ワンちゃん、ワンチャンス
暗がりから現れたのは、背中に大量の刃を背負った黒犬だった。
おい、マジかよ!? 人間じゃなくて魔物じゃねぇか!?
しかも、一匹ではない。
一、二、三、四……五!? ダンジョン内でも、ココまでの数、そうそうエンカウントしたりしないぞ!?
予想外の
「おっと」
「きゃっ!!」
硬直していた
壁を蹴って三角飛び、魔力強化した右腕のギプスで刃を叩き落とした。
抱えたお姉さんをカウンターの裏に隠す。刃を鳴らす音を聞き取り、
「頭、出さないで。カウンターの裏で、じっとしててください。
あぁ、あと」
俺は、彼女に微笑みかける。
「美しい恋人さんによろしく(二度目)。
混乱でウロウロしていた
「悪い、手伝ってくれ! 右腕が使えないから、
「な、なに言ってるの、貴方は逃げなさいよ! 狙いは私なんだから!
わ、私、貴方の敵よ!?」
「知らん。言ったろ、ひとりも死なせないって。
それに、お前からは可能性を感じる……美しい百合の可能性をな……であれば、お前は、俺が護るに
とっとと来い、ふたりでコイツら
「な、なんなのよ……貴方、本当に三条燈色……?」
飛びかかってきた
「ちょ、ちょちょちょちょっと!? ど、どどどどこ触ってるのよ!?」
「腰。
細いね。もうちょっとご飯食べたら」
「ふ、ふざけんな……し、死ね……!!」
顔を真っ赤にした彼女は、俺の顔を両手で押してくる。
「いだだだだ……こうしないと、お前を護りながら戦えないだろ……良いから、聞けって……制服の胸ポケットの裏に、
「せ、制服の裏って!? あ、あんたの胸元に手を入れろって言ってるの!?」
「別に、俺は男だから問題ないだろ?」
ぐいぐいと、俺を押しながら、
「お、男だから問題あるんでしょ!? ば、バカじゃないの!? わ、私、女の子とも付き合ったことないのに、男の胸元に手を入れるなんて……そ、そんな、アブノーマルなこと、で、出来るわけないから!!」
「まぁ、そこは我慢し――来るぞ」
闇の中、音もなく。
黒い犬たちが、滑るように襲いかかってくる。
ガジャガジャガジャガジャ!!
「正面は囮、右から飛んでくる刃が本命。
「あーもーっ!!」
パッと、
「うぐっ!」
その頭上を刃が
「……しっ!」
飛びかかってきた
真っ二つになった
正面の
ガジャガジャガジャ!!
「挟撃か」
「な、なんで、さっきから、あんた……アイツらの言葉、わかるの!?」
こう言うの自然と
俺は、
「きゃっ!
も、もっと、優しく抱き寄せてよ! ち、力! あんた、力、強いから怖い!」
「あ、ごめん、これくらい?」
力を弱めると、
「……んっ」
「えっ……な、なんで、今、ちょっとエロい声出したの……?(純粋な疑問)」
「あ、あんたが、思い切り腰掴むから!! お腹に力入れてたの!! 急に力抜くから!!
あ、あんた、デリカシーってものないの!? 男って、全員、そうなの!? 死んだら!?」
急に元気だな、この子……原作だと、ほとんど出番ないからアレだったけど、開発者のT○itterかなんかで『本当は、こういうキャラ設定なんですぅ』とか語られてたような気もするな……うろ覚えだけど……。
「おっと」
「わぷっ!」
俺は、
「ちょ、ちょっと!! ひ、人の顔、胸に押し付けんな!! に、匂い!! あんたの匂い、思い切り、吸い込んじゃったんだけど!?」
「ごめんごめん、次で終わらせるから。
『属性:光』、『生成:玉』、『操作:射出』、よろしく」
「も、もぉ……!」
「おーい、
コイツら、どんどん来てるぞー」
「な、撫でてないわよ! 不可抗力を
どんどんどんどん、
慌てふためく
「んっ……んっ、んっ……んっ……」
「いや、
「あ、あんたが、何回も――んっ――抱き寄せたり離したりするからぁ!! もっと、力加減――んっ――考えろぉ!!」
「
彼女は、頭を両手で押さえてしゃがみ込み――左右から同時に、四匹の
俺は、その中央で、手のひらを差し出した。
その手のひらの上に、最大限の魔力を
「船内ではお行儀よく……おすわり、しな」
俺は、口端を曲げる。
「
甲高い悲鳴を上げながら、
もがき苦しみながら、落下していく黒犬たちへと
ドドドッ――!!
