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あーもうめんどうくさい

 ぽかぽか陽気。 

 今日はなにかいいことがあるだろうかと鼻歌をこぼしながら由希は駄菓子屋へと足を運んでいた。 店の外までただよってくるお菓子の香りにあとでこっそりつまみ食いをしようと顔をにやつかせながら店の中に入っていくとおかしな光景に遭遇。

「いい加減放せ! 」

 居間で行われているまだ若い妖怪たちのやりとり。 なぜか全裸の犬神を強く抱きしめて放そうとしない烏天狗の姿。 犬神の胸に顔を埋めて何度も首を左右に振り、嫌だと意思表示をする。

 その姿にため息をこぼす犬神の姿。 何度も烏天狗を叩くも返事すら返さないことにいら立ちをかくせない。

「俺を連れていくって言わない限り、絶対に放さない」

「だから! 何十年も言ってんだろうが! てめぇは連れていけねぇ!! 」

 シャワーを浴びていたのか髪を濡らした昂輝はそれを何度も振り回し、大和に拳を叩きこむ。 ひるむことなく昂輝を抱きしめる大和。

 そんな光景を横目に台所に向かうと頭に黒猫を乗せた大之助の姿があった。 大之助はというと興味がないというようにお菓子を作っている。 

 由希の姿を見つけた黒猫はにゃあと鳴き、由希の胸元に飛びこんできた。 

「やあ、由希。 もうすぐこれが出来上がるから店に並べておいてもらえるとありがたい」

 居間で行われていることなど気にしていない大之助は由希に別のお菓子を持たせた。 にゃあと鳴く黒猫は由希の胸元から飛び降りて、台所からでていく。

「居間でなんかいろいろと騒動がおきていますけど…… 」

「あぁ、大和が駄々をこねているんでしょ。 毎年のことなのにいつだってああやって駄々をこねて昂輝を困らせているんだよね。 いい加減にしたらいいのに、まったくいうことを聞かない」

 意味を理解しない由希は首をかしげつつも、居間へ戻ると背中から倒された昂輝に覆いかぶさり口づける大和の姿。 胸を押し返す昂輝の腕を畳に縫いつけて深く口づける。

 止めるべきだろうかと由希が考えていると昂輝と目が合った。 合ったと同時に頬を赤く染めた昂輝は大和の腹部に膝を叩きこむ。 

「由希が見てんだろうが!! 」

 咳きこむ大和から離れようとした昂輝を逃がさないと大和は足首をつかんだ。 みしりと音をたてる己の足に昂輝は顔を歪ませる。 

「じゃあ俺を連れていけ! 」

「このわからずやが! 」

 二匹の妖怪が激しく言い争う姿に由希はなにも言えず、とりあえずとお菓子を店に置きにいく。 後ろで声が響いているがなんとなく自分が入っていけないような気がして由希は息を吐きだした。

 お客様の姿はなく、呼び鈴を置いた由希は居間へと戻るとそばに倒れる大和と息を吐きだす昂輝。 そして己の拳を撫でる大之助の姿があった。

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