知らなかったのか……? 水着イベントからは逃げられない……!!
女の子たちの歓声が聞こえてくる。
白い肌が水を弾き、黄色い声が響き渡り、肌色の女の子がはしゃぎ回る。
プールに集った彼女たちから、水しぶきが飛んでくる。楽しそうに押し合いへし合い、柔らかな身体を押し付け合っている。
「きゃっ!」
「もー、やったなー!!」
たまに、肩同士が触れ合って、意識していなかった友人を意識していたりする。
「あ、ご、ごめん……」
「う、ううん……こっちこそ……ごめん……」
あぁ、百合神よ、
このような素晴らしき天上の光景を
「…………」
俺が、その
肌、肌、肌!!
俺は、大量の肌色に包まれている。
ただいま、我が
異界――
全長、約600kmにも及ぶその洞窟は、『ラノヴァ海』と呼ばれる異界の海に半分
洞窟の入り口や天井の穴から差し込む太陽光によって、洞窟内の海水は真っ青に染まっている。
壁や天井に
薄暗い洞窟内。
星晶片が降り注ぎ、水面が照らされる度に、ロマンティックな光景を見せてくれる。
船上のプールも、星晶の破片でライトアップされていた。
その
当然、名誉百合民たる俺は『こうしちゃいられねぇ!!』と、ダイナミックにプールから脱出しようとしたが、人波に押し流されて今に至る(ヒイロくん惨敗シリーズ)。
「…………」
でも、先生から『意味がわからない。警備スタッフがいるので
「…………」
誰が持ち込んだんだろうか。
どでかいスピーカーから、甘いラブソングが垂れ流され、世はまさに大合コン時代!! みたいなノリである。
Aさんたちスタッフは、銀盆に
「…………」
「ごめんね、ヒイロくん」
白色のビキニを着込み、透けているパレオを腰に巻いた月檻は、俺の胸元にぴったりと密着していた。
「狭くて、動けないや」
ニコニコとしながら、楽しそうに、彼女は俺の胸に耳を当てる。
「ヒイロくんの心臓、元気だね」
「…………」
「お兄様、申し訳ありません」
黒色のビキニ姿のレイが、俺の左腕に抱き着いたままニコニコとする。
「一歩も動けません」
上から下まで、俺と融合(Hな意味ではない)したいのかと思うくらいにくっついてきており、このままいくと三条家の融合モンスターが
「…………」
さっきから、無言で、顔を伏せているラピスは俺の背に張り付いていた。
誰かに押される
彼女が着ている水着の胸元のひらひらが、俺の背に当たったり離れたり。
その度に、ラピスは恥ずかしそうに「ごめ……ごめん……」とささやいていた。
「…………」
俺は、死んだ目で、上空を仰いだ。
仰げば尊し……なんて言うが、仰いでも絶望しかない……俺は、どこを仰げば、尊さに辿り着けるんだろうか……本来、ココに立っているのは月檻の筈で……て言うか、もう、俺の中の男の子が暴走しちゃいそうだよ……。
三人の柔らかさを味わいながら、俺は、つーっと
たすけて……たすけて……(
泣きながら、救いを求める俺の前に、すーっと浮き輪が流れてくる。
「あら」
ド派手な水着を着た
「月檻桜とその取り巻き……おまけの奴隷。
こんなところで、なにをしてらっしゃ――」
「お嬢、連れてってくれ!!」
「えっ」
俺は、泣きながら、お嬢に手を伸ばす。
「俺もその船に乗せてってくれぇ!! 頼む!! 俺は!! 俺は、その
俺は、涙ながらに叫ぶ。
「俺を仲間に入れてくれ゛ェ!!」
「嫌ですわ(無慈悲)」
へへっ……お嬢には
気を取り直して、お嬢は、ストローの先で月檻を
「月檻桜!! 貴女、こんな
ぱちゃぱちゃと、一生懸命、バタ足をして。
くるくる回りながら、月檻と視界を合わせようとするお嬢は、ハァハァ言いながらストローを振り回す。
「まぁ……ハァハァ……わ、わたくしレベルになるとぉ? ま、毎日のように……ハァハァ……? ハァ……美しい女性からの縁談が……ハァハァ……山になって届――」
「ヒイロくんの胸筋すご~い」
「む、ムキーッ!! ちゃんと、人の話を聞きなさーい!!」
ムキーッって言った!!(あぁ、ムキーッって言ったな!)