同時に、三本の矢が
絶命した黒犬たちは地面に落ちていき、俺は落下する一匹の死骸から
「きゃぁああああああああああああああああああああああああああ!!」
生き残った残りの一匹が、
どさっと、音を立てて、
俺は、満足して、その結果を見つめる。
柵を弾いた矢を視て思いついた応用……わざわざ、
安定性は低いかもしれないが、
「
顔を守るように、両手をクロスさせて。
「ひっ!」
目の前に転がる黒犬を視て、彼女は思い切り後ずさる。ぴょんっと跳んで、俺に抱き着いてくる。
「……し、死んだの?」
「あぁ。ほら、消えるぞ」
魔力を失った魔物は、現界で形を留めることが出来なくなる。
「…………」
しかし、おかしい。
本来、魔物が出現するのは、ダンジョンに限定されている。
第二寄港地は、安全性が確立されている観光地で、一匹足りとも魔物が出現する余地はない筈だ。
異界に入ったからと言って、魔物が船内に入り込む可能性は0に等しい。
それに、あの魔物たちは、
基本的に、魔物は人間の命令を聞いたりはしない。
例外があるとすれば、魔人と契約を結んだ高位の
高位の眷属が召喚出来る魔物は、魔人の下に付いている部下のようなもので、魔人への忠誠心から人間如きの命令も受け付ける。
ただ、もうひとつ、可能性がある。
だが、それは……いや、有り得ない……有り得ないが……その時は……俺が……どうにかするしかない……。
「ね、ねぇ」
「あの……助けてくれてありがと……ホントにめちゃくちゃ強いのね、あんた……なんで、アルスハリヤ様の忠実な
「……船内に、他に仲間はいないのか?」
「いない。いない、けど」
けど、ね。
後は、3日目のお楽しみってところか。
「悪いが、お前をこのままにはしておけない。狙われてるしな。
色々と不都合はあるだろうが、俺の監視下に置かせてもらう」
「わ、わかってる……失敗しちゃったし……殺されなかっただけ、ラッキーとでも思っとく……」
「よし、じゃあ、行くか。
って、いつまで、俺に抱き着いてんの?」
涙目の
「ご、ごめ……さ、さっきので、腰……抜けちゃったみたい……あ、歩けないかも……」
へなへなと、足に力が入っておらず、
俺は、ため息を
「きゃっ!」
「我慢しろ。お互いにな」
このレクリエーション合宿、なにかと、お姫様抱っこばかりしてるな。右腕ギプス状態で、やることになるとは思わなかったが。
そんなことを思いつつ、俺は、彼女を医務室に連れて行こうとして――ばったりと、月檻たちと鉢合わせする。
「…………」
「「「…………」」」
「…………」
「「「…………」」」
俺は、すっと、その脇を通り抜けようとして――
「ヒイロくんが、お酒で酔わせた女の子をお持ち帰ろうとしてる……」
「そうです(好感度ダウンチャレンジ)」
「ち、違う! 三条燈色は、私を助けてく――わぷっ!」
俺は、満面の笑みで、下ろした
「しーっ……そうだ、静かに……
「むー!! むー、むー、むー!!」
俺は、ニコニコとしながら、三人を見つめる。
偉大なる百合の神よ、我が好感度を下げたまえ……下げたまえ……下げろ……下げないと、○すぞ……(
「ひ、ヒイロ……」
「お兄様、そんな……」
良いよぉ!! 良い感じ良い感じ良い感じぃ!! もっともっともっとぉ!!
「その子を助けるために、また無茶したんだ……ばか……ギプス、ボロボロになってるし……船内に入ったら、魔物の呻き声も聞こえてきてたんだから……」
「お兄様は、いつも、誰かを護るために戦ってるんですね(キラキラお目々)」
はいはい! はいはい、わかってたわかってた! はいはいはいはい、わかってたわかってたァ!!(強がり手拍子)
「
「で、出くわしたヒイロくんが盾になったって図式ね。
もっと、ヒイロくん、からかいたかったのに……ネタバレが早すぎ」
「お兄様が、そんなことするわけがありません」
「
「違う(断言)」
俺は、ちょっと顔を上げて、死んだ目で宙空を見つめる。
水着姿の三人に囲まれて、膝をついた俺は呆然とする。
「じゃ、ヒイロくん」
月檻は、俺に微笑みかける。
「その子を医務室に連れて行ったら……プール、だからね?」
トドメの