仁義なき女の戦い
鳳嬢魔法学園、
普通の高校の体育館の数倍はある広さ、三段の観客席が設置されており、場内の魔術演算子量を調節可能……積もり積もった献金で、拡充を図られ続けたその場所には、
この世界の端末は、
通信用の
コレらの処理をこなしているのは、
端的に言えば、ソレは、魔法演算に特化した演算器みたいなものだ。
この演算器は、三条家・別邸にも設置されており、塀に
特殊な
基本的に、
屋内であるにも関わらず、砂場を生み出したり海水で満たしたり、重力さえも制御・変更出来るので……
そんな
三寮それぞれに小規模のものが3つ、学園の敷地内に大規模のものが3つ。
教員の許可と適正なスコアさえあれば、
学園生であれば立ち入り自体は禁じられていないため、たまに行われる訓練試合等の場合は、スコア0の俺でも入場を許されている。
と言うわけで、俺とラピスは、並んで中央の
俺の眼下。
制服姿のレイは、銀色の槍を回転させて脇で止める。
「
その美しい立ち姿に、顔を赤くした女子の集団が黄色い歓声を上げる。
あの三条家のご令嬢が、鳳嬢魔法学園に入った……そんな噂が何度も耳に入ってきて、徐々にその話は熱を帯びていった。
学園入学から数日で、レイはその類まれなる容姿も相まって、大量のファンを獲得していたらしい。隠し撮りされた
対して、三条家の御曹司ことヒイロくんは、学園中の女子たちに
さて、決闘を挑まれた月檻はと言えば。
「なんでも良いよ。
あなたが勝ちやすい方にすれば?」
余裕綽々で、
女の子たちは、熱っぽい視線を月檻に注いでいた。
瞳を
公言は出来ないんだろうが、月檻に対して、恋愛感情に近い好意を抱いていることは明白だった。たぶん、天然ジゴロの主人公様が、無意識に落としてきた女の子たちだろう。
「ヒイロ、
俺の周囲の席はガラ空きだ。
その異変に気づいていても
「決闘……もとい、訓練試合って言っても、普通に
だから、事前に、明確な勝ち負けの
「その
「そういうことだ。
「つまり、三回、相手に魔法を当てればいいのね?」
「イエス。勝利条件以外は、基本的になんでもあり。
相手がギブアップしたり負けを認めたりすれば、その時点でも試合終了、降参した方の敗北になる」
興味深そうに頷いていたラピスは、ちらりと俺を
「
「…………」
正直、止めるかどうかは、迷ったんだよな。
ゲームであれば。
オリエンテーション合宿の
つまるところ、月檻は俺と噛ませお嬢の好感度を最も稼いでいたわけだ。それは、俺にとっては予想外、どころか吐きそうなくらいに都合が悪い。
俺をOUTしてラピスかレイをIN、もしくは俺とお嬢をOUTしてラピスとレイをINが最も良い流れの筈だ。メインヒロインふたりと同じ
このままいくと、最悪、月檻とヒロインたちの接触時期が遅れる可能性がある。
本来であれば、この『決闘イベント』は、ラピスとの間で発生するものだ。
ココで、月檻桜に敗れたラピスは、彼女に固執するようになる。最初は険悪な雰囲気ではあるものの、彼女らはゆっくりとお互いに好意を抱いていく。
だから、正直、レイが月檻に決闘を挑むのは予想外だった。
でも、コレはチャンスでもある……月檻とヒロインとの間のイベント、それはふたりの繋がりとなり、未来の百合へと通じている道になるだろう。
だからこそ、俺は、ふたりを止めない。
俺は、この因縁が、明るい希望へと変わることを信じる!!
