僕と幼馴染
小説祭り純愛編参加作品一覧
作者:靉靆
作品:白への思い出(http://ncode.syosetu.com/n1608bl/)
作者:立花詩歌
作品:彼と彼女の有限時間(http://ncode.syosetu.com/n1556bl/)
作者:射川弓紀
作品:僕と私の片思い(http://ncode.syosetu.com/n1365bl/)
作者:なめこ(かかし)
作品:ちいさな花火(http://ncode.syosetu.com/n1285bl/)
作者:一葉楓
作品:わたしときみと、芝生のふかふか(http://ncode.syosetu.com/n0273bl/)
作者:失格人間
作品:僕と幼馴染(http://ncode.syosetu.com/n1374bl/)
作者:三河 悟
作品:天国の扉~とある少年の話~(http://ncode.syosetu.com/n1488bl/)
作品:天国の扉~とある少女の話~(http://ncode.syosetu.com/n1490bl/ )
作者:葉二
作品:ハンバーグに砂糖を入れてはいけません!(http://ncode.syosetu.com/n1534bl/)
作者:コンフェクト
作品:ぼくとむらかみさん(http://ncode.syosetu.com/n1571bl/)
作者:えいきゅうの変人
作品:魔王を勇者は救えるか(http://ncode.syosetu.com/n1580bl/)
作品:恋の始まりの物語…?(http://ncode.syosetu.com/n1579bl/)
作者:一旦停止
作品:神様って恋するの?(http://ncode.syosetu.com/n1581bl/)
幼馴染と疎遠になったのはいつからだろう。
小学校。男女の差とかは全然気にせず、ただ仲良く遊んでいた。
中学校。急に冷たくなり、僕もそれをそういうものだと受け入れた。実際、自分も変に意識してしまっていた気がする。結局学校は別々になった。彼女は私立、僕は近所の公立。話す機会は一気に減った。
高等学校。再び別の学校に行った(彼女の学校は中高一貫だった)彼女には彼氏ができたらしい。本人が僕の目の前で言ってきた。彼氏がいるから話しかけるなとやらなんやら言われた気がするが、正直どうでも良かった。だからあまり詳しくは覚えていない。
大学受験が始まって、頭が志望校と将来の夢で一杯になると僕の部屋から彼女の存在は消え、そこに参考書と問題集が積み上げられた。
風化していく記憶になんら疑問は持たなかったし、寂しさも感じなかった。ただ、幼馴染とはそう云うもの、と割り切っていたのだと思う。
彼女が彼であったなら、一緒に大学を目指したり、高校生活で一緒に馬鹿をやったりできたのだろうが、有り得もしないことを言ってもしょうがないだろう。
彼女の存在が完全に消えても、漫画やドラマのように、空虚感に襲われることなどなかった―――すぐに違うもので埋まった。
息苦しい大学受験が終わり、僕は無事に第一志望に合格することができた。
いよいよ独り暮らし。結局学生寮に住み、そこで勉学に励んだ。4畳半の部屋は、独りで過ごすのに心地よい広さだった。狭くもなく、広過ぎでもない。余計な隙間ができないし、物が溢れることもない。
大学生活が始まってから1週間後、僕は意外な人物と再会を果たす。
「は、はは…久しぶり…」
幼馴染だった。
学科も学部も違うため、入学式では気付かなかったようだ。しかし僕にとって一番驚きだったのは彼女から僕に話しかけて来たことだった。一時は目が合うだけで睨まれる時期もあったというのに。
バスの中で一方的に聞かされた話によるとどうやら僕と同じ大学を目指していたらしい。僕は一方的に話しかけてくる彼女にどう接していいかわからず、適当に”ああ”やら”うん”やら、素っ気ない返事を返した。
バス停が近づき、彼女が下りる。僕はそのままバスに残った。同じバス停だったからだ。
僕は朝刊のチラシで見たセールの情報を手繰り寄せると、MP3プレーヤーのスイッチを入れた。
正直、何も考えたくなたった。
