鏡よ鏡、怖いやつは?
残暑がまだまだ残る季節。
少しずつだが、色づき始めた木々たちが体を揺らす。 その度に舞う葉っぱたちの姿に秋が近いなと由希は思った。
「いい季節がきたね」
学校が終わった帰り道、由希は辰美とつまらない話をしながら歩いていた。 いつもと変わらない日常。
ゆっくり過ごすのもいいなぁと思っていたときに前からぶつかってきた少年に日常が壊れることを由希は悟った。
「な、なに? 」
由希と背格好はほとんど変わらない。
「すまない! 前を見ていなかった! 」
顔をあげた少年は由希と同じ顔をしていた。 驚く由希をよそに後ろから聞こえてきた足音たちに辰美は二人を咄嗟に奥の道に押しこんだ。 隠すように己の体で隠した辰美は由希と少年の口を塞ぐ。
その後ろを足音たちが去っていった。
「もう大丈夫だと思うよ」
辰美の言葉に安堵の息をもらした少年はゆっくりと膝をついた。 何度も息継ぎを繰り返して右足を撫でる。
その右足には不釣り合いな黒い鎖がつけられていた。
「あなたは…… 」
「由希、とりあえず場所をかえよう。 あいつらがまた戻ってくるかもしれないから」
聞きたかった言葉を飲み込んで由希は少年の腕をひっぱる。 その後を辰美がのっそりとついていく。
辰美の視線は少年に向けられていた。
「とりあえずここまでくればなんとか大丈夫かなぁ…… 」
たどり着いた由希の家で三人は息をついた。 安堵の息をもらす由希と同じ顔をした少年は何度も己の足をなでて感謝の言葉を述べる。
「助かったよ! やっと付喪神になれた途端にあいつらがいきなり目の色を変えて襲ってきたから大変だった」
「付喪神? 」
由希の言葉にあぁ、忘れていたと少年は手を叩く。 自分の胸に手を当てた少年はゆっくりと目を閉じる。
胸元がぴかりと光ったと同時に少年の手の中に一枚の手鏡が現れた。
鮮やかな刺繍の施された布の中に折りたたまれた手鏡。 目を開いた少年はそれを由希たちに向けた。
「俺の本体はこれなんだ。 昔、俺を買ってくれた人が後生大事にしてくれたおかげで付喪神になれたんだ」
すぐに手鏡を元に戻した少年の姿をまじまじと見つめた。
由希と瓜二つの顔をした少年の姿にまるで双子のようだと瞳で語る由希の姿にごめんねと少年は舌をだす。
「驚いて姿を君に変えてしまった。 ごめんね」
「すごい瓜二つだ。 見分けがつかないくらい」
まじまじと見つめる由希の瞳にちらりと視線を送り、目の前の付喪神に視線を送る辰美。