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296.もうちょっと詳しく道作りの魔道具





「――もうちょっと詳しく聞きたい」


 一旦開拓地に戻ってきた後。


 ミリカは通常業務に戻る。

 魔術師じゃない彼女は、話がわからないので仕方ない。


 後ろ髪を引かれる思いで別行動となった。


 そしてクノンとレーシャは、開拓地の端の方へやってきた。


 だいぶ本題とずれてしまったが。


 昨日、クノンは道を作るための魔道具を開発した。

 その試行をする予定だったのだ。


 それにレーシャも同行した。


 もう少し詳しく話を聞きたい、と。


「ここで解ける疑問なら、ある程度は聞いて行かないと」


 クノンの「鏡眼」について。

 魔力溜まりについて。

 魔力溜まりに見える穴、ヒビ割れについて。


 より詳細を持っていくために、まだまだ情報が欲しい。


 あらゆる意味で、正しい判断を下すための情報だ。

 あればあるほどいい。


 中途半端な情報を持って帰っても怒られるだけだ。


「そうですね……」


 クノンは、木をくり抜いて作った筒を持って、悩む。


 筒を塞ぐ蓋に、細い突起がついている。


「レーシャ様は魔力溜まりには全然興味がなかったんですか?」


「あんまりなかったわね」


「ではざっくり重要な点だけ。


 魔力溜まりには大きく二種類に分けられます。

 原因がある魔力溜まりと、原因がわからない魔力溜まりと。


 そこから細分化されていきます。


 一言に魔力溜まりと言っても、結構種類があるみたいなんです。

 正確な判別方法は確立していないはずですけど、差異くらいはわかりますからね」


 見た目。

 色。

 温度に湿度。


 ありとあらゆる「違い」が、魔力溜まりの種類と言える。


「原因がわかっている方は、強い魔力を持った魔物の死骸が原因だったり、古代法具や神器……魔力を持つ何かが原因だったりするそうです」


「ドラゴンの屍が瘴気を生む、みたいな?」


「まさにそれだと思います。

 ちょっと話が脱線しますが、僕は瘴気も魔力溜まりの一種なんじゃないかと疑ってます。いつか確かめたいですね」


「ふうん……」


 答えを知らないレーシャは、否定も肯定もできない。


「僕らが今朝行った場所は、原因不明の方になりますね」


「まあ……原因はわかった気がするけど、原因の原因がわからないというか、ね」


 原因は、空間に穴が空いているから。

 しかし穴が空いた原因はわからない。


 どちらに分類するべきか。


「他には聖地や聖域という場所もあります。

 これも魔力溜まりの一つだと言われています。人に害のない魔力溜まり、ということで有名ですね」


「唯一、霊草が育つ地でもあるわよね」


「そうですね」


 ――今となっては唯一ではなくなったが、とクノンは思いつつ同意する。


 今のところ聖女レイエスしか栽培できない。

 彼女は自前で聖地・聖域を作っていて、そこで霊草シ・シルラなどを育てている。


 一応嘘は言っていない。


 例の光る種ならどこでも育てられるかも……という話もあるが。


 まあ、今はいいだろう。


「一説によると、聖地・聖域には神の祝福が掛けられているとか、神の骨が埋まっているとか言われています。

 真偽の程は確かではないので、これも原因不明と分類した方が近い気はしますね」


 筒の中に魔石を入れ、水を満たして蓋をし、これで準備完了だ。


「で……さっきは空間に穴が空いていたのよね?」

 

「はい。ヒビ割れというか、亀裂というか。そういうものがありました」


「じゃあ――ほかの魔力溜まりはそうじゃない可能性もある、というわけよね?」


 魔力溜まりの全てに穴が空いているのか、否か。


「可能性どころか、そうじゃないとしか思えません」


 魔力溜まりは全て同じではない。

 

 その最たる例外が、聖地・聖域である。


 あんな堂々とした例外があるのだ。

 絶対に、全部同じなんてありえないだろう。


 違う可能性どころか、という話である。


 ……まあ、確かめてみないと確かなことは言えないが。


「それにしても気になる話だわ。世界中の魔力溜まりをクノンが見たら、面白いことがわかりそうよね」


「そうですね」


 クノン自身、今朝、ついさっき知ったことである。

 興味がないわけがない。


 ――地面に筒を突き立て、蓋を押して水を地中に押し込む。


 と……その部分を中心にして、どろりと地面が溶けた。


「おっとと――すみません」


 急に地面がぬかるみ、靴が沈む。


 足を取られてよろめいたクノンを、レーシャが腕を掴んで引っ張り。

 ぬかるみから強引に引き抜いた。


「思ったより強力な感じになってました」


「地面を泥にする魔道具?」


「はい。この状態なら土を掘りやすいでしょう? で、今度は水の入ってない筒をこうやって刺して――」


 今度はぬかるみに筒を刺す、と……筒の中に沈んでいた蓋が戻ってくる。


 それに合わせて、ぬかるんでいた地面が乾燥し、固まる。


 周囲の地面と同化し。

 残ったのは、クノンの足跡だけだ。


 どうやら筒で水分を吸い取ったようだ。


「どうでしょう? これがあれば整地がやりやすいでしょう?」


 ゆるくなった地面を掘って。

 埋めて。

 固めて。


 これで楽に道が作れるわけだ。


「そうね。面白い魔道具ね」


 魔力溜まりの一件の方が目立っているが。

 この魔道具も悪くない。


 ただ、ちょっとかすんでしまっている感はあるが。


 比べる案件が大きすぎるのだ。


「でも魔力を持ってる人じゃないと使えないんだよなぁ……」


 それは魔道具の宿命である。





「――だいたいこんなところね」


 魔力溜まりの話から、「鏡眼」そのものの話まで。


 レーシャに聞かれるまま、クノンは答えた。


「本当に興味深い魔術だわ」


 特にレーシャが気になったのは、「鏡眼」で見る魔術師だ。


 背後に、あるいは周囲に何かがいる、らしい。


 その系統、カテゴライズなど、かなり気になる。


「――あ、やっぱりそうなんですか?」


 レーシャがクノンの話を信じた理由は、騎士ダリオだ。


 実は彼、光属性持ちだ。

 ただし一ツ星なのである。


 魔力量がかなり少ないせいで大した魔術が使えず。

 だから、魔術師としては早々に諦めたのだ。


 簡単な傷を癒す魔術と、照明くらいしか使えない。


 そして、滅多に使うことがないので、知らない者も多いのだ。


 優秀な騎士として立ち回る彼を見て、誰が魔術師だと疑うだろう。


 しかし、クノンはそれを言い当てた。


「――魔術学校に行って、いろんな魔術師を見てから、そういえばって思い返して。ダリオ様も魔術師に分類できるんだな、ってずっと思ってました。


 いつか確かめたかったけど、でも不躾に聞くのも紳士としてどうかと……」


 そう思っていたらしい、が。


 ここでレーシャが言ってしまった。

 ダリオはどう見えるか、と。


 彼の背中には大剣があるらしい。


 白、光、物質。

 光属性はこういう感じのものが見えるのだとか。


「魔力溜まりの話も気になるけど、『鏡眼』も同じくらい気になる」


「おや。素敵なレディが僕に興味を?」


「正直かなりある。持って帰っていい?」


「残念ながら、僕を持って帰っていいのはミリカ様だけなんです」

 

 ――本当に残念だな、とレーシャは思った。





 そんな話をして。

 昼食を取った後、レーシャはヒューグリア王城へと飛んだ。





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