あの日以来、彼女とは大学で会うことが多くなった。カフェテリア、図書室、グラウンド、エトセトラ。偶然なのか彼女が意図しての行動なのかはわからなかったし、どうでも良かった。ただ、何となくそこには行きづらくなった。
今更、どんな顔して合えばいいんだ。
悪い事をした訳では無かったのに、何か後ろめたかった。
会う機会が増え、次第に昼飯を一緒に食べるような仲になった、そんなある日。
「ねぇ…ルームシェア、しない?」
曰く、電気代やら水道代やらが浮くそうだ。特に断る理由も無かったし、向こうがそれが良いというのならそれでよかった。幼馴染ということもあって信頼も置けた。
そんなこんなで始まったルームシェアだったが、特に問題もなく生活できた。互いの生活サイクルは子供のころからのそれ―――お互いが知っているものとさほど変わらなかったからだ。結局、何も変わっちゃいなかった。
そんな生活も早6か月。今は雪降る12月。窓の外は移動性低気圧がもたらした豪雪で真っ白になっている。
「ねぇー、ごはんまだー?」
幼馴染が居間の炬燵から僕を呼ぶ、今夜は鍋だ。暖も取れるし、栄養も取れる。
鍋つかみで鍋を挟み、卓上のカセットコンロの上に持っていく。換気扇をつけて充分な換気を確認し、カセットコンロの火をつけると青白い炎に当てられて鍋の中身が煮立った。僕は炬燵に足を入れ、手を合わせる。
「「いただきます」」
声が重なる。黙々と鍋の中身を掬い、自分の器に盛る。
「あ、そのつみれ、私が狙ってたのに~!」
「…あげようか?」
「え、あ…うん。」
汁が滴らないように気をつけながら彼女の器につみれを入れてやる。彼女は暫らくじっとそれを見つめ、徐に口に入れた。複雑そうな表情を浮かべている。
鍋はあっという間に空になり、幼馴染は何処から手繰り寄せたのか知れぬテレビのリモコンを手にお笑い番組を見ていた。僕は冷えた鍋を持って台所に向う。
「ん? あっ!」
僕が鍋の底の焦げ目と格闘していると幼馴染が慌てて駆け寄ってくる。そしていそいそと僕の隣で真似する様にして洗い物を始めた。少し狭く感じたが、幼馴染が楽しそうなので放って置いた。
変な奴だな。
洗い物が終わり、食器と鍋を立てかける。乾いたら仕舞う事にしよう。
幼馴染が一緒にテレビを見ようよ、と言ってきたが課題が終わっていなかったのでそちらを優先させた。膨れっ面で炬燵の向いに座っていた幼馴染だったが、そのうち雰囲気に推されるようにして自分も勉強を開始していた。殆ど手は動いていないが。
キーボードの、カタカタという音が響く。向かいでは幼馴染が早くも勉強を諦め、ボーっとこちらを見ていた。無視してレポートに取り掛かる。
暫らくすると、退屈を持て余したのか幼馴染が話しかけてきた。
「ねぇ?」
「?」
「何のれぽーと?」
『マイクロバーストの発生メカニズムと気象条件についての考察』がタイトルなのだが、文系の彼女に説明するのが面倒くさい。
「…風についての研究。」
要約話した。
「ふー…ん」
興味無さそうに突っ伏す幼馴染。なら最初から聞くな。
暫らく机に突っ伏し何かを悩んでいたが、ゆっくり上体を起こすと仰け反って天井を見上げた。
「…ごめんね」
唐突に謝罪された。
「…何が?」
「あのね…高校生の頃、彼氏が出来たって言ったの、」
「ああ、あったな、そんなこと」
タイプ速度は変わらない。『まとめ』に手を付け始める。
「あれ、嘘なの」
「へぇ」
どうでもいい、興味無い、僕には関係無い。高校の時から、この姿勢は変わらない。嘘だろうが知ったこっちゃ無い。
「本当はね、振り向いて欲しかったの」
「へぇ」
タイプする手は止まらない。
「―――貴方に」
「…へ?」
レポートの『停滞前線』が『手痛い宣戦』になった。だがそれよりも、こいつは今何て…?
「振り向いて欲しかったの。気にかけて欲しかったの。嫉妬して欲しかったの。」
「…いつから?」
「何となく中学生の頃から意識し始めちゃって、気付いたら止まらなくて―――それでも素直に」
幼馴染は話す、まるで懺悔するように―――
「『好き』って、言えなくて。」
―――告白、するように。
完全に思考が止まる。頭が真っ白になった。こいつは今僕を『好き』と!?