ぜいぜい言いながら、くるくると回るお嬢は、全方向に向けて叫ぶ。
「貴女に決闘を申し込みますわー!!」
「え、私?」
見ず知らずの女の子が振り向き。
「え、なに、わたしに言った?」
また、知らない女の子が振り向いて。
「あれ、あたし? あたしと決闘? どういうこと?」
たったの一言で、
「つ、月檻、桜ぁ……!!」
く、来るか……?(ゴクリ)
「お、おぼえておきなさいー!!」
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!(お嬢ファン総立ち)
両手と両足で、必死にぱちゃぱちゃしながら、顔を真っ赤にしたお嬢は
やはり、プロの噛ませ役は違うな……彼女には、安定感がある……素晴らしい逸材だよ……主人公が相手をしていないにも関わらず敗北宣言をして逃げる……俺にはとても出来ない……いや、誰にも……コレは、お嬢にしか出来ないんだよ……(熱い語り)。
と、お嬢に癒やされてる場合じゃない。
いい加減、この状況をどうにかしなければ……
「れ、レイ?」
「はい?」
俺の腕に抱き着いて、甘えるように顔をスリスリしていた三条家のお嬢様は、ぱちくりと
「
「嫌です」
スピードアタッカーか、コイツ……?
「
未来予知能力者か、コイツ……?
「じゃ、じゃあ、ふたりで行こっか? ね? それで良い、ね? だから、一回、腕から手を離して、月檻に抱き着いてくれる?(
「桜さんよりもお兄様に甘えたいです。や、です」
『や』じゃないよ、お前、可愛いなクソが……って、桜さん……?
俺は、バッと、自分の口を手で覆う。
え……も、もしかして、キテる……? ふ、ふたりは、もう付き合ってる……? は、恥ずかしくて、俺を間に挟むことでしかやり取り出来ない系……?
震えながら、俺は、その可能性に辿り着く。
そ、そう言えば、
俺は、ニチャァと笑う。
勝ったな(ポジティブシンキング)。
「じゃあ、俺、
俺は、三人を引き離すようにして動き出し、全身が柔らかいままでちょっと歩いて、立ち止まるとまたピタッと俺に三人がくっつく。
「な、なんで、付いてくるのかな……?(半ギレ)」
「ヒイロくんが動くから」
「お兄様が動くから」
「ヒイロが動くから」
なら、死ねば良いんですか?(全ギレ)
俺は、冷静に、現状からの脱出方法を考える。
月檻たちを
「コレだけ混んでるプールなんだから、四人で動いてたらいつまで経っても抜け出せないだろ? 別に付いてくるのは良いから、ひとりずつプールから出ようぜ?」
「まぁ、そう言われてみれば」
「そうですね、一度、ひとりずつ出ましょうか」
「うん、わかった」
クククッ……バカどもがぁ……!! 俺は九鬼正宗をプールサイドに隠してきてるんだよ……出た瞬間に
「よし、じゃあ、分かれ――」
「三条燈色!」
俺は、勢いよく、顔を上げる。
スカートタイプの水着を着た
「さっき、プールって言ってたから、ココにいると思っ――」
「来るな、
俺は、必死の形相で叫んだ。
「来るなァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! 来るな、
「え、なに? なんで?」
そのまま、
「…………」
数十秒後、俺は、四方向から美少女に挟まれていた。
「な、なんで、こんな混んでるの……ちょっと、三条燈色! もっと、そっち行ってよ! さ、さっきから、身体当たってるじゃん!!」
「…………」
飛んで水に
「まぁ、いいや、三条燈色、あんたに話しておきたいことがある」
「まぁ、よくねぇよ……抱き着くな……離れろ……もう、ホントに……なんで、入ってくんだよ……俺を殺しに来たのか……優秀なヒットマンですね……すごいすごい……」
「なに、わけわかんないこと言ってんの? まぁ、いいや、逆にこの場所の方が都合良いからココで話すよ?」
「もう、好きにして(諦観)」
水音を立てながら、
彼女は、俺の耳にささやきかけて――
「……マジかよ」
俺は、驚きで目を見開いた。