「私が勝ったら」
ヒュンヒュンと。
風切り音を鳴らしながら、自在に槍を振り回したレイは微笑を浮かべる。
「二度と、お兄様に近づかないでください。
つまるところ、オリエンテーション合宿の
「あぁ、あなた、ヒイロくんの妹か」
「でも、弱いね。基礎能力は高いのかもしれないけど……お座敷遊びみたいな鍛錬しかして来てないでしょ? 実戦も未経験? 大好きなお兄ちゃんを取られそうになって、慌てて
目にも留まらぬ速さ。
レイは、
「不快です……お兄様は、貴女如きが近寄って良い存在ではありません」
「ヒイロくん」
月檻は、客席の俺に手を振る。
「妹さん、たぶん、泣いちゃうけど大丈夫?」
「ダメだ。
泣かせたら、俺が泣くぞ。すぐ、泣くぞ。絶対、泣くぞ。ほら、泣くぞ」
「それは困るな」
月檻は、綺麗な髪を掻き上げる。
「ヒイロくんには、いつも笑ってて欲しいから」
なんで、コイツ、直ぐに人を落とそうとしてくるの……?
気配。
隣を視ると、ラピスは、面妖な面持ちで俺を見つめていた。
「なんで、あんなに月檻桜に好かれてるの……? 婚約者いるんだよね、ああいうの放置してても良いの……?」
「アイツ、予測がつかないから、婚約者の存在を明かすタイミング
「えっ……れ、レイには、自分の口からもう言ってるよね……?」
「まだ。スノウとタイミングを図ってる」
「…………」
「…………」
「…………」
「……なに、さっきの『えっ』て?」
俺は、不自然に目を
「おい、なんだ、お前、その不穏な顔つきは……なぜ、目を逸らす……こっちを視なさい……怒らないから……怒らないから、なにを仕出かしたのか、ちゃんと言いなさい……」
「……った」
「なんて?」
申し訳無さそうに、顔を
「れ、レイに言っちゃった……ヒイロに婚約者がいること……」
俺は、膝から崩れ落ちる。
喉から、くぐもったうめき声が漏れた。
「お、俺の妹は……なんて……?」
「笑いながら『そうですか』って……目は笑ってなかったけど……」
えへ、えへん、えほっ、ほほ、えへへへぇ(泣き声)
「ご、ごめんね、ヒイロ……だって、ヒイロの家族だし……婚約したなら、まず最初に報告してるかなと思って……もうレイは知ってると思い込んで、色々と相談しちゃった……ホントにごめんね……泣かないで……」
「泣いてないよ(号泣)」
「な、泣いてる……」
ラピスに慰められている俺を
中央の
「お兄様には、婚約者がいらっしゃるんですよ」
あぁ、本当に知ってるぅ!!
「知ってる」
なんで、月檻まで知ってんだ!?
俺は、バッと、振り返る。
背中を丸めて、必死に縮こまっているラピスにささやきかけた。
「ら、ラピス……お前、まさか……?」
「だ、だって、月檻桜がヒイロにちょっかいかけるから……婚約者のいる人にそう言う迫り方したらダメだって……あの、説教、しちゃって……あ、アイツ、聞く耳持たなかったけど……」
「…………(走馬灯)」
俺は、今にも泣きそうな顔で、謝り続けるラピスに微笑みかける。
「良いんだ、俺の危機管理が悪かった。お前に『誰にも言わないでくれ』なんて、一言も言ってなかったしな。
大丈夫だ、まだ、どうにかな――」
「お兄様が、私に何の相談もせずに婚約者なんて作るわけがありません。
貴女が、お兄様をそそのかして、嘘を語らせたのでしょう?」
「あぁ、それ、わたしがあなたに言いたかったセリフだ。
ヒイロくんを取られそうになって、慌てて浅知恵働かせちゃったんだ?」
ぁあ~^^ とっても、まじゅい~^^
ふたりの殺意が高まり、互いに、
「構えなさい。
お兄様に代わって、貴女を成敗いたします」
「良いよ、ブラコンの矯正、手伝ってあげるから」
「悪い。やっぱ、止めるわ」
「えっ!? ちょっと、ヒイロ!?」
俺は、二人の間、