝説、知ってる君たち!? ねぇ!? そんな、簡単に踊ったらダメだっ――テメー、月檻、魔法で身体強化を!? たすけてぇ!! 誰かァ!! 無理矢理踊らされてまぁす!! 誰かァ!! たすけてくださぁい!! コレ、強制ダンスでぇす!! いやぁあ!! 皆の前で、無理矢理、踊らされちゃぅう!!」
抵抗