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「なにごとですか? 」
気絶している大和を肩に抱える大之助に由希は問う。
「あまりにしつこいから力づくで黙らせた。 いくつになっても駄々をこねるんだから」
ため息をこぼした大之助は口を開くとかあと鳴いた。 まさか猫又である大之助がカラスの鳴き声をこぼすとは思わず驚く由希を横目に三つカラスがやってくる。
姿を人のように変えた三つカラスが大和を受け取った。
「しばらく実家に縛りつけとけ。 また目が覚めて暴れたら力づくで黙らせていいから」
大之助の言葉にいつもの低い声でかぁと鳴いた三つカラスが大和を抱えて出ていく。 それを見送った大之助は昂輝の背を押す。
「いつまでもその恰好だったら風邪をひく。 もう一度、風呂に入ってこい」
「はい、入ってきます」
と同時にくしゃみをこぼした昂輝は寒いと己の体を抱いて、由希の腕を引いていく。
「えっとなんですか? 」
「てめぇも巻き添えだ。 一緒に風呂に入るぞ」
由希が反論する前に風呂場まで連れていかれた。 有無を言わさず風呂へと放りこまれた由希は仕方なく、湯船に体を沈めた。 つめろと言われ端によけた由希と一緒に湯船へと体を沈める昂輝。
「悪かったな。 あいつが駄々をこねやがって」
「なんの話をしていたのか…… 聞いてもいいですか? 」
「あ? ただ母さんの墓参りに行こうとしてたらあいつが一緒に行くと駄々をこねたんだ。 毎年毎年、駄々をこねやがって…… あいつは連れていけないと言い聞かせても納得しやしねぇ」
「墓参り? 」
そこからかと昂輝はため息をこぼした。
昂輝の母親は人間だった。 天寿を全うしたあとに化け物たちにその体をとられないように政府の運営する人と付喪神の住んでいるところの墓に埋葬したという。
そこに住んでいる者たちは化け物たちに迫害などを受けて避難してきた者たちばかりで、化け物を見るだけで嫌悪する者もいる。
「見た目で確実に妖怪だとわかる大和を連れていったら大騒ぎになるだろ? だから来んなって言ってんのに聞きやしねぇ。 だから力づくで黙らせるしかなくて…… めんどう」
「そうなんですね…… 大変だ」
「あれがもう三十年以上も続けられてるんだぜ? いい加減にしてくれねぇかな…… 」
三十年という言葉に由希は首をかしげた。 たしか大和の年は三十から四十だと聞いたはず。 由希の疑問を浮かべた表情に顔をしかめた昂輝は由希の鼻をつまんだ。
「聞きたいことがあるなら聞け。 疑問を浮かべて変な顔をされるほうがよっぽどうぜぇ」
痛みで顔を歪める由希の姿にふんと鼻息をふきだした昂輝は湯船の中に手を沈めた。