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晃輝の頬に触れた狐の男は額に口づけた。

やめろ、と晃輝が狐の男の頬を押すもやめようとはしない。

そんな狐の男につけられた緑色の校章を見て、晃輝と同じ学年だと由希は知った。

「どんな関係だろう? 」

由希の問いにさあ?と辰美はつまらなそうに答えた。 パンを口に含む辰美を横目に妖怪たちを見つめ続ける由希。

「いいじゃないか、大和の刻印がついているということはそういうことなんだろ? 」

晃輝の下半身に己を密着させて晃輝を抱きしめようとするも、気持ち悪いと晃輝は口にはせずに狐の男の肩を叩いた。

「この体を大和に開いて、好きにさせたんだろ? 」

晃輝の太ももに触れてそれはゆっくりと上に上がっていく。 びくりと身を震わせた晃輝の腰に腕を回す。

「いいじゃないか、俺にも体を開いてくれないか? 悪いようにはしないし、むしろ優しくするよ」

「触んな」

狐の男から離れようとする晃輝を逃がさないと言わんばかりに、その唇に口づける。

晃輝が否定の言葉を紡ぐ暇など与えずに狐の男は何度も己を重ねた。 胸を叩く晃輝の腕を頭の上で固定すると更に深く口づけた。 時折、熱を帯びた声や音が由希の耳に入ってくる。

思わず赤くなった頬に触れる由希を横目に見つめる辰美。

晃輝の腕を片手で抑えこんだ狐の男は晃輝の上着のボタンに触れる。 慣れた手つきでボタンを外していく男の姿に晃輝は目を細めた。

「優しくするからさ。 なんなら大和の刻印じゃなくて俺の刻印を」

「死にさらせ!! 」

吐き捨てた言葉と晃輝の右足が男の腹部にめりこむのは同時だった。

鈍い声もらして吹き飛んだ男の姿に晃輝はふんと鼻息をもらして、手を叩く。

「なんでてめぇの刻印なんざつけなきゃなんねぇ! 大和以外受け入れる気は」

「俺のほうが大和より強いよ」

晃輝が言い終わる前に一歩で間合いをつめた男は晃輝の首をつかんだ。 声をつまらせた晃輝の背を壁に押しつけた男は鋭い牙を剥きだしに。

太陽の光に照らされて輝く男の牙はとても鋭く、由希の瞳に写った。 一度噛みつかれれば、身を切り裂くなど容易に見えるそれから逃げるように晃輝は己の首に手をあてた。

「それは、やめたほうがいいと思いますよ」

そんな由希にとって聞き慣れた声が屋上に響いた。

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