手作りケーキ
「由希、てめぇは甘いもの食うか? 」
今日も快晴。
学校にたどり着いた由希を待っていたのは、眉間にシワをよせたまま教室の入口に立っている犬神の姿だった。
後輩たちからは怖いと恐れられている晃輝がそこに立っており、由希の姿を見つけると声をかけてくる。
廊下にいた生徒たちは晃輝を避けるように廊下の端に寄ってしまい、必然的に晃輝は真ん中を歩くことになった。
時折、晃輝と後輩たちの視線が合うとひっという小さな悲鳴が由希の耳に入ってくる。
「甘いものですか? 」
「食うか? 食わないか? 」
「食べます! 」
「じゃあ、昼休みに屋上に来い。 辰美とな」
それだけを告げた晃輝は踵を返して去っていく。 辰美と視線を合わせて、どうしたのだろうかと二人で首をかしげた。
「授業を始めるぞー」
晃輝と入れ替わりでやってきた教師の姿に生徒たちは各々の机に戻っていく。
なにを貰えるのだろうかと由希は思わず鼻歌をだしてしまい、教師のチョップを食らった。
早く早く。
早く昼休みにならないかなと由希は楽しみにしていた。 果たしてどんな甘いものを貰えるのだろう。
「晃輝さん、なにをくれるんだろうね? 」
昼休みのチャイムが学校に鳴り響いた。
やっと昼休みと荷物を片付けた由希のそばに辰美がやってくる。 手にはもちろん、いつも食べるパンを手に数個。
由希はというと墨が作ったお弁当箱。
「早く屋上に行こう! 楽しみだなぁ」
興奮する由希の背中を辰美は押す。
足早に進む由希は屋上の扉をゆっくりと開いた。
「いいじゃねぇか、少しくらい」
由希が声をあげる前にそんな声が聞こえてくると由希の口を塞いだ辰美。
端の方に身を隠した由希たちはその様子をちらりと盗み見る。
「由希、大人しくしてて。 巻き込まれるとなんかめんどうくさそうだよ」
辰美の言葉に由希はゆっくりと頷いた。
由希たちの視線の先には壁に背をつけられた晃輝とその前に立つ狐の尾を九つ生やした男。 晃輝を逃がさないように晃輝の両頬の隣に手を置いていた。
晃輝はつまらないというように目の前の男から視線を逸らしたまま。
「大和を受け入れたんだろ? 俺でもいいじゃないか」
「なんでてめぇなんか…… 」
晃輝の声から苛立ちが募っているのがわかる。