船内案内
総勢、152名の生徒たちを乗せて、
約15ノット(時速27.78km)で海を走る豪華客船は、やはりデカイ船だけあって安定感がある。クルーズ客船は横揺れを
AからEクラスに分かれた俺たちは、
「で、では、ごほえっ!! おええっ!! おえっ!! ええっ!!
ということですので……お願いします!」
どういうことですか(困惑)。
初めてのお泊りの引率……初心者マーク付きの先生に、緊張するなと言っても無理だろう。
顔を真っ青にしたマリーナ先生は、身体をブルブルと震わせており、安定している筈の船上で揺れていた。
そんな先生の前に、すっと、女性が出てくる。
「では、皆様、ご注目ください」
黒のズボンに白ワイシャツ、チョッキを着ているスタッフ。
ブロンドのショート・ヘアをなびかせた彼女は微笑む。
「3日に渡る船旅の間、Aクラスの皆様の専属スタッフを勤めさせて頂きます『
カジノで引いたカードのように、一期一会の精神で、気軽にお呼びお申し付けください」
深々と頭を下げた彼女は、白手袋を着けた手で行き先を示した。
「先程、マリーナ様からご説明がありました通り、まずは、クイーン・ウォッチの船内案内をさせて頂きます。
その後、皆様の
どうやら、他のクラスと順繰りで、広い船内を回るようになっているらしい。
俺たちは、Eクラスとすれ違うようにして、彼女に続き船の中へと下りていく。
「クイーン・ウォッチのデッキは、4から14まで存在しております。デッキ・プランは、後ほど、
「「…………」」
俺と月檻は、顔を寄せ合う。
「……ヒイロくん、なに、デッキって?」
「……いや、たぶん、遊○王だとは思うんだ。そこまでは掴めてる。M○Gでもポ○カでもなく、遊○王だとは思うんだ」
「コレだから庶民は!!」
ド派手な
「デッキとは、
だからこそ、デッキ・プラン……つまり、船内案内が必要になりますのよ!」
「なるほどぉ! さすが、お嬢だぁ!」
「オーホッホッホ! わたくしレベルになりますと、このくらいは知っていて当たり前ですわぁ!」
「……なんか、ヒイロくん、この子に甘くない?」
俺たちは、Aさんに連れられて、
Aさんが開いた
恐ろしいことに、この豪華客船、船内にエレベーターがある。
各デッキには、
例えば、ダイヤ・デッキにはバーやナイトクラブがある。
最上層のタンザナイト・デッキには、屋外ジャグジー、ミニ・ゴルフ。その下のベニトアイト・デッキには、プール、更衣室にサウナ、大浴場、シアタールーム、フィットネス・センターが存在する。
中腹のサファイア・デッキには、バルコニーにプール・ジャグジー、屋外レストラン『ライト・アテンダント』、パンと軽食が食べられる『スウィート・ランデブー』にアイスクリーム・バーにカフェ。
目が!! 目が回る!!
とてもじゃないが、この3日間で、
デッキ8から12は
グランド・ファミリー・スイートルームとか、最早、意味がわからない。
パンフレットから部屋の設備情報を視てみたが、ココは本当に船の上かと思うくらいの充実具合だった(当然のように、部屋専属のメイド・サービスがあるってどういうことだよ)。
本来であれば、泊まれる部屋の
なにせ、今回、我々は
百合ゲーはね……女の子同士が同じベッドで眠って、朝、ふたりが寄り添って朝日に包まれるイベントCGがあればある程良いんだよ……。
もちろん、俺は、月檻やお嬢と同じ部屋に泊まる気はない。
男連中は、例年、部屋から叩き出されるので、彼ら専用の部屋が用意されているらしい。
俺は、そこに泊まるつもりだ。
そんなことを考えているうちに、船内案内も殆ど終了しており、最後に俺たちは船底へと連れて行かれる。
そこには、無骨なエンジンルームがあった。
用途のわからない機器が、所狭しと並ぶ空間。
なぜわざわざ、こんなところに連れてきたんだと
「こちらが、このクイーン・ウォッチの心臓部……
どこからともなく、
無表情の彼女らは、円形の大扉をふたりがかりで開き――瞬間、膨大な魔力が吹き付ける。
俺と月檻は、同時に
のほほんとしていたお嬢は、俺たちの反応を視てあわあわと首飾りを構える。
「ご安心ください。
ただの魔力の渦です。各種機器で完璧に制御されており、エンジンルーム外部に存在する
「……爆発?」
ささやいた月檻を
Aさんは、生徒たちを引き連れて大扉をくぐり抜ける。
広大な空間。
異様だ。あの狭苦しい船底のサイズより、どう考えても大きい。
真っ白な広々とした空間の中央に、蒼白く光り輝きながら、ゆっくりと回り続ける巨大な円柱が存在していた。その円柱には、複雑怪奇な導線が引かれており、瞳のように大きな
天井から床まで、一本、貫いている円柱。
その異常な太さと大きさ。
圧倒された俺たちは、ただ、その巨柱を見上げる。