レポートの内容なんて、消し飛んでいた。
「ねぇ、聞いて。」
「…あぁ。」
喉が渇く。動悸が早まる。耳鳴りがする。三半規管が狂う。
「結婚を前提に、私と付き合って下さい。」
変わらなきゃ、いけなかったのだろう。
最初は小さな気持ちだった。
気付いたらいつも『彼』は私の視界の隅にいた。
気付いたら私の頭の中に『彼』のスペースが出来ていた。
気付いたら、『彼』を―――
―――好きに、なっていた。
だけど『彼』は振り向いてくれなかった。…いや、これは私のせいだ。
勝手に好きになって、勝手にヤキモキして、当たる様に接していたら、距離なんて離れるに決まっている。
だけどここまで来れた。『彼』を追って、難しいと言われた同じ大学に入って、彼と話して、距離を縮めて。
だから、あともう一歩。
意を決した私は懺悔と謝罪と想いを胸に―――
―――『彼』に、告白した。
何て応えれば良いのだろうか。
先程の衝撃的告白の後、幼馴染は顔を茹蛸のように真っ赤にし、何故か泣き出すと、さながら岩屋に隠れた天照大君の如く閉じこもってしまった。
呆然となったまま、僕はパソコンの電源を落とすと、フラフラと風呂場に向った。上書き保存を忘れていたことに気付いたが、どうでもよかった。
そこから今に至るまでの記憶はぼんやりしていて余りはっきりと思い出せない。気付いたら布団の中で蹲っていた。
頭の中がモヤモヤする。胸焼けにも似た不快感が襲う。
布団から頭だけ出して、深呼吸した。部屋の中の冷たい空気が肺を突き刺す。
『好き』…か…。
考えても見なかった。幼馴染とは親友のような、兄弟のような関係でずっといる物だと思っていた。マンガや小説みたいに幼馴染が恋愛対象になるなんて、想像だにしていなかった。
布団に包まりながら寝返りを打つ。
今の、幼馴染に告白された僕は、彼女とこれからも一緒に居られるのだろうか?
いや、無理に決まっている。
結局、一番子供だったのは僕だった。子供は勝手に大人になる。嫌でもなってしまう。
そして、気持ちを隠していたのは、きっと僕も同じだろう。
興味ないふりをして、クールを気取って―――恥ずかしいにも、程がある。
今ではすっかり思い出せないが、幼馴染が『彼氏が出来た』と言った時に僕は、心の底に燃え盛る嫉妬の炎を持っていたのだろう。
しかし、臭いものには蓋がされ、存在は忘れられた。
「謝るのは、僕の方だ…。」
呟きは、白い天井に吸い込まれ、帰ってくることは無かった。
翌朝。
食卓ではお互い一言も喋らずに朝食が無くなり、天気予報の音だけが響いていた。
幼馴染の目の下には隈ができ、目は真っ赤に腫れている。一晩中泣いていたのかもしれない。
無言のまま朝食を済ませ、大学へ行く支度をする。
居間でも、洗面所でも、玄関でも、結局一言も喋らなかった。
玄関で靴を履き、一足先に外に出る。雪が深々と降っていた。
僕は玄関外で幼馴染を待った。
5分、10分、15分。
…何かおかしい。
玄関のドアを開き、中に入ると幼馴染が靴を前にうつむいていた。見ると、少し震えている。
僕は歩み寄ると、幼馴染の手を取った―――手を繋ぐなんて、何年ぶりだろうか。
「えっ? えっ?」
顔を上げる幼馴染。目尻には涙が浮かんでいた。
「…これで、いいか?」
「…いいの?」
「何か問題が?」
「…ううん!」
そう言って、握り返してくる。それと同時に、堰を切ったように涙が溢れ出した。
「あ、あれ、おかしいな、えへへ、嬉しい、のに」
ボロボロとこぼれる涙を拭く幼馴染。僕はそっとハンカチを差し出す。
「えへへ、ありが、とう」
「どういたしまして」
そういえば昔、こいつ泣き虫だったな。そんな記憶が蘇る。
刺すような気温の中、僕の心は非常に温かかったのであった。
どうも、失格人間です。
今回は初めての純愛小説、と言うことで。
…むっちゃ苦労した…。
だけどあれです、2年後位に見直したら恥ずかしさの余りに卒倒するんでしょうね、きっと。
まぁ黒歴史にはならない…はず…。