「この『女王の瞳柱』こそが、我がクイーン・ウォッチの誇る
この船の駆動部を一手に引き受けるエネルギーの
天井から壁、床にまで、響き渡る声でAさんはささやく。
「普段は、厳重に
その
ざわつく生徒たちに向かって、Aさんは、丁寧に頭を下げる。
「お嬢様たちにお願い申し上げます。
どうか、このエンジンルーム付近にはお近づきにならぬように。もし、誤って近づいたとしても、決して魔力を流し込むことがありませんように」
「な、流し込んだらどうなるのかしら?」
俺と月檻の後ろに隠れたお嬢は、びくつきながら、円柱を見上げる。
Aさんは、くすりと笑った。
「魔力が
ただ、この部屋の内部には、幾重にも対魔障壁が張られておりますので、その爆発によって船が沈むことはありませんし『女王の瞳柱』が壊れることはありません。
ただ、魔力を流し込んだ当本人が爆発によって粉々になるだけです」
意味深に言ってますが、コレ、別に爆発したりはしません(ネタバレ)。
原作ゲームでもこの
たぶん、プレイヤーに危機感を与えたかったんだろうが、主人公が爆発を視るってことは、主人公ごと爆発してるってことだからね。爆発させられるわけないね。
百聞は一見にしかず。
この脅しは、かなり効き目があったらしい。クラスメイトたちは顔色を悪くして、エンジンルームを避けるように最上層へと戻っていった。
ようやく、お日様の下に戻ってくる。
エンジンルームの説明で、ビビりすぎて腰を抜かしたマリーナ先生は、Aさんにお姫様抱っこされて(A✕マリ、ありだな……)帰還を果たす。
「で、では、お部屋の鍵を配布します!
い、一班から、順に
程なく、五班の順番がやって来る。
当然のように、我が道を行くお嬢を先頭に、俺たちは
「貴方は、出ていきなさい!!」
秒で、部屋から追放された。
作戦通り(ニチャァ)。
廊下で荷物をまとめた俺は、ウキウキで、男部屋へと行くことにした。
数歩、歩いて。
待ち構えていたかのように、別の
「お兄様、もしかして、部屋を追い出されたのですか……?」
妹様、もしかして、俺が部屋を追い出されるのを待ってましたか……?
「もし、よろしければ」
髪を耳にかけて、
「私たちの部屋に来ませんか……あの……もうひとりの班員の方も、とても話しやすい方で……きちんと、事情を説明すれば、問題ないかと……」
「いや、でも、ベッドは三つしかないよね?」
「ツインベッドなので……大丈夫かと……」
男と女が同じベッドで目を覚ますって、なにがどう面白いんじゃゴラァッ!!(強気)
「いや、でも、年頃の男女が
「兄妹なのに、なにを意識してるんですか(天下無双)」
くぅん……(弱気)
俺は、無言で、後ろに下がり――ぶつかる。
月檻が、ぎゅっと、俺の肩を掴んでいた。
「悪いけど、レイ、ヒイロくんはわたしと同じ
ヒイロくんが、別の部屋に行くなら、わたしも一緒に行く」
微笑んだレイは、優しく、俺の手を取る。
「お兄様と初めての旅行なんですから
「ダメ。ひとりで寂しくUN○ってて」
ソロのUN○とか、最早、刑罰だろ……。
わーわー言い合いながらも、なぜか、ふたりからはギスギスした感じがしない。
なんか、微妙に、コイツら距離が縮まってるような……嬉しいけど、なんで……?
「じゃあ、三人で泊まる?」
「致し方ありませんね」
えっ。
普段であれば、いがみ合う筈のふたりは、息を合わせて両脇から俺を挟み込む。
「では、先生に事情を話して、部屋をひとつ用意してもらいましょうか」
「うん、良いね」
がっちりと挟まれて、キャトルミューティレーションされつつある俺は、驚愕でひとつの答えに辿り着く。
コイツら、
気づいたものの。時、既に遅し。
絶望の面持ちで引きずられる俺は「たすけて……たすけて……」とか細い声でささやき、その声は百合の神に届いた。
「あ、あれぇ~!? ヒイロ、なにしてるのぉ~!?」
正面からやって来たラピスは、ふたりの間に身体をねじ込ませる。
スペースが出来て、俺は、そこから一気に脱した。
「さっき、オフィーリアさんが呼んでたよぉ~!? たぶん、部屋に戻ってきて良いってことじゃないかなぁ~!?」
ラピスさん!! ラピスさぁん!!(観客総立ち、全俺号泣)
「オーケー、サンキュー!!(ダッシュ)」
俺は、五班の
「もう! さっきから、な――ひいっ!?」
「泊めてください(土下座)」
俺は、綺麗な姿勢で頭を下げる。
「泊めてください(脅迫)」
「わ、わかりましたわよ! あ、頭をお上げなさい! しようがありませんわね!」
勢いに押されたお嬢から、宿泊権を手に入れて。
『ただいまより、第一寄港地にて、AからEクラス合同でのレクリエーション・イベントを行います。
部屋の確認が終了次第、ダイヤ・デッキにまでお集まりください』
最初のイベント・アナウンスが流れた。